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シャビ・アロンソ監督率いるレバークーゼンがリーグ無敗優勝&EL決勝進出。5位のドルトムントもCLで決勝を戦う。今季ブンデスリーガ勢はなぜ強くなったのか? 欧州サッカーを長年見てきたライターが分析した。
【今季の結果はブンデスリーガのレベルアップと捉えるべき】
ブンデスリーガは長くバイエルンの1強だった。昨季まで11連覇。ドイツでは図抜けた特別なクラブであり、欧州の強豪でもある。ところが、2023−24シーズンは3位だった。バイエルンの失敗ともいえるが、むしろブンデスリーガがレベルアップしていると捉えるべきだろう。
優勝したのはレバークーゼン。無敗優勝の快挙であり、ヨーロッパリーグ(EL)決勝進出も果たした。そして5位のボルトムントもチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出。バイエルンは準決勝でレアル・マドリードに敗れたが、CL4強にドイツのクラブが2つ入っていたわけだ。
今季は3位に転落したバイエルンだが、個々の選手の能力は相変わらず高い。ブンデスリーガの構造はバイエルンとその他になっていて、それはチーム作りにも表われている。
個の能力で抜きんでていて隙のないバイエルンは、どういう試合展開になっても強いオールマイティなチームだ。個々の能力、資金力で太刀打ちできない他チームは、バイエルンと同じことをしても勝ち目がない。オールマイティを目指したところで平均化してしまうだけ。そこで、自分たちの長所を最大限に引き出す尖鋭的な戦い方を目指すことになる。
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今季4位のライプツィヒは、若さと走力を前面に押し出した戦い方で、ブンデスリーガに新風を吹き込んできた。それ以前からバイエルンのライバルだったドルトムント、今季2位に躍進したシュツットガルトも、自分たちの特徴を尖鋭化させている。
【特別な存在だったレバークーゼン】
そんななか、突如として頭角を現したのがレバークーゼンだった。
特化型のなかでも、特別な存在といっていいだろう。欧州連続無敗の記録を更新できたのも、いわゆる「自分たちのサッカー」がひとつではなかったからだ。
ホームでバイエルンに3−0と快勝した試合(2月10日)、あるいはEL準決勝のローマとの第2戦(5月9日)では、5バックで構えた守備的な戦い方をしていた。
レバークーゼンは、本来攻撃的なチームだ。3バックと2ボランチの5人を中心とした距離の短いパスワークで相手を引き寄せ、まとめて置き去りにする。偶然に頼らず、意図的にカウンターアタックを創出できる強みがある。
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隙間受けからのシュート、ラストパスで世界有数の実力者となったフロリアン・ビルツ。サイドアタックでスピードを生かすジェレミー・フリンポン、アレックス・グリマルドなど、アタッカーがそれぞれの得意芸を遺憾なく発揮する。その仕組みを作ったところに、シャビ・アロンソ監督の構想の確かさがあった。
しかし、例のバイエルン戦ではいつものハイプレスではなく少し引いて構え、バイエルンにボールを持たせていた。
この試合で、バイエルンはシステムをレバークーゼンに合わせている。システムを噛み合わせ、1対1の勝負にして上回る作戦だった。トーマス・トゥヘル監督はシュツットガルト戦(2023年12月17日)でこれをやって、ボール支配率37%で3−0の勝利を収めていた。レバークーゼンに対しても、パスワークを個の戦いに分解してボールを奪い、カウンターでハリー・ケインやジャマル・ムシアラの個人技を生かしてねじ伏せる算段だったはずだ。
ところが、レバークーゼンは攻めてこないし、前から奪いにもこない。バイエルンはボールを持たされる状況となり、いつもとシステムが違うせいか、ぎくしゃくしたビルドアップを狙い撃ちにされた。おそらく思っていたのとは正反対の展開になっていたのではないか。
結局、レバークーゼンは34試合で24失点しかしなかった。もちろんリーグ最少。ボールを持てるチームだが、守る時は5バックでしっかり守れる。相手が本来の特徴である攻撃力を潰しにくるなら、わざとボールを持たせてひっくり返してしまう。手の内で転がす戦略性と戦い方の幅は、ただの特化型に収まらないスケールだ。
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【強豪耐性のあるドルトムント】
昨季、最終節で優勝を逃したドルトムントは、レバークーゼンに比べると普通のチームである。
得点はブンデスリーガ5強のなかでは最も少なく、失点数もバイエルンに次いで多い。有力な選手を揃えているが、いわば小型のバイエルンといえなくもない。
しかし、格上の強豪がひしめくCLではむしろ割りきった戦い方で勝ち抜けてきた。守備の機能性が高く、縦にコンパクトなだけでなく、横半分にフィールドプレーヤーほぼ全員が入り込む圧縮をみせる。そしてドニエル・マレン、ジェイドン・サンチョ、カリム・アデイェミの俊足ウイングがカウンターを仕掛けていく。
準決勝のパリ・サンジェルマン戦の第2戦(5月7日)では、用意周到さを見せていた。
個の能力で圧倒的なキリアン・エムバペにどう対処するかが焦点だったが、ドルトムントはエムバペに対してどう守るかよりも、エムバペの背後を攻撃することで活路を拓いている。
左ウイングのエムバペは守備の時は戻らずに前線に居残る傾向がある。カウンターの切り札として前残りさせているわけだが、その分ドルトムントはタイミングよく右から攻め込めば、数的優位を作れる可能性があった。
そこでビルドアップでは左側にボールを展開し、PSGの3トップがドルトムントの4バックに対して右にずれながらプレスするように仕向けた。左ウイングのエムバペはドルトムントの右センターバック、マッツ・フンメルスをマークする形だ。そして、そこから一気に逆サイドへロングパスを送り、右サイドバック(SB)ユリアン・リエルソンをフリーにする。
リエルソンとサンチョのふたりに対して、PSGは左SBひとりという形になった。このルートで何度となく攻め込んでいた。エムバペが守備に下がってくれれば、それはそれで最大の脅威をゴールから遠ざけることができる。
【バイエルンという図抜けた強豪と格闘してきた成果】
ドルトムントは1度だけCL優勝を果たしたことがある。1996−97シーズンだ。
決勝のユベントス戦、ドルトムントは徹底的に左へボールを回していた。ゴールキックもほとんど左へつないでいる。ユベントスの左サイド、つまりドルトムントの右サイドにジダンがいたからだろう。ジダンのいないサイドで攻守を行ない、ゲームからジダンを切り離すことに成功していた。
ずいぶん前のことなので、こうした用意周到さが現在のドルトムントに受け継がれているかどうかはわからない。ただ、対策をしっかり立てて実行し、僅差勝負に持ち込むのは、ドイツのチームが伝統的に持っている強みだ。突出した武器を持った相手に対してどう戦うかは、バイエルンを相手に繰り返してきているという面もあるだろう。
少なくとも11年間、バイエルンという図抜けた強豪と格闘してきた。その成果が出た今季、対強豪が常態である欧州カップ戦でも結果を出せている。