レース三昧の5月。名物コーナーに伝統のコース、予選アタック時の心拍数について【宮田莉朋“三刀流“コラムLAP 5】

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2024年06月07日 12:00  AUTOSPORT web

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2024年FIA F2第5戦モンテカルロ 宮田莉朋(ロダン・モータースポーツ/TGR WECチャレンジプログラム)
 2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)にテスト・リザーブドライバーとして帯同します。

 第5回目となる今回のコラムでは、ほぼ毎週末レースが行われた5月についてお届けします。WECスパにELMSポールリカール、そしてFIA F2のイモラにモナコと、大忙しの莉朋選手。今月もいろいろなサプライズな経験を積むことができたようで、そこで莉朋選手が感じたことを徒然とお届けします。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 みなさん、こんにちは。宮田莉朋です。5月はたくさんのレースがありましたが、まずはFIA F2から。イモラとモナコの2大会がありまして、結果的には残念なリザルトでしたが、内容としては両方とも未経験のコースでトラブルや雨で走行時間がない中、レースの最後にはそれぞれファステストタイムを争えるようなスピードを見せることができたので、ポジティブに捉えています。

 レースのことはオートスポーツwebさんや他のメディアでも報道されていると思いますので、このコラムではレース以外のトピックスについてお話ししたいと思います。

 まずはFIA F2、イモラ・サーキットで行われた第4戦の予選では心拍計を装着して走行しました。国際映像で僕のオンボード映像と共に、心拍数も表示されました。この心拍計はドライバー全員ではなく、各レースでFIA F2側から指名されたドライバーに装着されます。

 心拍計そのものは日本でも販売されているような胸にゴムバンドで装着するタイプです。ちなみに、F1では胸に装着するタイプではなく、レーシンググローブの手首の裏に時計型の心拍計を装着します。

 予選を見ていただいた方はご存知かと思いますが、イモラではアタックに入った直後のセクター1は120〜140/分、続くセクター2で170/分ほどと、最終セクターに近づくにつれて心拍数が増え、最大180/分くらいに達していました。

 アタックの前はクールラップになるのでタイヤを冷やし、自分も落ち着かせます。その状態でアタックを迎えるので、序盤は120/分ほどと心拍数も低めだったのかなと思います。そこからセクター1、2、3と進むにつれて「最後に決めなければいけない」という思いが強くなります。FIA F2ではステアリング上のモニターに自分のタイムが表示され、セクター1、2でデルタ表示がマイナスだと、最後のセクターで失敗できないという緊張感も強まるので、後半に向けて高くなっていきます。

 ちなみに、あの心拍数を見たロダン・モータースポーツのエンジニアからは「意外と落ち着いているね」と言われました。一番低かった120/分でも通常の日常生活では出ないような心拍数ですけど(笑/編注:日常生活において心拍数が100を超えることは稀)。心拍数からも伝わるかと思いますが、レーシングドライバーも肉体的にハードな仕事なので、そういったアスリートとしての面が見ている方に伝わることができれば嬉しいですね。

■初めてのモナコ。セレブやVIPが集まる中で……。

 FIA F2はイモラの次の第5戦はモナコでした。モナコは想像していたモナコとはいい意味で違っていましたね。海と山と街がギュッと凝集して詰まっている感じで、人口密度が高い。F1ドライバーや海外のトップドライバー、ビジネスで成功されている方やセレブがこの狭い街に集まっている圧倒感のようなものがすごかったですね。

 今回のモナコも多くのセレブが訪れていたようですけど、サーキットでもパドックでも、実はドライバーがセレブやゲストと会うことはあんまりないんですよ。僕はほとんどホテルとサーキットを行き来していただけでしたけど、妻はモナコを楽しんでもらいたかったので、買い物に行ってきていいよと。

 そこで妻からはモナコの街中でドライバーの彼女がいたとか、(シャルル)ルクレールが目の前に出てきたとか聞きましたが、僕はそんなこともなく、SNSでBLACK PINKのRISAさんが来ていたのを見て、妻『会いたかった〜!』とか言っているのを見ていたくらいです(笑)。

 FIA F2の次のレースは、ヨーロッパのコースで唯一、テストで経験しているスペイン、バルセロナですので、気持ちを切り替えて、これまでの経験、そして支えて頂いている方たちを信じてレースを続けていきたいと思います。

■WEC、ELMSの近況と初めてのスパ、ポール・リカール

 では、ここからは最近出場したWEC、ELMS、そしてまもなく始まるル・マン24時間について、お話ししようと思います。

 WEC第3戦スパには、アコーディスASPチームのレクサスRC F GT3でスポット参戦しました。RC F GT3自体は日本やIMSAで経験がありましたが、WECのLMGT3クラスでは空力の仕様なども若干違うこともあってか、シミュレーターで走り込んでいたスパとはだいぶ印象が違いました。オー・ルージュを全開でいくのも難しかったです。

 僕が加わった 78号車は、ジェントルマン(ブロンズドライバーのアーノルド・ロバン)の活躍もあり、上位で戦うことができました。チャレンジングなコースであるスパは、車両のポテンシャルだけでなく、ドライバーの技量が試される割合も大きいですからね。

 決勝では、終盤に入って大クラッシュ、赤旗がありましたが、僕はあの数周前に乗り込んでいたんです。じつはタイミングがいろいろと悪かったこともあって、決勝に至るまでのどのセッションでも、僕は5周ずつくらいしか走れていませんでした。個人的にはFIA F2でスパを走る際に今回の経験を活かしたいと思っていたのに、再開されないまま終わってしまったら「何も経験できずに終わっちゃうな……」と。ただ、チームとしては赤旗時のままのポジションであればポイント獲得という、微妙な状況だったのですが(笑)。

 結果的には赤旗中断分を延長するという判断になり、僕個人としてはそこでしっかりと走れたのはよかったです。また、RC Fはタイヤに対して結構厳しいバランスというか状況だったのですが、自分たちの最適だと思うストラテジーを組んでレースを進め、1ポイントを獲得できたことは良かったですね。

 LMP2の方では、ELMS第2戦ポール・リカールがありました。第1戦に続く連勝も見えていたのですが、終盤にギヤのトラブルでリタイア。残念でしたが、トラブルが起きたのがル・マンでなくて良かったですし、それを次につなげることが大事だと思っています。

 ポール・リカールで得られた感情は、チームやドライバーを強くさせる機会になる。そういったことはスーパーGTやスーパーフォーミュラでもあったし、僕自身、実際に強くなってサーキットに戻れたなと感じたこともありました。実際、開幕戦のバルセロナとはキャラクターが異なり、『長い直線がありながらも、ダウンフォースが必要なコーナーがある』など、ル・マンに近いレイアウトを持つポール・リカールでもトップ争いができたことは、すごくポジティブですね。

 1.8km続くバックストレートから300km/hオーバーで飛び込む名物コーナー『シーニュ』は、初めて走った時は追い風だったので結構難しく感じました。リヤのダウンフォースが不安定になりやすくて、「おっかないなぁ」と。その次のセッションからは向かい風だったので、結構気持ちよく、少しのアクセルオフで回れるようになりました。

 日本で走らせていたGT500は、もっとダウンフォースがあって、もっとタイヤがグリップしていましたが、LMP2ではタイヤもワンメイクですし、プロトタイプカーとはいえダウンフォースレベルはスーパーGTとは違うので、どこまで行けるかというのは探り探りだった部分はあります。最初はヒヤッとしましたが、慣れてくると楽しく走れましたね。

■初めてのル・マン24時間と耐久レースで大切なこと

 そしてLMP2で戦う次のレースは、いよいよル・マン24時間となります。

 昨年、TOYOTA GAZOO Racingに帯同させてもらいましたが、もちろんコースを走るのは今年のテストデーが初めてです。規則で義務付けられているACOのシミュレーターテストは4月に行い、『スローゾーン』や同時に3台が介入するセーフティカーのシチュエーションなど、ル・マン特有のレースオペレーションは体験しています。また、リザーブドライバーとしてTGR-Eのシミュレーターでも走っています。

 トラブルなく、ELMSで学んだことをしっかりと出して、まずは自分たちがいま持っているポテンシャルを発揮したいですね。そのうえでクラス優勝争いができれば嬉しいですが、とにかく自分のスティントをしっかりと走る、それだけしか考えていません。

 昨年を見ていても、ル・マンではタイヤマネージメントより燃費やレースペースが大切なのかなと思いますし、天候が不安定になることも多いと思うので、そこはドライビングも、チームのストラテジーも、臨機応変に対応することが大事なのかなと思います。プッシュするときはするけど、守るべきときは守る。そういった難しさがあると思うので、そのあたりは常に意識しながら走らなくてはいけないですね。

 ELMSとは異なり、ル・マンではハイパーカーに抜かれるシチュエーションもあるので、前も後ろも見なくてはいけない。また、ハイパーカーとの速度差を作る関係上、LMP2車両はELMSよりもパワーや車重が遅くなる方向に調整されるので、そのあたりの感覚はプラクティスでうまく合わせられればと考えています。

 5月は4週連続レースだったこともあって、なかなかケルンにいる時間もなく、前回紹介した猫カフェすら、まだ行けていないんですよ(笑)。むしろ最近は、いろんな国に旅行に行きたいなぁという想いの方が膨らんできて……具体的に行きたい場所を見つけてしまったので、近々リフレッシュがてら行けたらいいなと考えています。ヒントは海が見えて、物価が安いところ(笑)。念願がかなった際には、こちらのコラムでも報告しますね!

⚫︎今月の“リトモメーター”
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
今回、5月2日〜5月29日の期間で……

⚫︎5月2日〜5月29日
7回の搭乗
2,938マイル
搭乗時間:11時間

⚫︎2024年累計
52回の搭乗
105,592マイル
搭乗時間:257時間12分

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