KDDI高橋社長が語る新戦略 ローソン協業でPonta経済圏をさらに拡大、5Gは“auだけ”の強みを生かす

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2024年05月11日 16:41  ITmedia Mobile

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24年3月期の連結業績。減益だが、一時的な影響を除くとわずかに増益

 KDDIは5月10日、2024年3月期の連結決算を発表した。売上高は前年比1.5%増の5兆7540億円、営業利益は同10.7%減の9616億円の増収減益だった。政情不安のミャンマーにおける事業の債権引き当てなど一時的な影響があったため減益となったが、それを除けばわずかながら増益になる指標で、「一時的な影響以外は非常に順調」と同社の高橋誠社長はアピールする。


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 特に携帯料金の値下げ影響による通信ARPU収入の減少から反転し、増収に転じたことが同期の特徴で、高橋社長は「やっとトンネルを抜けた感じがあり、ARPUの反転は非常に明るいニュース」だと安堵(あんど)の表情を見せた。


●ミャンマーなどの影響で減益も事業は順調


 連結営業利益では、モバイル事業におけるグループMVNO収入と楽天ローミング収入が前年同期比411億円と大幅減。それに対して減収続きだったマルチブランド通信ARPU収入が50億円の増とプラスに転じた。DX、エネルギー事業もプラス成長で、金融事業は住宅ローンの会計処理変更による一時的影響があって182億円の減少となったが、それを除いて142億円のプラス。


 こうした収益を積み上げると1兆806億円になり、前年比で32億円増とほぼ横ばい。これに設備撤去などの引き当てやミャンマー事業の引き当てといった一時的影響1190億円が減益要因となり、最終的に9616億円の営業利益となった。


 主力となるモバイル事業では通信ARPU収入が増収となり、それ以外の注力領域であるDX事業や金融事業、エネルギー事業が2桁成長を達成して順調な進捗(しんちょく)。モバイル事業のエリア展開では5G開設計画を完遂し、業界最多という約9.4万局の5G基地局を設置した。


 中期経営計画に対する進捗では、ARPU収入増加は「目標に対してややビハインド」という状況だが、プラスに転じたことで進展。注力領域の利益目標は約470億円となり、燃料市場高騰のエネルギー事業が足を引っ張る。とはいえ、着実に進展して順調というのが高橋社長の見立てだ。


 1株あたりの利益(EPS)について、2019年3月期と比べて1.5倍にするという中期経営戦略は、通信料金の値下げ、燃料市場高騰、ミャンマー政変という想定外要因が重なったことで達成が困難になったとして1年延長。2026年3月期での達成を目指す。


●生成AI基盤整備に取り組む ソフトバンクとの違いは?


 今後の注力領域としてKDDIではAIにも取り組む。通信会社として、あらゆるシーンに通信が溶け込んでいると高橋社長は説明。今後はAIが社会に溶け込んでいくと見越して取り組みを強化する方針だ。


 まずはインフラ整備として、生成AI基盤整備に取り組む。大規模な計算が可能な基盤を整備して、協業するスタートアップなどの技術を導入して生成AIのモデルを構築していく。さらにAI活用には低遅延が必要となるとして、5G MEC設備に計算リソースを配備することで生成AIを快適に利用できるようにする。


 計算基盤構築では、中長期の設備投資として約1000億円規模を投入。経済産業省の助成金約102億円も活用しながら、GPUなどを集積した基盤を構築する。MEC設備は、同社の全国8拠点の通信センターを活用して低遅延のAI処理を可能にする。


 こうした取り組みはソフトバンクも強化しており、投資金額も1500億円規模と大きい。高橋社長は、ソフトバンクはLLMを開発することで投資金額が大きくなっているとして、「PCの世界でいうとWindowsを作るようなイメージ」と表現する。これに対してKDDIは「Linuxみたいなイメージ」(高橋社長)であり、オープンなLlama 2などの技術を持つスタートアップなどと組み合わせてファインチューニングを繰り返して構築していく方針。この方針に基づき、まずは2026年度末までに1000億円程度の基盤を作り上げる。


 通信インフラについては、今後O-RANなどの仮想化ネットワークが登場してくる中で、生成AIのインフラと共存し、GPUを共用するのかどうかという課題が出てくるのだと高橋社長は説明。ソフトバンクはAI-RANとしてこれに取り組む方針だが、高橋社長は慎重な姿勢を示し、「(ソフトバンクのように)先に行きすぎると失敗するような気もしている」と話す。


 「この1〜2年、非常に重要な対応になってくる」と高橋社長は強調し、慎重に検討していく考えだ。


●ローソンと取り組む「コンビニ×AI」 auスマートパスプレミアムは「Pontaパス」に


 AIを活用したもう1つの取り組みが、ローソンと協業した「コンビニ×AI」だ。コンビニエンスストア事業にとって次の成長にはAIやDXの活用が必要だと高橋社長。ローソンの業績自体は「非常に好調に推移していると聞いている」(同)とのことで、これを加速するためにAI・DXを活用する。


 そこでまずコンビニの小商圏データとKDDIの位置情報・顧客の趣味嗜好(しこう)データを連携し、AIを活用して利用者に合わせた購買体験として「フリクションレス決済」や「最適なレコメンド」を提供。店舗スタッフ向けにも省人化で業務負荷軽減を実現する。これによって「1店舗あたりの売り上げ拡大、収益力の向上に貢献していきたい」と高橋社長。


 さらにコンビニをKDDIのリアル接点として付加価値を付与する。KDDIは全国約2000店のauショップに加えて、au PAYユーザー約3500万人とauスマートパスユーザー約1500万会員という設定を有している。


 ここに全国1万4600店舗というローソンの店舗を接点として加える。リモート接客を用いることで、ローソン店舗でスマートフォン契約などの手続きや故障修理、服薬指導、禁輸・保険相談などが実現できる。


 さらに、この1万4600店という店舗立地を活用するプラットフォームビジネスも想定する。ここに基地局やエッジAI、ドローン拠点、防犯・防災拠点、EVステーションなどを設置することで、ローソンの付加価値を向上させる狙いだ。


 もともとローソンとは共通ポイントPontaで連携していたが、提携に至ったことでPonta経済圏の拡大に寄与することも目指す。ロイヤリティマーケティングとの関係も強化し、三菱商事を加えた4社でPonta経済圏を拡大していくことに「再度取り組んでいきたい」と高橋社長。


 その一環として、クーポンなどのお得なサービスを提供する有料のサブスクリプションサービス「auスマートパスプレミアム」をリブランドして「Pontaパス」に刷新。ポイントや特典の強化、商品レコメンドなどの機能を提供しつつ、ローソンの商材も加えることでローソン店舗への送客も図る。


 ローソンでの会員獲得も行うことで、現在の1500万加入から2000万加入までは拡大できる、と高橋社長は見込む。


 こうした新しい取り組みを行うローソン店舗について、同社の高輪ゲートウェイ移転に伴い、本社内に新店舗を設置して検証していく方針。


●「auマネ活プラン」は7カ月で70万契約を突破して「非常に好調」


 5Gを中心に、DX、金融、エネルギー、LX(ライフトランスフォーメーション)、地域共創に注力する「サテライトグロース戦略」も見直す。これまで2022年から2024年までの中期経営計画だったのが、1年延長して2025年までの取り組みになったことで、特にAIによる付加価値を追加する。


 主力のモバイル事業はスマートフォンとIoTの回線数が戦略の基盤となることから、2025年度末までに8200万超の回線数を目指す。ここに決済・金融、でんき、補償、コンテンツ、ローソンといった付加価値を加えて、さらにローソンやau PAY加盟店といった顧客接点やID数の拡大も図る。ここに対して、AIやデータ分析によって顧客へのメリットを提供する付加価値の強化も図る。


 これによってARPUの収入を拡大させ、持続的に成長させる。でんき以外の付加価値ARPUは年平均2桁成長を狙う。


 現時点では、auマネ活プランがその1つの手法で、7カ月で70万契約を突破して「非常に好調」だという。解約率の改善、通信ARPUの向上に加え、au PAYカードの加入率4.4倍、au PAYカードゴールドの選択率3.5倍、auじぶん銀行の口座契約数が倍増といった効果も生まれているそうだ。


●5G Sub-6のエリアを一気に拡大 「Sub-6を2つ最大限に使えるのはKDDIだけ」


 ネットワーク面では、衛星電波との干渉で出力が抑えられていた基地局について、その条件が緩和されたことで、一気に5G Sub-6のエリアが広がることになる。Subー6基地局は業界最多という3.9万局を設置しており、出力がアップするため、2024年5月末には首都圏でのエリアが約2倍になる見込みだという。


 「パワーコントロールを4月から5月末までに完了するので、Sub-6エリアはすごい勢いで広がっている。歴史上、この短期間でエリアを拡大していくことがなかったので注目している」と高橋社長。


 出力アップ後は、Sub-6のデータトラフィックが約2割増加し、スライス技術を導入することでサービスごとにネットワークを構築できるため、体感品質の向上にもつながると高橋社長は自信を見せる。


 こうしたコアの事業に加えて、サテライトとなるDX、金融、エネルギー、LXといった事業を成長させることでさらなる成長を図っていくのが新サテライトグロース戦略だ。


 こうした戦略によって、2025年3月期の連結業績予想として、売上高は同0.3%増の5兆7700億円、営業利益は同15.4%増の1兆1100億円、当期利益は同8.2%増の6900億円を目指す。


 楽天ローミング収入の減少は約170億円と減少幅が縮小。通信ARPU収入は約140億円、注力領域は約330億円、ローソンの利益などで約140億円の増加を計画。トータルでは294億円の増益を目指す。


 高橋社長は、通信APRU収入の増収に加え、Sub-6のエリアが広がって、DX・金融・エネルギーの2桁成長が継続して成長を加速すれば、「1年遅れではあるが、中期経営計画の達成も視野に入る」と高橋社長は話している。


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