「ハイチュウ→HI-CHEW」になってどうなった? 意外な人に売れた秘密

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2024年05月09日 09:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「ハイチュウ→HI-CHEW」になって、どうなった?

 グリコのポッキー、ヨックモックのシガール、ブルボンのアルフォート――。一度は食べたことがある人も多いかと思うが、ある共通点がある。「海外でも売れている」ことだ。このほかにも海を渡って現地の人に愛されているお菓子はたくさんあるが、筆者が気になったのは森永製菓の「ハイチュウ」である。


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 「ハイ、ハイ。それどこかで聞いたことがあるよ。米国の大リーガーがよく食べているとかで人気に火がついたよね」と思われたかもしれないが、その通りである。ハイチュウは1975年に生まれて、今年で49歳。グレープやストロベリーなど20種ほど展開していて、現在30以上の国と地域で販売している。


 ハイチュウが海外展開を始めた歴史をさかのぼると、20年以上前の話になる。2000年に台湾で販売して、その8年後に米国に上陸。同社の決算説明資料を見ると、米国での売上高(2022年度)は146億円で前年比138.9%。販売店率(商品が販売されている店数の割合)は70.0%→77.4%に伸びていて、好調に推移している。


 海外でも特に米国での人気が止まらないようだが、同社は今年の2月に大きな決断をした。ブランドロゴをカタカナの「ハイチュウ」から英語表記の「HI-CHEW」に変更したのだ。このニュースは話題になっていたので「知ってる、知ってる。何をいまさら?」などと思われたかもしれないが、個人的に気になっているのは“その後”である。


 英語表記にした理由について、森永製菓は「ハイチュウは日本だけでなく広く海外でも親しまれている。たくさんの方に愛されているグローバルブランドを目指す」というが、ここはジャパンである。50年近く親しまれてきた「ハイチュウ」をわざわざ英語に変えることで、売り上げが「ハイ→ロー」になってしまっては、元も子もない。


 では、変更後の売り上げはどのように推移しているのか? 気になる答えを紹介する前に、英語になった経緯について紹介しよう。


●「英語とカタカナの両論併記」で決着


 海外で販売されているハイチュウは、どのような言葉が使われているのか。英語圏、スペイン語圏、中国語圏など、その国・地域によって違うのかなと思いきや、日本以外では「HI-CHEW」である(ロゴに並列して現地の文字を記載しているモノもあり)。海外での売り上げが伸びていく中で、社内からはこのような声があった。「外国人観光客も増えているので、何か手を打つ必要があるかも。商品が店頭に並んでいたら、すぐに気づいてもらいたいよね」と。


 しかし「じゃあ、ロゴを変えようか」といった話にはならなかった。理由は「歴史」だ。先ほど、ハイチュウは「1975年に生まれた」と紹介したが、日本では半世紀にわたってカタカナで表記してきたこともあって、変更することに高いハードルがあったようだ。


 では、何がきっかけで「カタカナ→英語」への動きが加速したのか。ひとつは「組織の体制」である。2023年、社内に「グローバル推進室」を設け、海外でハイチュウを売っていこうという気運が高まったという。


 長年もやもやしていたロゴ問題が動き始める。社内で「カタカナは残したほうがいいよ」「いやいや、なくしたほうがいいのでは」といった議論がある中で、2023年夏、パッケージに「英語のみ」のモノを試験的に販売した。結果は「非常に好評でした」(マーケティング本部の堤崇将さん)とのこと。


 英語のロゴは受け入れられることが明らかになったが、本当にそうなのか。念のためもう一度調査したところ「英語とカタカナの両論併記」が最も支持されていることが分かってきた。


 こうした背景があって、2月から「両論併記」の商品が誕生した。で、反響はどうだったのか。小売店の販売データを見ると、前年同期と比べて「2ケタ増」という結果に。外国人観光客に手に取ってもらったこともあるが、「Z世代の売り上げが伸びた」(堤さん)という。どういうことか。


●若い人に売れている理由


 ハイチュウを購入しているメイン層は、30〜40代の女性である。スーパーやコンビニの棚に並んでいる商品を手に取って、子どもに渡す。「そういえば、子どものころ自分も食べていたなあ。けど、中学生くらいになってからは食べなくなったよ」といった人も多いかもしれない。


 ということは、次のような“流れ”が成立する。子どものころによく食べた→中学生くらいから遠ざかる→大人になって子どものお菓子に購入→ついでに食べる→子ども向けor自分用に購入→また食べる。このように、10代の半ば〜20代にかけて“離れてしまう”課題があったそうだ。


 にもかかわらず、なぜ若い人の“胃袋”をつかみつつあるのか。その理由について、堤さんは次のように語った。「子どものころに食べていたこともあって、『ハイチュウ=子どものお菓子』といったイメージを持っている人が多いのかもしれません。しかし、英語にしたことで、Z世代で『カッコいいね』『久しぶりに買って、食べてみようか』と感じる人が増えているようです」。あくまで仮説ではあるが、現状、これ以外に購入理由が見つからないようである。


 話は変わるが、日本で一番人気のフレーバーは「グレープ」だそうだ。しかし、米国は嗜好(しこう)が違うようで。「ストロベリー」が最も売れていて、次いで「マンゴー」「スイカ」「グレープ」「グリーンアップル」と続く。日本では販売されていないフレーバーもあるので、ロゴが輸入されたように、フレーバーも“ハイ”ってくるかもしれない。


(土肥義則)


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