最後のル・マン挑戦で9位。目標達成の星野敏が万感「ル・マンはもう“卒業”で良いと思っています」

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2024年06月17日 06:00  AUTOSPORT web

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完走を喜ぶDステーション・レーシング 2024年WEC第4戦ル・マン24時間
 6月15日〜16日、フランスのサルト・サーキットで開催された第92回ル・マン24時間耐久レースの決勝レース。予選6番手からスタートしたDステーション・レーシングの星野敏/エルワン・バスタード/マルコ・ソーレンセン組777号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3は、難コンディションのなかしっかりとレースを戦い抜き、9位でフィニッシュ。5人が参戦したLMGT3クラスの最上位となった。

 2021年からWECに参戦を開始したDステーション・レーシングは、今季クレメント・マテウをブロンズドライバーに据え、バスタードとソーレンセンが組んでシーズンを戦ってきた。迎えた第4戦となるル・マン24時間は、自ら最後の挑戦と定め、5回目のル・マン24時間でしっかりと完走を目指したチームオーナーの星野が、もう一度ル・マンを完走するという“夢”を叶えるためにドライブすることになった。

 挑戦の理由は6月13日に掲載した記事に譲るが、テストデーからDステーション・レーシングはノーミスの戦いを続けてきた。12日に行われたクオリファイではソーレンセンがハイパーポール進出を決める8番手に食い込むと、13日のハイパーポールでは規定により星野がアタックを担当。ミスなくきっちりとアタックをまとめ、2ポジションアップの6番手につけていた。

 そして迎えた決勝。Dステーション・レーシングはソーレンセンがスタートを担当し、序盤から上位に食らいついていく。すぐに星野が乗り込みダブルスティントをこなしていくと、一度バスタードに交代した後、ふたたび星野がドライブする。一度FCYのボタンを誤って押してしまったことでの速度超過によるペナルティがあったが、大きな遅れにはならなかった。

 ただここで、サルト・サーキットには小雨がぱらつきはじめてしまった。長いコースの一部はスリッピーだが、スリックタイヤで走らなければいけない状況。そんななか星野はミスなく自らの最初のドライブを終え、まずは自らに課せられたブロンズドライバーの規定時間を半分こなしてみせた。

 一度休息をとった後、星野は早朝5時ごろからふたたび準備を開始した。ただその頃のサルト・サーキットは強い雨が降り続いており、延々とセーフティカーランが行われていた状況だった。チームは当初の予定を変え、早めに星野がドライブすることになった。

 しかしセーフティカー先導のなかとは言え、ブロンズドライバーにとっては過酷な状況が続いていた。レースがリスタートを迎え、なんとか3時間連続のドライブを終えバスタードにステアリングを託した星野だが、走行後「もういやです(苦笑)。止めると言っておいて良かったです」と苦笑いを浮かべるほどの厳しい雨のスティントとなった。

 とはいえ、これで星野は自らの規定走行時間をしっかりと締めくくった。そこから先はバスタードとソーレンセンが繋いでいき、時折雨が降り出す難コンディションのなか、ライバルたちの脱落にも助けられポジションを上げていくと、最後は9位でフィニッシュすることになった。

■「感無量ですね」と星野。藤井マネージングディレクターも結果を称賛
 現地時間16時。藤井誠暢マネージングディレクターの希望で用意された『2024 P9』のサインボードが出されたDステーション・レーシングのピットの前を、ソーレンセンが駆るアストンマーティン・バンテージAMR GT3が駆け抜けた。サインガードに上るわけでもなく、控えめにそれを見届けた星野は噛みしめるようにレース後の余韻を楽しんでいた。

「5回目のル・マン24時間で今回を最後として臨み完走することができ、しかも入賞という結果を残すことができました。これほど良い結果を求めていたわけではなかったんですけどね」と星野は語った。

「本当に良かった。感無量ですね」

「序盤はドライで走れると思っていましたが雨が降ってきて、そのなかでスリックで走らざるを得なかったのですが、自分のスティントをこなすことだけを考えて、タイムを気にせず走り続けました。朝方のセーフティカーランのときに走行時間を消化できたので、チームのためにも良かったのではないでしょうか」

 レース後、チームメンバーたちと固い握手を交わしていった星野だが、ひときわ笑顔をみせたのが星野のレースキャリアを支え続け、ル・マン出場、そして完走という夢をその手腕で叶えてみせた藤井マネージングディレクターだった。そんな藤井にとっても今回の結果はベストとも呼べるものだった。

「今回のル・マンは非常にコンディションが難しく、レースのほとんどで雨が絡む難しいレースでしたが、それをノーミスで戦い抜いた星野選手、エルワン選手、ソーレンセン選手が本当に素晴らしい仕事をしてくれました」と藤井。ドライバーとして出場していたときもこれほどの難しい状況はなかったという。

「チームも100点以上の仕事で、ミスなく戦い抜いてくれました。トップ10に入ることができれば素晴らしいと思っていましたが、9位入賞という結果を残すことができました。2021年の6位以来の完走で、星野選手のル・マンを入賞という最高のかたちで終えることができ、嬉しいのひと言に尽きます。応援していただいた皆さん、チーム、スタッフのすべての皆さんに感謝しています」

■初挑戦の失敗を乗り越えて。難コンディションで掴んだ結果
 星野の最初のル・マン24時間挑戦は2019年、デンプシー・プロトンからの参戦だったが、その結果は惨憺たるものだった。レースではドライコンディションながらスピン、さらにLM-GTE Pro車両にヒットされクラッシュ(相手側にペナルティ)など、初挑戦のブロンズドライバーにも関わらず世界中のファンから批判の声が上がり、星野自身もリタイアした後、レース終了を待たずにすぐにパリまで戻るほど気落ちしていた。

 しかしレース後、チームの共同オーナーだった俳優のパトリック・デンプシーから星野宛に送られたメッセージが星野を勇気づけていた。

“レースは自分の限界に挑戦し、それを確認するひとり旅です。ル・マン24時間はその典型的なもので、皆がそれを体験するためにここに集まってくるのです。成功するときもあれば、失敗するときもあります”

“そして、失敗のなかには成長があります。人生と同じで、それこそがレースを戦う素晴らしさなのです。今回の挑戦の失敗は不運であり、とても残念ですが、現実として受け止めて前に進んでください。あまり自分を責めないように。星野選手は“夢”をもって、それをつかみにル・マンに来たのです。日本に帰って、改善できる点は改善し、またこの場所に戻って来てください”
──パトリック・デンプシー(Dステーション・レーシング レースレポートより)

 会社経営者である星野にとっては、もちろん分かっていたことでもあるのかもしれない。その後世界中のレースに挑み技術を磨き、しっかりとル・マン完走という結果を残し、今回は目標としていたノーミスでの戦いを、多くのドライバーたちを苦しめた難コンディションのル・マンで成し遂げ、自らのル・マン挑戦にピリオドを打ってみせた。

 フィニッシュ時の雨が上がったサルト・サーキットに陽が差すなか「5回もル・マン24時間に出場することができましたし、2回完走することができて、入賞もすることができましたからね。ル・マンはもう“卒業”ということで良いと思っています」と星野は語った。

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