「この映画を作りながら、プリンスが僕の人生を変えてくれたと言っても過言ではありません」『プリンス ビューティフル・ストレンジ』ダニエル・ドール監督【インタビュー】

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2024年06月14日 08:10  エンタメOVO

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ダニエル・ドール監督 (C)エンタメOVO

 1958年に米ミネソタ州ミネアポリスで生まれ、住民のほとんどが白人という環境下で多感な青春時代を過ごしたプリンス(本名:プリンス・ロジャーズ・ネルソン)。自伝的映画『パープル・レイン』(84)とそのサントラのメガヒットで世界的スターとなった彼は、12枚のプラチナアルバムと30曲のトップ40シングルを生み出し、7度のグラミー賞を受賞した。2016年4月21日に57歳で急逝した孤高の天才ミュージシャンの真実に迫ったドキュメンタリー『プリンス ビューティフル・ストレンジ』が、彼の誕生日である6月7日から全国公開された。公開に併せて来日した監督のダニエル・ドールに話を聞いた。




−監督にとってプリンスのイメージはどういうものだったのでしょうか。

 正直なところ、これまで僕はプリンスのことはあまり関心を持っていませんでした。もちろん昔から知ってはいましたが、ちょっと風変わりな人で、すごく自己中心的というか、エゴを押し付ける人だと思っていたので、あまり親和性を感じていなかったんです。でも、この映画を作るうちに、自分はプリンスのことをちゃんと理解していなかったのだと気付きました。この映画を通して、自分が持っていたプリンスに対するイメージもだいぶ変わりました。

−プリンスとファンの人たちとの関係もユニークでした。

 アメリカでこの映画を上映した時に、ファンの人たちから、僕たちはプリンスのことを知り尽くしているので、新しく学ぶことはないと言われましたが、僕はこの映画を作ることによって、ファンの人たちを通して、プリンスがどういう人物だったのかを学ぶことができました。プリンスがファンの人たちに与えたインパクトの強さが見えてきたと思っています。

 ファンの人たちは、実はプリンスはとても寛大な人で、自分たちの人生を変えたとも言っていました。その一つの例として、プリンスは「ラブ・アンド・ユニティ(団結)」ということを掲げて、愛と一体感を持って、人種、年齢、あるいは自分がどういう人間なのかは関係なく、「みんな一つだよ」というふうに打ち出していたんです。ファンの人たちにも、音楽を通して多大な愛を与えていたのだと思いました。彼のことを知れば知るほど、今まで語られてこなかった彼の寛大さというところも打ち出していきたいと思いました。

−プリンスが慈善活動に熱心だったこともこの映画で初めて知りました。

 プリンス本人は、生前、自分が慈善活動をしていることを一切伏せていて、絶対に誰にも言わないでくれと言っていたそうです。彼は、素晴らしくアメージングなパフォーマーで、もちろんたくさんいい音楽も作って、詩人としても最高峰のアーチストだと思いますが、そこで得た利益の多くを、人助けのために使っていたということを描いているところが、この映画の醍醐味(だいごみ)の一つだと思います。本当に作ってよかったなと。そうしたメッセージをこの映画を通して配信することが、僕にとっての使命だと感じています。

−映画の冒頭でミネアポリスの黒人の歴史を詳しく紹介していました。もちろんこの映画はプリンスが主役なのですが、ミネアポリスという土地やそこに住む人々が、もう一人の主役のような感じがしました。

 その通りです。そう言っていただいてうれしいです。僕は、人はどこで生まれ育って、どういう経験をしてきたのかということが、その人の人物像を作ると思っています。その意味では、プリンスがどういう所で生まれ育ったのか、この希代の天才がどういうふうに形成されていったのかということは、ミネアポリスの歴史的な背景を抜きにしては語れないと思ったので、それを冒頭に入れました。

−最近はミュージシャンの伝記映画も数多く作られていますが、劇映画ではなくドキュメンタリーだからこそ見えてくるものがあるとも感じました。

 おっしゃる通りです。最初は、プリンスの周りにいたコミュニティーの人たちにインタビューをしたいと思っていましたが、割と閉鎖的というか、皆あまり話をしたがらないんです。実際に、昔からプリンスのことを知っている人たちの中には、彼の悪いところや汚いところを強調する人たちが結構多かった。例えば、彼がドラッグの中毒で死んでしまったとか、悪い方向に話を持っていってしまうんです。僕は、この映画を通して、プリンスが素晴らしい人物だったことを描きたかったし、純粋に彼をたたえる映画にしたいと思っていたので、そうした思いをコミュニティーの人たちに伝えると、「今までそんなふうに取材をする人はいなかった」と。そこから皆さん打ち解けて、さまざまな真実を語り始めてくれました。正しい意図を伝えたことで、周囲の人たちが真実を提供してくれたと思いました。

−この映画を撮り終えてどんな思いがありましたか。

 プリンスは、もちろん才能あふれる人ではありましたが、もちろん人間なので、何かしらのあらがあったり、何かしらの失敗もしてきた人ではありました。ただ、彼はそこをうまく解消して、消化していったというふうに感じました。それをファンの人たちもよく理解していたのではないかと思います。今までいろいろな映像を制作してきましたが、この映画は、僕にとって一番大切なドキュメンタリーになったと思います。どちらかというと彼の音楽よりも、彼の人間性に引かれたところが多かった気がします。この映画を作りながら、彼が僕の人生を変えてくれたと言っても過言ではありません。僕をよりよい人間にしてくれたと思っています。

−最後に、この映画の見どころを。

 この映画の一番の見どころというか、大切なところは、スパイク・モスという人物の存在だと思います。彼はとてもいいボクサーだったので、ムハマド・アリのようになってもおかしくはなかったのに、彼はその道を行かずに、ストリートにいる子どもたちをいい方向に導きたいという強い信念によって、「ザ・ウェイ」というコミュニティーセンターを作り上げました。そこで、子どもたちがアイデンティティーを形成していく手助けをし、彼らの成長に多大な貢献をしてきた人物です。彼はプリンスにとってはメンター(師)であったばかりでなく父親的な存在でもあったし、「ザ・ウェイ」は後に議員になった人や著名な映画監督、ミュージシャンなども輩出しています。僕もそうしたコミュニティーセンターを作る手助けをしていきたいと思っています。そうした考えに至ったのも、スパイク・モスという素晴らしい人がいたからです。ですから、この映画ではスパイク・モスという人物がかなり大きな存在になっていると思います。

(取材・文・写真/田中雄二)


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  • バットダンスのPVでのあの姿のインパクト具合が………
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