乾貴士(J2清水)36歳が語るプレースタイルの変化「サイドは絶対できない。ドリブラーでもない。乳酸が溜まりすぎて...」

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2024年07月31日 10:01  webスポルティーバ

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清水エスパルスMF
乾貴士インタビュー前編

 セレッソ大阪との契約を解消した乾貴士が清水エスパルスに加わったのは、2022年7月のこと。1年目はJ2降格の憂き目にあい、2年目はあと一歩のところでJ1昇格を逃すなど、新天地では苦しい時間を過ごしている。

 それでも長くドイツ、スペインで活躍し、ワールドカップでも結果を出すなど、数多の経験を積み重ねてきた稀代のアタッカーは、衰え知らずのテクニックを武器に、今季も力強くチームを牽引。J1復帰を最大のターゲットとし、J2の舞台で存在感を放っている。

 前半戦を首位で折り返したエスパルスの命運を握るベテランは、どのような想いでピッチに立っているのか。36歳を迎えた日本屈指のテクニシャンが、偽らざる胸の内を明かしてくれた。

   ※   ※   ※   ※   ※

── 2022年の夏に清水エスパルスに加入して今季で3シーズン目となりますが、過去2シーズンは悔しい出来事が続いています。特に昨季はあと一歩のところでJ1昇格を逃す悲劇を味わいました(J1昇格プレーオフ決勝で終了間際に追いつかれ、東京ヴェルディと引き分けた。規定上、シーズン順位が上の東京VがJ1に昇格)。

「もう、あの試合は思い返したくないですね(苦笑)。ほとんど決まりかけていたのに、最後の最後で追いつかれてしまって......。ああいう経験は初めてだったので、すごく悔しかったし、たぶん一生、心に残っていくものなんだなと思いますね」

── あえて思い返すと、何が足りなかったと感じていますか。

「何が足りなかったかと言えば、もうすべてが足りなかったということです。でも今年もそうですけど、やっぱりひとつひとつのプレーにこだわっていかないといけないのは、あらためて感じますね。イージーなミスが多かったりするので。

 それは去年から同じで、ちょっとしたミスで失点したり、ちょっとしたミスでシュートチャンスを逃したりしている。結局、そういうところの積み重ねだと思うんですよ。去年もそうだし、今年もそう。ちょっとしたところの差で、勝ち点を落としてしまう試合がけっこうある。

 この前、天皇杯で京都とやりましたけど(1-3で敗戦)、J1のチームとやると、よりそれが浮き彫りになるんですよ。ディテールにこだわることは秋葉(忠宏)監督も求めているところ。そこはやっぱり、自分たちから変えていかなければいけないと感じています」

【一番は香川真司とプレーしたセレッソ時代】

── 悔しい思いを経て迎えた今シーズンもすでに半分を終え、エスパルスは首位でシーズンを折り返しました。一時は7連勝を達成するなど、J1復帰に向けて力強い歩みを続けているように感じます。そのなかで自身のパフォーマンスを振り返ると?

「首位で折り返しましたけど、今は3位ですからね(インタビューは7月11日に実施。その後にエスパルスは首位に再浮上した)。それに7連勝した時、僕はケガをしてしまったので、ほとんど試合に出ていないんですよ。だから、個人的にはまだ何もやってない感じですね」

── あまり納得のいくプレーができていないと?

「今年は全然ダメですね。去年はある程度、楽しくやれたんですけど、今年はあまり手応えがないです。ケガをしたのもありますけど、なかなか調子が上がってこないので、まったく満足はできていません」

── 原因があるのでしょうか?

「そんなシーズンもあるじゃないですか。去年はよくても、今年はよくないというのは、そんなに珍しいことじゃない。僕もそんな選手をたくさん見てきましたから。だから今年はそういうシーズンなのかなと、思っているところはありますね。

 もちろんその状態を受け入れるのではなく、その振り幅をどれだけ小さくするかが大事なことだと思っています。ただ、去年が自分のなかでよすぎたんですよ。何をやってもうまくいく感覚があったので、あれはちょっと特別でしたね」

── キャリアハイのシーズンだった?

「一番は(香川)真司と一緒にやっていたセレッソ時代だったと思いますけど、真司がいないということを考えれば、一番楽しいシーズンだったかもしれないですね。J2というのもありましたけど、自分のなかではかなり手応えがありました。それと比べると、今年は余計にうまくいかないなと思ってしまうし、周りからももっとやれるだろうと思われているんじゃないですかね」

── 実際にそういった重圧を感じている?

「いや、別に周りから何かを言われているわけではないんですけど、そう思われているんじゃないですか、たぶん。僕も競技は違いますけど、阪神に対してそう思っていますから。去年は日本一になったのに、今年はなかなか勝てへんなと(笑)。どうしてもいい時と比べると、物足りなさを感じてしまうものですから」

【三笘薫や伊東純也が生粋のドリブラー】

── 6月に36歳になったんですよね? 

「もう、36ですよ」

── そうは見えないですが。

「見た目はね。見た目だけは若くしているんで(笑)」

── いわゆるベテランという年齢になって、プレースタイルやサッカーに向き合う姿勢など、若い頃と比べて変わってきたところはありますか。

「どうだろう? でも、できないことは増えてきましたよ。もう、サイドは絶対できないです。できないというか、やりたくない。上下動もそうだし、キレもないから。やっぱり、サイドの選手って、三笘(薫)くんみたいなドリブルが求められるんすよ。推進力のある選手がやるべきところで、僕の場合はそれがなくなったんで、ちょっと難しいですね」

── それは体力的な部分?

「体力もそうだし、身体のキレもそう。やっぱりサイドの選手って、深い位置まで守備に戻らなきゃいかないし、そこから前に出ていかないといけない。でも、今は前には出ていけたとしても、そこでボールを受けた時にはもう乳酸が溜まりすぎて、何も考えられないんですよ。

 そうなると、一番ラクな選択をしてしまうんですね。簡単に味方に預けたりとか。でもそれだと、サイドの選手はダメなんですよ。そのまま縦に持ち運ぶとか、ワンツーで抜け出すとか。そういうアイデアが出てこない以上は、もうサイドではできないですね」

── 乾選手といえば「ドリブラー」というイメージが強いですが。

「いや、もともと僕はドリブラーではないんですよ。僕の定義だとドリブラーは、最終ラインを突破できる選手なんですよね。三笘くんとか、伊東純也とか、ああいう選手がドリブラーであって、僕の場合はそのひとつ前の局面を抜いていくタイプなので、ドリブラーとはちょっと違うんすよね」

── その定義に当てはめると、エスパルスにもドリブラーが台頭していますよね。

「西原源樹ね。あれは『エスパルスの宝』ですよ。高校3年生でデビューして、相手を抜きまくって、点まで獲っていますから。実力だけじゃなく、性格もいいので、将来が楽しみですよ」

── 野洲高時代の乾選手よりも上?

「断然、源樹ですよ。あいつのほうが余裕で上です」

【僕はそんなにできた先輩じゃない】

── 話を戻すと、今の乾選手にとって最もプレーしやすいのは、やはりトップ下になるのでしょうか。

「今はそうですね、真ん中のほうが自由に動いて、顔を出してっていうことができるので。間で受けて前を向いて、局面を進めていくプレーのほうが、今の自分には合っていると思います」

── 今季はボランチとしてもプレーしていますよね。

「負けている試合で、点を獲りにいかなければいけない状況の時にボランチの位置に下がりますけど、役割的にはトップ下とそんなに変わらないので、特に違和感なくやれています」

── プレースタイルではなく、年齢を重ねるなかで役割的に変化したことはありますか。

「全然、変わらないですね。昔のままです(笑)。ゴンちゃん(権田修一)がいてくれますからね。ゴンちゃんが言葉でもプレーでもしっかりとチームをまとめてくれていて、僕はどっちかというと、若手とワイワイしながら、チームを盛り上げていくタイプ。その意味ではいいバランスでできているのかなと思います」

── 若手にアドバイスすることはないのですか?

「そんなにできた先輩じゃないですからね(笑)。聞かれたら言うこともありますけど、自分の考えだったり、意見を強要することはあまりないですね。そもそも僕自身も若い頃は、先輩にアドバイスを求めるようなタイプではなかったですから」

── 昇格を目指す戦いのなかで、チームメイトに物足りなさだったり、もどかしさを感じることはないですか。

「なくはないですね。サッカーのベースのところができていないな、と感じることもあります。そのあたりは以前よりも言うようになったかもしれないですね。もしかしたら、ちょっときつい言い方になってしまっているところもあると思いますけど、必要なところは、しっかりと求めていきたいです」

(後編につづく)

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【profile】
乾貴士(いぬい・たかし)
1988年6月2日生まれ、滋賀近江八幡市出身。野洲高2年時に高校選手権を制し、2007年に横浜F・マリノスへ加入。セレッソ大阪での活躍が認められて2011年にドイツ・ボーフムへ。翌年にフランクフルトへ移籍。2015年にからエイバル→ベティス→アラベス→エイバルとスペインで計6年間プレーしたのちC大阪に復帰。2022年より清水エスパルスへ。日本代表・通算36試合6得点。2018年ロシアW杯に出場。ポジション=MF。身長169cm、体重63kg。

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