レッドソックス傘下で苦しむ上沢直之 30歳で新たに挑戦するフォーム修正に「自分を信じてやるしかない」

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2024年05月28日 07:20  webスポルティーバ

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【マイナー降格後もアピールできず】

 ウースター・レッドソックスのクラブハウスに入ると、先発を終えたばかりの上沢直之がiPadでその日の登板を丹念に振り返っていた。

 メジャー再昇格を目指して試行錯誤を続ける上沢が5月22日(現地時間。以下同)、本拠地のマサチューセッツ州ウースターで行なわれたオリオールズ傘下ノーフォークとの3A戦で、3回を投げて4安打4失点(自責点4)、3四球3三振。その日の71球中、ストライクは34球のみと制球が定まらなかった登板を反省する真剣な表情が印象的だった。

「今日はこっちにきてから一番よくなかった。バッターと勝負するというか、ストライクを入れるので精一杯だったんで、『こういう結果になるよな』という感じです」

 photo by AP Photo/John Bazemore

 オフにタンパベイ・レイズとマイナー契約した上沢は、開幕前にボストン・レッドソックスに移籍。4月28日にメジャー初昇格を果たすと、レッドソックスでは2試合、計4回を投げて防御率は2.25とまずまずの成績を残した。チーム事情から5月8日に降格となったが、メジャー帯同している間の投球は悪くなかっただけに、再昇格は時間の問題かと思われた。しかし――。

 降格後、5月10日の先発では4回を5安打3失点、16日のリリーフ登板は5回を投げて7安打2失点。最新の22日まで含め、12イニングで16安打9失点という内容ではアピールできているとは言えないだろう。特に、珍しくコントロールが乱れた22日の登板後、30歳の右腕が悔しさを隠しきれずにいたのは無理もない。

 もっとも、この日はストライクを投げることに苦心した理由がある。それは、また新しいことに挑んでいるため。さらなる飛躍を目指し、上沢は登板2日前からフォーム修正に取り組み始めたのだという。

「フォームの意識を変えて練習したので、前のフォームとのギャップでコントロールがうまくいかなかった。出力は今のフォームのほうが確実に出るので、次の登板までの時間でしっかりやっていこうと思っています」

【フォーム修正の効果】

 上沢本人の説明によると、自身では投球時に左足を真っ直ぐ踏み出しているつもりが、自然とインステップ気味になっていたのが気になっていたという。そうなると投球時に身体が右側に流れ、速球が力を失う。それを矯正するためにフォーム修正を行ない、22日が初の実戦だった。

「かかと寄りに少し重心をかけ、アウトステップ気味で投球することによって、上から縦に投げる感じにしたんです。そう投げたら、前よりも真っ直ぐで空振りが取れる。スピードはいつもより1マイルくらい速かったです」

 実際に、この日の上沢の直球は最速93マイル(約150キロ)を記録するなど、苦心するなかでも一定の手応えは得たようだった。こうして修正に取り組んだ背景には、マイナーとメジャーを行き来するうちに「速球の大切さ」を感じたからだ。

「ストライクゾーンでファウルを打たせたり、カウントを取ったりしなければいけない。そのためには真っ直ぐをよくしておかないと。いかにボール球を振らせるかなんですけど、こっちでは(速球に力がないと)ボール球で空振りさせるのが難しい。最近はずっと『(首脳陣から)変化球の練習をしてくれ』と言われていたんですが、あらためてもう一回、真っ直ぐをやったほうがいいのかなと感じました」

 速球に磨きをかけることによって、スプリット、カーブ、スライダーといったほかの変化球が生きてくる。フォーム修正によってそれができれば、投球の幅は確実に広がる。

 その理屈はもちろん理解できるが、難しいのは、上沢がすでに一度メジャーに上がり、今でも再昇格に近い位置にいることだ。

 メジャー候補生がひしめく場所で新しいことに取り組み、また適応期間が必要になれば、昇格が遅れることになりかねない。上沢自身も結果を求めつつ、同時に向上を目指していくことの難しさを素直に認めていた。

「難しさはありますね。ここで結果が出ないと絶対にメジャーに上がれないので、結果を求めたいのはすごくある。でも、一番いい状態で勝負できるようになるのは絶対にいいこと。そこの狭間で揺れている感じですね。いい方向に進んでくれないとただの失敗で終わってしまう。いい方向に転がってくれるように、自分を信じてやるしかないという感じです」

【「必ずチャンスはくる」】

 日本ハムではオールスターに3度も出場し、昨季は防御率2.96を残した上沢は紛れもなくエース格だった。それでも、すでにベテランと称されてしかるべき年齢の右腕に、必要以上のプライドは感じられない。マイナー契約、オープン戦でも防御率13.03、開幕メジャー入りならずといった試練を味わっても、ひたむきに進歩を目指す謙虚さがある。

 上沢から感じられるのは、「少しでもいい投手になりたい」という向上心。生き馬の目を抜くようなメジャーリーグで生き残り、好投していくためにはそれが必須であることを、すでに理解しているのだろう。

 開幕前、まだレイズのマイナー組織に所属していた頃、上沢がこう話していたのが思い出される。

「シーズンが終わった時にメジャーの舞台で投げられて、それなりの成績を残していることが大切。現時点でうまくいってなかったとしても、しっかりと自分で考えて、継続してやりたいことをやっていれば、必ずチャンスはくる。結果を大切にしていますけど、早くこっちで活躍するための技を磨くのがすごく大事かなと思います」

 ウースターでのマイナー暮らしはきっと無駄にはならない。ただ昇格するだけではなく、そこで活躍するために――。アメリカの大地を成長するための舞台として選んだ上沢の奮闘はまだまだ続いていく。

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