比江島慎インタビュー
バスケットボール男子日本代表
「史上最強チーム」の挑戦(3)
昨年のFIBAワールドカップ・日本vsベネズエラ戦。比江島慎は第4クオーターだけで4本の3Pシュートを沈めて逆転勝利の主役となり、パリオリンピック出場に大きく貢献した。
長く日本代表の主軸として活躍しながら、世界大会で何度も辛酸をなめ続けてきた比江島にとって、この試合は一世一代のものとなった。
少年期に見ていたオリンピックの思い出、日本代表として「集大成」と語るパリ大会への意気込みなど、「天才」と呼ばれてきた33歳に聞いた。
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── パリオリンピックが迫っています。過去のオリンピックで比江島選手の記憶に強く残っている試合を教えてもらえますか?
「2008年の北京オリンピックで、スペインがアメリカと戦った決勝戦です。僕はスペインのリッキー・ルビオ(PG/当時ホベントゥット・バダローナ)と同じ年なんですけど、当時の彼は17歳くらいで、アメリカ相手に活躍したというのが、すごく衝撃的でした(チーム最多29分の出場で6得点)」
※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。
── バスケ競技以外だと?
「なんだろうな......競泳の北島康介さん(北京大会で平泳ぎ100m・200mを2連覇)は印象的で、カリスマ性というか、記憶に残るようなフレーズを残したり、オーラもあってカッコいいなというイメージがあります」
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── オリンピックのヒーローを挙げるとしたら、誰になりますか?
「やっぱり北島さんがそうですし、あとは体操の冨田洋之さん(アテネ大会での団体金を含めてオリンピックで3つのメダル獲得)ですね。冨田さんは高校の先輩(京都・洛南高校)でもあるんですよ。冨田さんと特に関わりはないのですが、でもカッコよかったですね」
── バスケットボール以外もけっこう見ていたのですね。
「はい、見ていましたね。あとは、ベタですけどウサイン・ボルト(陸上短距離種目でオリンピック8個の金メダル獲得)。人間の限界を突破している姿は、特に印象に残っています」
【東京五輪後に代表を引退するつもりが...】
── 今回のパリ大会は、比江島選手にとって2度目のオリンピックとなります。前回の東京オリンピックはどのような大会だったと振り返りますか?
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「すべてが未知の大会でしたし、子どもの頃から憧れていた夢のような舞台でした。東京開催にもかかわらず無観客ではあったんですけど、そこに立てたのはひとつの達成感がありました。
日本も成長を続けて臨みましたが、やっぱり世界の壁を思い知らされました。悔しさのほうが大きく残った大会でしたね。僕は東京オリンピックのあとに(代表を)辞めるつもりでいたんですけど、悔しさのほうが勝っちゃったので、続けることになりました」
── 代表を引退しなかったことが昨年のワールドカップ出場につながり、比江島選手もあの大会で歓喜を味わいました。強豪ばかりと対戦するパリオリンピックに向けて、日本はどのような課題があり、それをどう埋めていけば勝てると考えていますか?
「バスケットボールは流れのスポーツなので、40分間、僕たちのペースにするというのは難しいとは思うんです。だけど、ワールドカップでドイツやオーストラリアと戦った時でも、20分間や25分間、僕らのペースでやれたということも証明できたと思います。
そこから、あと10分なのか5分なのかわからないですけど、相手の流れになってラン(連続得点)を作られた時間帯にどうするか。いかにディフェンスでかき乱し、相手のリズムを乱して僕らのペースにできるか。もちろん、自分たちもターンオーバーの数を減らさなきゃいけないし、シュートの確率も課題なので、そこを改善していきたいですね」
── チームとして「ベスト8・決勝ラウンドへ行く」という目標を達成するために、日本は何をすべきでしょうか。
「ディフェンスで仕掛けるパターンが増えていくと思います。どれだけ平面で勝つかが僕らの武器になるので、そこは極めていかないといけない。
また、オフェンスでは簡単なミスから相手に流れを持っていかれてしまわないように。完成度や連係も高めていかなきゃいけないと感じています。より速い攻めからズレを作り、3Pシュートを生かしていけば、チャンスはあるかなと思っています」
【悔いが残らないようにやりたい】
── ワールドカップでは3Pシュートを決めたあとの「セレブレーションポーズ」でも、比江島選手は注目を集めました。個人的にも反響を感じていますか?
「はい。それはすごく感じています。メディアにもいっぱい取り上げていただきましたし、地方に行ってBリーグのファンではない方々からも声をかけてもらう機会が増えました。
あのポーズ(セレブレーションポーズ)は子どもがけっこうマネをしてくれたりしていますので、バスケットボールの盛り上がりに少しは貢献できたかな、という思いはあります」
── ワールドカップでの活躍がなければ、プロ野球で始球式を2回もする機会も、おそらくなかったですよね。
「そうですね(笑)。侍ジャパンとソフトバンクで。ワールドカップのおかげで叶えさせてもらいました。でも、正直、ひっそりと暮らしたいんですけどね(笑)」
── あらためて、パリのことを聞かせてください。比江島選手にとって今回のオリンピックは、どういう位置づけになりますか?
「僕は本当に、おそらく代表として最後になるので、今までやってきたことを全部ぶつけたいです。集大成だと思っているので、悔いが残らないようにやりたい。
あと、ワールドカップですごく注目してもらったのに、オリンピックで惨敗してしまうわけにはいかない。盛り上がっている状況を、さらに盛り上げられるようにしたいという思いもあります。何としても勝って、目標はベスト8ですけど、未来につながるバスケができたらいいなと思っています」
── パリでもセレブレーションポーズは見せられそうですか?
「どうでしょうね(笑)。チームが盛り上がるのであれば......率先してやりたいというわけではないんですけど......でも気持ちが高ぶったら、もしかしたら出るかもしれないですね(苦笑)」
── ワールドカップのベネズエラ戦は高ぶっていました?
「えぇ、完全に高ぶっていました。あれは僕じゃないです。別の人格がやっているので(笑)」
── 記憶は残っています?
「記憶は......ありますけど、かろうじて。あんな顔をしている記憶はないです(苦笑)」
── また、あの顔が見たいです。
「ああ、はい......(そういうチャンスが)あれば」
── あのポーズがないということは、日本にとってはよくないことですから。
「たしかに。そうとも言えますね(笑)」
<了>
【profile】
比江島慎(ひえじま・まこと)
1990年8月11日生まれ、福岡県古賀市出身。中学時代は福岡県選抜に選ばれ、京都・洛南高時代は男子2校目となるウインターカップ3連覇に貢献。青山学院大ではインカレ2連覇を達成し、4年時の2012年にA代表に初選出される。卒業後はアイシンシーホース三河(現・三河シーホース)に加入し、プロ1年目にNBL新人王を受賞。2017-18シーズンにはBリーグのシーズンMVPに輝く。2018-19シーズンはオーストラリアのブリスベン・ブレッツ、2019年にはNBAサマーリーグに参加してニューオーリンズ・ペリカンズでプレー。海外挑戦も経験したのち、宇都宮ブレックスに移籍する。2021-22シーズンはエースとしてチームをBリーグ優勝に導いた。ポジション=シューティングガード。身長191cm、体重88kg。