Androidタブレットで一人勝ち、NECPCに聞く「LAVIE Tab T14/T9」の狙い 高額だが「iPadと比べても十分戦える」

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2024年03月29日 06:11  ITmedia Mobile

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14.5型のタブレット「LAVIE Tab T14」

 iPadのシェアが高いタブレット市場だが、コロナ禍をきっかけに、Androidも徐々にそのニーズを回復させている。そんな中、日本市場でAppleを追うメーカーとして存在感を示しているのがNECパーソナルコンピュータ(以下、NECPC)だ。調査会社IDCのデータによると、23年9月時点での同社の店頭市場シェアはAndroidタブレットの中で37%を占める。NECレノボ・ジャパングループ全体では、69%にも達する。Androidタブレット市場では、一人勝ちと言っても過言ではない。


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 そのNECPCが新たに送り出したハイエンドタブレットが、14.5型の「LAVIE Tab T14」と、8.8型の「LAVIE Tab T9」だ。どちらもディスプレイにはコントラスト比が高く、発色のいい有機ELを採用。ペン入力にも対応する。前者はプロセッサにMediaTekの「MediaTek Dimensity 9000」、後者はクQualcommの「Snapdragon 8+ Gen 1」を採用し、ハイエンドにふさわしい処理能力も備える。NEC Directでの価格(税込み)は、T14が14万2788円から、T9が9万8780円から。


 一方で、Androidタブレットはどちらかといえば、低価格帯から中価格帯の製品が中心。ハイエンドタブレットは、市場の空白地帯になっている。では、なぜNECPCはこの分野に新製品を投入しようと考えたのか。2機種との特徴ととともに、その狙いを語ってもらった。インタビューには、レノボ・ジャパンのコンシューマー事業本部 営業戦略部 マネージャーの中津留隆氏と、NECパーソナルコンピュータの商品企画本部 Tablet & Smart Device Groupの堀川広行氏、NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部・ソリューション企画Gの石田陽一氏が応じている。


●Androidタブレットの「安かろう、悪かろう」のイメージを払拭したい


―― 2機種は、Androidタブレットでは珍しいプレミアムモデルです。まず、この市場に端末を投入する狙いをお聞かせください。


中津留氏 プレミアムを入れた理由は、大きく2つあります。1つは、NECPCとしてここに市場があると思っていることです。この市場に端末を投入しているメーカーは非常に少ない。サムスンさんは出していますが、他のメジャープレイヤーはほとんどいません。もう1点、Androidタブレットはコスパのいいイメージが強いですよね。言葉を選ばず言えば、「安かろう、悪かろう」のイメージがある。このイメージを払拭したいという思いがありました。2機種はiPadと比べても十分戦えるスペックで、お客さまにも十分訴求はできると思っています。


―― とはいえ、2機種ともコスパが悪いわけではないですよね。費用対効果という意味では、高いスペックの中ではそれなりに値ごろ感はあると思います。


中津留氏 それはあります。コスパの良さという強みは、この2機種にも間違いなくあると思っています。


―― ターゲット層ですが、どのようなユーザーを想定しているのでしょうか。


中津留氏 クリエイターが主なターゲットです。特にT14に関しては大きな画面でスペックも高いので、動画の編集まで含めてやっていけると思っています。逆に、T9はビジネスマンや、アプリをサクサク使いたいと思われている方に向けた端末で、もう1つ、ゲームをされたい方も視野に入っています。負荷が高いソフトで分かりやすいのはゲームだと思います。


―― ゲームだと、スマホを使ってしまうような気がしますが、タブレットでやりたいというニーズもあるのでしょうか。


中津留氏 弊社の中で調査を行いましたが、タブレットでゲームをしたいというニーズは確かにあります。私の推測も入ってしまいますが、スマホは画面が小さいので、もう少し画面が大きい方がいいと思われている方がいるのではないでしょうか。ゲームニーズがあることは、つかんでいました。


堀川氏 スマホとの差別化としては画面の大きさもありますが、「音」もあります。チューニングのところではDolby Atmosを搭載していますし、スピーカー自体もなかなかいい音になりました。スピーカーの容量が、スマホより大きいですからね。それもあって、ゲームや動画視聴の迫力では、スマホに勝っているのではないかと思っています。


●価格のバランスを見てプロセッサを選定も、「高い」という反応が多い?


―― どちらもハイエンドなタブレットですが、チップセットがT14はMediaTek製、T9はQualcomm製です。ここは、なぜ違いがあるのでしょうか。


堀川氏 商品の価格なども踏まえて決定しています。それでもユーザーの声として「高すぎる」という意見があることは把握していますが、コストと性能のバランスでSoCを採用しています。最上位チップを使うと価格も高くなりますし、開発視点からすると、商品決定時期や開発日程などのすり合わせが必要(よりタイト)になります。サンプルがいつ出るのか、量産はいつ可能になるのかといったことがより厳しくなる。それも踏まえて、最適なものを選択し、Dimensity 9000とSnapdragon 8+ Gen 1になった経緯があります。ベンチマークを取ると、若干後者の方が高い数値は出ますが、体感できるようなものではありません。


―― 最新のチップではないのも、価格をセーブするためだったんですね。


堀川氏 1年程度前のものではありますが、最新チップだと、どうしても時期の問題も出てきます。もちろん、これ以上製品価格が高くなるのも厳しいですね。


中津留氏 今でも残念ながら、高いという声は出ています。


堀川氏 量販店に紹介に行った際にも、高いと言われてしまいました(苦笑)。


―― やはりAndroidタブレットは安いというイメージが根強いということでしょうか。


中津留氏 そういった要素はあると思っています。ボリュームゾーンは大体3万円から5万円ですからね。その中で10万円前後という価格は、良くも悪くもインパクトがあったと思っています。T9は税込みでギリギリ10万円を切っていますが……。


―― 一方で、このスペックだとある意味、適正な価格帯という印象もあります。「高い」以外のポジティブな声もありましたよね。


中津留氏 T9は初めてのポジショニングの商品だったので、「こういうのが欲しかった」という声は多かったですね。この価格帯のモデルとしてはですが、十分売れていて、結果的に受けは良かったと思っています。量販店にご説明に行った際にも、確かに高いという声はありましたが、コンセプトはきちんと評価いただけています。


 T14も似たようなところがありますが、イラスト制作や動画編集をされている方には、非常に人気です。この価格帯なので売り上げは心配していましたが、順調に立ち上がっています。やはり、2機種ともニーズがあった商品だったと思っています。


●USB Type-Cポートを2つ搭載して拡張性も重視


―― 高機能タブレットとしてAndroidという枠を取り払うと、やはりiPadのシェアが高いと思いますが、2機種はどちらもディスプレイが有機ELで、やはり映像がキレイですね。


堀川氏 はい。ディスプレイは有機ELですし、T14に至っては8つもスピーカーが搭載されていて、しかもJBL製です。製品のトータルバランスとしては、iPadより優れている点もあると思っています。また、これら2機種は今回、USBポートを2つ用意していて、拡張性の面でも大きなメリットになります。PC連携で、「つながるLAVIE」をプリインストールし、画面拡張やファイル共有の利便性を高めているのも、競合他社にはない強みだと思っています。


―― USB Type-Cのポートが2つある端末は珍しいですね。ゲーム用にもよさそうです。


堀川氏 はい。Androidタブレットには今までなかった仕様です。


石田氏 FPS(ファースト・パーソン・シューティング=1人称視点のシューティングゲーム)では横持ちすることもあるので、その際に横だけでなく、下(縦に持ったときの横)でも充電できるよう、ポートを搭載する位置を変えています。


―― T14に関しては、持った場合の位置というより、拡張性を重視した感じでしょうか。


石田氏 確かに画面が大きく大迫力かもしれないですが、持ってゲームするのは厳しいかもしれません。


―― 外部モニターも利用できますしね。


堀川氏 業務面ではセカンドモニターにはかなりのニーズがあり、業務効率が上がると思っています。今回はワイヤードですが、ディスプレイイン・アウトの両方をサポートし、親にもなるし、子にもなれる仕様です。「つながるLAVIE」を使うとPCが旗艦になり、タブレットは拡張モニターとしてしか使えませんが、T14に関してはディスプレイアウトにも対応しているため、逆に旗艦にしてモニターをつなぐことも可能になります。


―― 持ってゲームするのは厳しいというお話でしたが、そこまで重くはないですね。


堀川氏 700g台です。14.5型というサイズの割には軽いと思っています。ただ、キーボードとセットで使うと重量が倍になってしまうのですが(笑)。


―― キーボードには、PCを開発してきたノウハウも生きているのでしょうか。


堀川氏 そうですね。キーピッチやキーストロークにはこだわりを持ってやっています。タッチパッドも、大きさやクリック感にこだわりました。「Fn」キーなどもPCと同じサイズで使いやすいですし、「109/JIS配列」なので親しみやすいのではないかと思います。


●PCのように使えるモードも用意 デジタルペンは4096段階の筆圧検知に対応


―― PC的に使えるという点では、PCモードもありますね。


堀川氏 プロダクティビティモードということで、2年前ぐらいから入れている機能ですが、LAVIE Tab T11以上の専用オプションとしてキーボードを用意している機種が対応しています。Googleはスマホだけでなく、タブレットも使い勝手をよくする方向で頑張っていて、これもAndroid独自の機能です。


―― T14は、クリエイター向けを強く打ち出していますが、ペンに対して何か取り組みはありますか。


堀川氏 描画性能はなるべく向上させたいと思っています。「CLIP STUDIO PAINT」のセルシスさんには事前に端末をお出しして、検証していただくといったこともやり、描画性能の向上に取り組みました。月並みではありますが、こだわったのは4096段階の筆圧検知やチルトセンサーで、パームリジェクションも当然サポートしています。独自機能という観点では、Bluetoothのインタフェースでボタンを付け、各種リモコン操作などに使えるようにしています。ロストアラーム機能も入れ、非接触充電対応にもこだわりました。


 ちなみに、デジタルペンには2種類あって、「デジタルペン2」はT14向けで、こちらは磁石で本体にくっつけて充電ができます。一方のT9用は「デジタルペン3」で、形状は似ていてボタンもついているのですが、非接触充電には対応しておらず、USB Type-Cのポートにつなげて充電する仕組みです。


―― ペンが2種類あると少しややこしいですが、互換性はあるのでしょうか。


堀川氏 プロトコルはどちらも「LPP」(レノボ・ペン・プロトコル)ですが、T14用のデジタルペン2は1.0で、T9用のデジタルペン3は2.0になっていて、少し改善している部分があります。相互に入れ替えて使えるかというと、それはできません。


●セルラーモデルは予定なし Wi-Fiモデルの方が需要が大きい


―― 2機種ともWi-Fiモデルですが、セルラー対応についてはどうお考えでしょうか。


中津留氏 どこかのタイミングではあるのかもしれませんが、今のところ、ニーズが読めていません。今回のモデルは、かなり特徴があるとがったタブレットだったので、いったんはWi-Fiから入りました。


―― 対応すると相応のコストアップにはなると思いますが、どちらかと言うとニーズの問題でしょうか。


中津留氏 まずはニーズの問題という認識です。欲しいというお客さまはいるとは思いますが、Wi-Fiモデルで十分という方が多いのも実態です。


―― レノボとはすみ分けをしているのでしょうか。


中津留氏 共同開発しているのでかぶる部分は多少ありますが、NECPCの方がフルラインアップになっています。レノボは一部、Yogaシリーズのようなとがったものを入れていますが、比較的安めのものが多く、スペック的に差別化してブランドの立ち位置を変えています。


―― レノボのブランドではキャリアモデルも出し、セルラー対応しています。ああいった形の端末をNECPCブランドで展開する可能性はありますか。


中津留氏 今の時点では残念ながら具体的な話はなく、Wi-Fiにフォーカスしています。やはり、先ほどお話ししたように、今見えている範囲だとWi-Fiモデルの方は需要が大きい。NECPCでもドコモさんと一緒に販売はしましたが、あれもWi-Fiモデルです。


―― XiaomiやOPPOといった中国メーカーが続々とタブレットを投入し始め、競合が増えています。こういった市場環境については、どうお考えでしょうか。


中津留氏 そういったメーカーの商品は、価格帯としてボリュームゾーンのものが多いと思いますし、弊社でもそこと比べていただけるような商品は今後も出していきたいと考えています。今回はプレミアムですが、NECPCとして訴求できる商品は出していきますし、そこを無視しているわけではありません。


●取材を終えて:セルラーモデルも選択肢に欲しい


 タブレット市場を見ると、確かにAndroidはミドルレンジモデルが増えている一方で、LAVIE Tab T14/T9のようなハイエンドモデルの数はまだまだ少ない。NECPCとしては、ここにチャンスがあると見たようだ。ゲームを除くコンテンツを消費するだけであればミドルレンジモデルでも十分だが、イラストや動画といったコンテンツ制作にはどうしてもスペックが必要になる。


 一方で、特にコンパクトなT9に関しては、ゲームがユースケースに挙げられていたように、やはりセルラー対応モデルも選択肢にあった方がいいような気はした。テザリングすれば回線はまかなえるものの、単体で通信できれば利用シーンが広がるからだ。価格とどう折り合いをつけるのかが課題になりそうだが、今後の展開にも期待したい。


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