『366日』第9話 「切ないシチュエーション」の提示だけでは誰にも刺さらない

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2024年06月04日 22:01  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

 フジテレビ月9『366日』も第9話。このドラマはクライマックスになるとテーマにもなっているHYの名曲「366日」が流れ出すわけですが、毎回、HYの仲宗根泉さんがさまざまな男性ボーカルとデュエットしてるんですね。今回はオーイシマサヨシさん。前回はチョコレートプラネットの長田庄平で、過去にはスキマスイッチの大橋卓弥や川崎鷹也、INIの藤牧京介が登場したこともありました。

 で、放送後にXなんか眺めてみると、『366日』に関するポストって、このデュエットについてのことが大半なんですよね。ドラマそのものの感想がすごく少ないように見える。あんまみんな、興味ないのかな。

 振り返りましょう。

■広瀬アリスの“真顔芸”連発中

 前回、高次脳機能障害から回復中のハルト(眞栄田郷敦)が彼女であるアスカ(広瀬アリス)に「あれも思い出した」「これも思い出した」とウソをついていたことがバレてしまい、恋人関係を解消することになりました。

 今回は、その後の2人、そして高校時代の仲良し5人組だったほかのみんなが、それぞれ一歩前に進んでいく様子が描かれます。

 リコ(長濱ねる)はずっと目指していた理学療法士の試験を迎え、リコに気があるトモヤ(坂東龍汰)は自然にリコへの思いを表現できるようになり、ハイクラス彼女にフラれたカズキ(綱啓永)も吹っ切れたご様子。アスカはアマチュアの音楽サークルに参加することにしたし、ハルトも心機一転でひとり暮らしを始め、社内コンペに応募するためのコロッケの試作に余念がありません。

 そんな中、今回はアスカを演じる広瀬アリスの“真顔芸”が炸裂。基本的には楽しくやってますという姿を描きつつ、ハルトとの思い出のキーホルダーを見ては真顔、自宅にやってきたママがハルトからもらったハチミツを料理に使おうとしたら真顔、スカイツリーの写真を見たら真顔、テレビでスカイツリーの話題が出たら真顔、真顔、真顔のオンパレードでハルトへの未練タラタラぶりを見せつけられます。それはもう、怖いくらいに。

 アスカが真顔になっている間、ハルトのほうには新たな恋の萌芽が見られます。高校時代に痴漢に遭っていたところを助けたことのある看護師さん(夏子)と院外でも会うようになったハルト。ある日、ひとり暮らしを始めたボロアパートのボロい渦巻コンロが故障したのをいいことに、看護師さんを呼びつけてIHヒーターを拝借することに成功。さらに自宅に上がらせて何か緑色の自作ペーストを食べさせたりと、不穏な行動を始めました。

 やはりペーストには何かが入っていたようで、看護師さんは高校時代に痴漢に遭ったことで抱えたトラウマがフラッシュバック。後日、思わずハルトに告白してしまいます。

 スカイツリーが見える川沿いの舗道で勝手に告白し、勝手に泣き崩れる看護師さん。ハルトはいちおう顔見知りなので寄り添うしかありませんが、そんな姿を橋の上から偶然見かけたアスカの未練が爆発し、号泣。たまたま一緒にいたカズキがバックハグするという、後半は怒涛の展開となるのでした。

■やっぱ新しい関係は築けなかったという話

 要するに、いろいろあったけどやっぱアスカはハルトが忘れられない。ということを1話分かけてやったわけです。

 真顔、真顔からの号泣。そりゃ未練を描くのはいいんだけど、やっぱミスってるよなと思わせる描写でした。

 もともとこの2人は、記憶を失ったハルトの前にアスカが現れて「私が彼女ですから」と宣言したところから改めて関係が始まっています。この時点でハルトはアスカが誰だか知りませんが、「まあ彼女っつってるから彼女なんだろう」と納得して付き合い始めている。

 それからアスカはアスカなりに新しいハルトと向き合って、愛してきました、というのが前回の別れに至るまでの話なんですが、今回、未練に咽ぶアスカが思い出すシーンはすべて、事故当日と事故以前なんですね。スカイツリー、ハチミツ、キーホルダー、それに高校時代の2月29日に交わした「2024年のうるう年には結婚とかしてんのかな」という会話。

 アスカが思い出すその美しい思い出たちの中に、事故以後のハルトとのシーンがひとつもない。事故以降、記憶を失ったハルトと過ごして楽しかったことなんてひとつもなかったと、ドラマが白状してしまっているんです。

 今回のラストでアスカが流した涙は、一見して「もう一度ハルトとやり直したい」という涙に見えますが、そうではないとドラマが言っている。「事故の前に戻りたい」という身勝手な涙だと、不用意な脚本がそう言ってしまっている。

 こういうところなんですよね。登場人物たちの心の動きを追わず、ただ普遍的で凡庸な「こういうシチュって切ないよね」という記号をドラマの主軸に置いてしまったことで、逆に人物たちにひどい仕打ちをしてしまっていることに脚本家が気づいてないんです。看護師さんなんて単なる“噛ませ犬”として通りすがりのジョギングマンに突き飛ばされて、泣かされている。

 Xのポストが主題歌デュエットの話題ばかりなのもうなずけるところです。作り手が人物に寄り添わず、切ないシチュエーションの提示だけにご執心なわけですから、誰の心にも刺さるわけがない。

 あと、今どき渦巻きコンロを使うメリットはないから、壊れたら修理じゃなくてIHなりに交換した方がいいと思うよ、1人用なら3,000円くらいでしょう。今回はそんな感じです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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