鮫島彩がパリオリンピックを戦うなでしこジャパンへエール 自身は「サッカーを味わい尽くして」引退

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2024年07月27日 10:10  webスポルティーバ

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今季引退・鮫島彩インタビュー(4)

 とにかくストイックに、全力で駆け抜けてきた鮫島彩が、サッカーキャリア最後の決断を下した――その心が決まったのは、最終節の直前。ここ数年、頭の片隅に"引退"の二文字を秘めながら一年一年、丁寧に向き合ってきた。そして訪れた決断の瞬間、彼女の心に浮かんだ感情とは? そしてこれからの彼女が歩む道の先に何を見据えているのだろうか。

【サッカーを味わい尽くした】

――誰しもいつかは引退という決断を下すときが来るわけですが、鮫島さんの場合はいつ決断をしたのでしょうか?

 決断は本当にリーグ最終週のあたりで。だから本当に多方面にご迷惑をおかけしてしまいました(苦笑)。これまでも決断こそしていませんでしたが、"引退"というのは毎年頭をかすめてはいたんです。

――それがハッキリと傾いたのは?

 キング(有吉佐織)と同じチームになり、選手としての向上心とか、全く逆のタイプの姿を見て、彼女から学ぶことがたくさんあって。もっと伸ばせる部分を見つける......そこに楽しさを感じていました。最終節までそれはあった。なんなら今だってサッカーがうまくなりたいなっていうのはあるし、選手としての欲がなくなったわけではないんです。

 今までのジェットコースターのようなサッカー人生を通して、本当にサッカーを通じて経験できることはすべて味わい尽くさせてもらったなって思ったんですよね。

――確かに、これまでにない経験を、ということでの大宮VENTUSという選択だったわけですから。

 はい。クラブも4年目に入って、新規チームというよりはこの先はシンプルにひとつの"WEリーグに参戦しているチーム"になる。クラブの方針としても次の段階に入ろうとしていることを感じていました。そうなった時、もう私はこれまでのすべての経験を含めて、サッカーを味わい尽くしたなって思えたんです。それをセレモニーの時には「やりきった」という表現で伝えさせてもらったんですけど、これ以上はないかなって。それくらい味わい尽くすことができたと思えました。

【2022年から筑波大大学院に通う】

――最後まで笑顔満載の挨拶、会見を通して、それは伝わってきました。例年オフもエネルギッシュに活動されています。大学院にも通ってるんですよね?

 筑波大学の大学院に2022年から通っています。明確にやりたいことがあるっていうよりは、勉強欲に近いかもしれません。もともと筑波大学には(安藤)梢ちゃんがいるのと、リハビリで行っていたJISS(国立科学スポーツセンター)で出会ったオリンピアンの友人たちも行っていて、その話も聞いていたので、INAC時代から興味はありました。

――大宮に来たことで近くなったから通い始めたのですか?

 はい。あとは代表活動もなくなったら、すごく時間ができたのもあります。代表活動がないとこんなに時間があるんだって最初ビックリしたんです(笑)。そうなると自分ががんばってない感じに思えちゃって......何にも追われてないから(笑)。

 リーグはもちろん一生懸命やるんですけど、空白の時間がソワソワしちゃって、なんか新しいストレスを! って求めるようになっちゃったんです。

――女子スポーツの集客面に興味があると言っていましたが、大宮入団時にも運営に興味があるということで、いろいろクラブに提案もされていました。勉強が進んできて、女子サッカーの集客向上については何か仮説は立てられそうですか?

 いや、まだまだ。大学院の研究で、自分の試合でアンケート調査をさせてもらったんです。それも分析がこれからなので、その結果が楽しみです。人が集まる場所がすごく好きで、みなさんが楽しそうにしている姿を見るのが好きなので、そういう場所を作ったり、イベントに携わったりはしていきたいですね。

【なでしこジャパンへのエール】

――今、ともに戦った選手たちがパリ五輪を戦っています。注目している選手を教えてください。

 誰かを挙げるというのは難しいですけど......やっぱり(熊谷)紗希にメダルをかけてほしいなって思います。先日、紗希と会ったんですけど、彼女はああいう性格なので、ネガティブな話は聞いたことがないし、多分これからも聞くことはないと思うんです。

 だからと言って、大変なことがないわけがない。あの勝負の世界で、日の丸を背負って長年戦って。だからなおさら、紗希にメダルを! って思っちゃいますね。

――そのためには、今、なでしこジャパンには何が必要だと思いますか?

 本当に世界大会は始まってみないとわからないし、始まってみてもチームってわからなくて、一気に波に乗る時があるじゃないですか。だからグループリーグは苦しみながらでもいい。むしろ苦しみながらのほうがいいと思うんです。初戦からワールドカップチャンピオンのスペインですよね? 簡単な試合なはずがない。でも、そこを越えていったら絶対に波に乗る瞬間がくるはずです。

――簡単な相手だと波自体が来ないですから。

 そう! 荒波を越えてこそ。絶対(上に)行けるメンバーが揃ってるんですよ、今のチーム。期待としてはもちろん金メダルだけど、現実的な話をすると、グループリーグって日本時間の夜中に始まるじゃないですか。

――鮫島さんが夜中に起きてサッカーを観るイメージがないんですけど......(苦笑)。

 大丈夫! なでしこは観ます! でもオリンピックってサッカーにあまり興味がない人も観てくれる大会だから、夜中の時間帯でグループリーグだけだとどうしても注目してもらえないんですよ。

 そこを越えて、どこまで行ったらみんな注目してくれるのかなぁ。っていうのは勝手にすごく考えますね。グループリーグを越えたらもう準々決勝だから、そこには勝ち上がらないといけないと思います。さらにもうひとつ行けたらベスト4。そこまで行くと「ここまでクリアできた!」ってちょっと気持ちが変わるんです。

――負けたら終わり、ではなくなり、最終日程までメダル争いができますから。

 そう考えると、ちょっと純粋に楽しさを追求できるんです。ロンドン五輪時の経験がよみがえります(笑)。

【今後は料理を極めたい!】

――では最後に。サッカーを卒業した鮫島さんがこれからやりたいことは?

 う〜ん。......スノーボード! 若気の至りで10代の頃にやったことがあるんですけど、当然(ケガをする可能性があるからチーム関係者などに)怒られまして(笑)。引退したら絶対にやりたいって思っていたんです。でもスノーボードでインタビューを締めるわけにはいかないか(笑)。

 あ、ありました! 私、料理を極めたいんです! 現役時は自分のルーティンもあったし、レパートリーも限られていたから、もっと極めたい。自分の身体でいろいろ実験した結果、「食」って本当に大事と実感しました。小さい頃から知りたかったと思ったから、それを伝えられるといいな。管理栄養士さんとコラボとかもいいかもしれません。それを選手だけでなく、小さな子どもや親御さんにも伝えてみたいです。
(おわり)

(1)鮫島彩の高校時代「3日に1回は辞めたい!って思ってた」>>
(2)鮫島彩が2011年W杯優勝のなでしこジャパンで思ったこと>>
(3)鮫島彩がサッカー人生で経験した頂点とどん底の振れ幅>>

鮫島 彩 
さめしま・あや/1987年6月16日生まれ。栃木県出身。常盤木学園高校から2006年に東京電力女子サッカー部マリーゼ入り。2011年からはボストン・ブレイカーズ(アメリカ)、モンペリエHSC(フランス)でプレーし、2012年に日本に戻ってベカルタ仙台レディースに入ると、INAC神戸レオネッサ、大宮アルディージャVENTUSとチームを変えて長くプレーを続け、2023−24シーズンをもって引退した。2008年よりなでしこジャパンに選ばれ、優勝した2011年を含め、女子W杯に3度出場。

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