佐藤琢磨、加藤大翔参戦のフランスF4を視察。若手育成の想い語る「他のF1ジュニアチームと同じ土俵で」

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2024年08月07日 16:50  AUTOSPORT web

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フランスF4の現場視察に訪れた佐藤琢磨と加藤大翔
 現在HRC(ホンダ・レーシング)でエグゼクティブアドバイザーを務め、HRS(ホンダ・レーシング・スクール)ではプリンシパルとして後進の育成に励む佐藤琢磨が、自らの第108回インディアナポリス500マイルレースを終えた後にヨーロッパに渡った。

 その目的は、HRS出身で2024年フランスF4に出場する加藤大翔(かとうたいと)の7月第3ラウンド(スパ・フランコルシャン)、8月第4ラウンド(ニュルブルクリンク)を現地視察するためだ。

 第3ラウンドのスパでは、1勝を含む3レースすべてで表彰台に上がりランキングトップに立ち、現在第4ラウンドのニュルブルクリンクを終えた段階ではランキング3位となっている。

 佐藤琢磨は、フランスF4で奮闘する加藤の戦いぶりをどのように見て、またこれからのホンダ若手ドライバーの育成は、どのように展開していくのか。その構想を聞いた。

■欧州時代の知り合いからも情報収集

──7月になってからヨーロッパに行きフランスF4の加藤選手のレースを見て来たようですが、まず今回のヨーロッパに行くことになった経緯を教えてください。

佐藤琢磨(以下、琢磨):HRSではプリンシパルとしての役割を担うようになってから5年が経ち、またHRCのエクゼクティブアドバイザーにも就任させていただいたので、若手のドライバー育成について、より全体的に俯瞰して考えられるようになりました。

 これまでもHRSを卒業してスカラシップを含めた優秀なドライバーたちはHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)でサポートを続けていましたが、自分としてはスクールのスカラシップと、フランスF4などの海外参戦はまとめて考えていきたいなと思っていました。

 スクール卒業後から実戦となる最初の年でもありますし、そこでどのような結果を出していけるのか、その先プロドライバーとなるまでの過程をどのように対応して行くのかなど、選手各々に合わせて考えるべきだと思っているからです。

 グローバルな傾向であるステップアップカテゴリーの低年齢化に伴い、現在ではスクールを卒業する選手も未成年であったりすることが多く、とくに海外に飛び出していく選手に関しては、そのあたりのケアもしっかりとしてあげる必要性を感じています。

 そもそもHRSのスカラシップを獲ったから海外に行けるということではなく、過去には該当者なしという年もありました。国内で経験を積ませてからというパターンもあるでしょうし、加藤の場合はFFSAアカデミー(フランスモータースポーツ連盟が運営するアカデミー)で海外挑戦させようという講師陣の意見も一致していました。これまでも現地のコーディネーターにサポートをお願いしていますが、中野信治さん(HRSバイス・プリンシパル)も現地視察してコミュニケーションを図ってきました。

 HRCとしても育成ドライバーに対して着実なサポート体制を築きたいと考えており、自分も欧州時代の知り合いなどとミーティングして、情報収集や土俵作りを始めていました。フランスF4を卒業した後の進路をどうして行くかなども考えていかないといけません。

 ほとんどのF1チームは独自のプログラム及びメーカーとの協力体制のもと、充実した若手育成を進めていますし、HRCとしても他のF1ジュニアチームと同じ土俵でステップアップし、世界の舞台で活躍できるよう対応していきたいと考えています。それも含めて久しぶりにヨーロッパの現状を自分の目で見たいと思っていました。

■加藤のフランス行き決定は「センスだけでなく、貪欲さや姿勢を見て」

──昨年のHRSスカラシップを獲ってフランスに来た加藤選手のここまでの戦いぶりはいかがでしょう?

琢磨:まず最初にHRSのスカラシップ選考は、スピードは最重要項目ですが、それだけで判断するわけではなく、スクール過程での取り組みや伸びしろ、人間性、それぞれがどのようなカテゴリーを経験して来たかを多角的に考慮しながら進めています。

 加藤の場合は2019年のHRSカートからHRSフォーミュラまで、5年間の成長を見てきました。入校当初は11歳でまだ体も小さかったのですが、積極性あふれる走りはつねに注目していました。ドライバーとして大事な周りを引きつける求心力を持っていたので、スピードやレースのセンスだけでなく、貪欲さや姿勢を見て、フランスに行きを決めました。

 ジュニアフォーミュラは、年度によってレベルが変わってしまうこともあるので、F4のレースで勝ったからすごい! と結びつかない年もあります。FFSAは毎年いい選手が集まってくるのは確かですが、その層の厚さやレベルは、リザルトだけではなく、現地で見てみないとわからないです。今年のレベルの中で、加藤がどう戦っているかを見る必要があったし、現状では周囲の期待通りに結果を残せていると思います。

 シーズン開始前、彼は渡仏が遅れてしまったこともあって、公式テストを半分ほど欠席しているのですが、すぐに速さを見せてくれましたし、開幕戦から順応性の高さを証明しました。FFSAにはカート時代にも交換留学で訪れていて、そのときにポディウムに上がったときからFFSAアカデミーのクリストフ・ロリエー代表も注目してきた選手です。

 海外生活はいろいろなことが初めてだったと思いますが、とても楽しそうにやっているし、チームとのコミュニケーションもうまく取れていますので、とてもいい環境でレースが出来ていると思います。たくさんのことを吸収していますね。

──2025年以降、加藤選手やHRS出身のドライバーたちをどのように育てる構想を持ってますか?

琢磨:今シーズン彼がフランスF4を戦い、その後どのようにステップアップさせるかは、本人の希望を尊重しつつ、HRCとの協議で慎重に決めて行きます。

 F1を頂点とするピラミッドのなかでのステップアップになりますので、参戦カテゴリーはおのずと絞られますが、パートナーとなるチーム選びも含めて、最善の環境を考えます。まずは今年のフランスF4制覇に向けてしっかり集中してもらいたいですね。こちらがレールを敷くことはなく、彼が自分で切り開いて行く道をサポートできればと思います。

 また現在HRSで学んでいる生徒たちも、スクール卒業後にどのようにステップアップさせるか、固定概念に捉われず考慮していきたいと思います。そのためにもFFSAを含めた欧州のレース事情をよく考えて選手を送り出したい。

 今回ヨーロッパに来て、フランスF4を2ラウンド見ることできたのはとても良かったですね。スパ・フランコルシャンとニュルブルクリンクは自分もジュニアフォーミュラからF1で活動した思い出の場所です。

 それこそ目まぐるしく変化する天候に翻弄されることなく、積極的にチャンスにしたり、全員がF1を目指す欧州のアグレシッブなドライバーたちと戦いながら、多くのことを吸収して突破して行かねばなりません。

 自分も渡英した際の色々な経験を書き残して手記にしましたが、当時を思い出して懐かしかったですね(笑)。それこそニュルのサポートイベントエリアで使っていた25年前と同じガレージのシャッター(!)などもそのままで感激してしまったし、当時、ご自身で撮った写真を持ってきてくれたファンの方々との再会もあり、モータースポーツが文化として浸透している素晴らしさに改めて触れられたように思います。

 ドライバーはヘルメットを被ったら国籍は関係ないわけですが、若い選手にとって、家族や友達と離れ、言葉も思うように通じない異文化のなかで競技をするわけですから、本当に大変なことです。いろんな経験もするし、失敗もあるでしょう。ですがそれらはすべて貴重な人生経験になりますし、大きく成長してくれることでしょう。

 今回、HRCとしてしなくてはならないことや課題も見えましたし、それらどう形にして行くことができるか、今後も多くの若い選手たちが世界に挑戦していけるよう、着実に進めていきたいと思います。

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