ジュリアが語る、Sareeeに抱いた人生初の感情「嫉妬するって、こういうことなんだ」

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2024年08月14日 10:10  webスポルティーバ

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女子プロレスラー ジュリア

インタビュー後編

(前編から読む:「女子プロレス界のために」海外へ スターダム退団と新団体の旗揚げに加わった理由>>)

 新団体「マリーゴールド」は、スターダムを退団した5選手に加え、高橋奈七永と石川奈青、元アクトレスガールズの5選手が入団し、総勢12人での船出となった。しかし、その中心的存在であるジュリアは、"世界のプロレス"に挑戦することを表明。国内ラストマッチは、8月19日の後楽園ホール大会に決定した。

 それを前に、7月13日に行なわれた初の両国国技館、マリーゴールドへの思い、ライバルのSareeeや国内ラストマッチで闘う桜井麻衣、その先についても聞いた。

【デビューのきっかけになったNØ RIとリングで再会】

――7月13日の両国大会、ジュリア選手の出場がマリーゴールドの公式Xで発表されたのは7月10日の午前8時5分でした。本当にギリギリでしたね。

ジュリア:その週の7月8日になっても連絡がこなかったので、スタッフは「これはダメかも......」と諦めかけていたと思います。一瞬、私も「無理かもしれない」と思ったんですが、翌日の夜に出場OKの知らせが届きました。

――それを待つ間は、精神的に苦しかったですか?

ジュリア:5月20日の旗揚げ戦で両国大会が発表されて、メインは私とSareeeのシングルマッチ。私は旗揚げ戦で右腕を骨折しましたけど、欠場している間も両国で試合をするつもりで過ごしていました。少しでも「出場は無理だ」となったら、ネガティブなモードに入ってしまう。メンタルのバランスを取るのは、ちょっとしんどかったですね。

 記者会見やリング上のマイクでSareeeとやり合ってみようと思っても、それは「両国大会に出場すること」が前提。「出場できなかったら、お客さんがガッカリしちゃうよな」「両国のビッグマッチのメインをやれなかったら一生後悔するな」という思いが脳裏をよぎりました。マイクしながら泣けてきたのは初めての経験でしたね。

――結果的には出場したわけですが、右手首の状態はどうでしたか?

ジュリア:問題なかったです。メチャクチャ治るのが早かったですね。病院の先生には「4カ月かかる」と言われたんですが、医療関係者の方から驚くほどのさまざまなサポートを受けて、2カ月足らずで完治しました。今でも心配されますが、本当に大丈夫です。現代医学の最高峰はすげえなと(笑)。

――両国大会では、ともにLLPW−Xのレスラーで、デビュー戦でタッグを組んだ井上貴子選手と、レスラーを志すきっかけとなったNØRI選手も出場しましたね。

ジュリア:私がアイスリボンでプロレスラーになるきっかけはTeam DATE(2019年退団)の存在が大きかったんですよ。若手同士の対抗戦で熱い試合して、女子プロレスの中でもすごく盛り上がってたので。その一員だったNØRIさんが、マリーゴールドのリングに上がる。胸にくるものがありましたね。

 Team DATEは格闘技経験のある"4姉妹"で、いきなりアイスリボンに乗り込んで若手レスラーたちをボコボコに蹴って、関節技を極める。それがメチャクチャ面白かったんで、アイスリボンで藤本つかさ選手にお誘いいただいた時に即入団を決意しました。Team DATEのデビューが2017年4月、私が同年10月なので一応同期ですね。アイスリボンを離れるのも、同じ2019年だった。そして、私がスターダムを経て旗揚げに加わったマリーゴールドのリングで、NØRIさんと再会。歴史を知ってる人にとっては面白かったんじゃないかな。

――何か言葉を交わしましたか?

ジュリア:普通に「メッチャ久しぶり〜」って(笑)。でも、チャンスがあれば試合がしたいですね。私がスポーツ経験なくプロレスラーになったのに対して、NØRIさんは6歳から格闘技を始め、キックボクシングやMMAの試合にも出場。先輩レスラー相手に一切ひるむことなくバシバシ蹴ってました。当時は「かなわない」と思ってやってましたけど、今やったらどうなるのかなって。私もあれから必死の思いで練習してきましたから。だから、彼女とはすごく闘いたいです。

【Sareeeに感じた人生初の嫉妬と、相反する感謝の気持ち】

――両国大会でのジュリア選手とSareee選手の対決は、2019年6月18日に新木場で行なわれた「田中稔デビュー25周年記念大会」以来5年ぶりでした。

ジュリア:私はこれまで、誰かに嫉妬されることはあっても、私が誰かに嫉妬したってことはなかったんです。プロレスファンに叩かれて、「悔しい、ムカつく、もっと強くなってやる」と思うことはありましたけど、どこかに余裕はあった。だからリング上で泣いている選手を見ると、「こいつ、なんで泣いてるの」と思っていましたね、なんか恥ずかしくて。

 そもそも、そういう負の感情を持ってなかったので、それをリング上で表現する人も苦手だったんです。「わざとらしいんだよ」って思ってました(笑)。そんな私が初めて、「嫉妬するって、こういうことなんだ」と理解した相手がSareeeでしたね。

――それは具体的に、どんな感情だったんですか?

ジュリア:マリーゴールド旗揚げの時は、「ジュリアがエース」と見られていました。自分では言ってなかったんですけど(笑)、そんな雰囲気があったのは確かです。それが、私が欠場している間にSareeeに全部かっさらわれたなと。それをただ見ていることしかできなくて、「闘うことができないプロレスラーなんてなんの価値もないな」って痛感して。

 リングで活躍するSareeeを見ると、ムカついてイライラしたし、「本来そこにいるのはお前じゃないんだよ」とか、気づいたらSareeeのことばかり考えてましたね。対抗するレスラーもいなかったから、「止めるのは絶対に私。7.13両国大会で、全部ひっくり返してやる」と意気込んでいたんですが......結果は腕を攻められてレフェリーストップ。試合が終わって、それまでの思いがリング上で爆発して、涙があふれてきました。「あっヤベェこれ私が嫌いなやつ......」と思いましたけど、仕方ないですね。自分の感情がそのまま出たんで。

――試合後、Sareee選手は「また万全な状態で試合しようよ。今日はありがとう」とジュリア選手にメッセージを送りました。

ジュリア:「ありがとう」なんて聞きたくなかったし、私はマリーゴールドのエースとしてSareeeを止めたかった。誰よりもマリーゴールドが好きだから、それをリング上で証明するために、Sareeeに勝たなければいけなかったのにな......。

――試合後にはSareee選手と抱き合っていました。どういう心境だったのでしょうか?

ジュリア:Sareeeから手を差し出してきたんですよ。そりゃ複雑でしたね。私はSareeeに対してリスペクトの気持ちはあるけど、嫉妬で大っ嫌いになったレスラーでもあるわけで。「この手を握り返してしまったらダメだ」と思ったし、でも、残りの日本にいられる期間を考えたら「区切りをつけるためにも......」と頭をよぎったり、一瞬の間に混乱しました。そうしたらSareeeが私の手をガッて掴んできて、そのまま抱きしめてきた。なんとも言えない感情になりましたね。

――個人的には、手を払いのけて「必ずそのタイトルを奪取するからな!」と言うのを期待していました。

ジュリア:心の中には、ずっとそういう気持ちがありますよ。まあでも、プロレスのリングで真剣にやっていればまた必ず逢えると思いますし。そん時は覚悟しろよと。

 私はこれまでいろんなレスラーと闘って、ビッグマッチも何回も経験して、そこそこの修羅場もくぐってきました。それはSareeeも同じだと思うし、プロレス界で目指しているものも近いと思っています。Sareeeも私のことを「同志だ」と言う。そういうことを言う先輩は珍しいんですよ。これまで闘った先輩は、私のことをコケにしたりバカにしたりしてきて、そういうスタンスでくる奴に対しては容赦せずに闘うことができた。

 でも、Sareeeは私がずっと再戦を望んでいた人だった。Sareeeはキャリア14年で、私は7年。上からガツガツきてもおかしくないのに、彼女はそれをしない。私は、後輩は先輩に対して基本ムカつくのが普通だと思うんですよ。上下関係とか厳しい世界だからなおさらね。「威張りやがって。コイツムカつく」って感情があるからこそ面白い。Sareeeはもちろん先輩だから、ブッ倒さなきゃいけないしムカつくんですけど、決してそれだけじゃない。ひと言では表せないくらい、いろいろな感情がありすぎるんです。

――そんなに複雑な感情を抱いているのですね。

ジュリア:そうですね。私が欠場中にマリーゴールドを盛り上げ、後輩たちに闘いを叩き込んでくれたことへの感謝もある。それは私がやろうとしていたことだ、という悔しさも。どちらの気持ちもあるから、素直になれない部分があるんです。こんなに私の心をかき乱す人は、人生で初めてですよ。

【国内ラストマッチに桜井麻衣を指名した理由】

――そういった感情を日本に置いて、海外に行くんですね。

ジュリア:そうですね、私自身が大きくなるために日本を離れます。でも、負けっぱなしで終わらせるわけにはいかない。世界でプロレスを学んで、絶対にSareeeを倒します。

 Sareeeは一生のライバルだし、彼女にとっても私が一生のライバルであってほしい。だから7月30日後楽園のリングでは、Sareeeに「日本の女子プロレスを、マリーゴールドをよろしくお願します」と頭を下げました。

――8月19日、国内ラストマッチの相手に桜井麻衣選手を指名しました。スターダムを席巻したユニット「DDM(ドンナ・デル・モンド)」対決ですね。

ジュリア:桜井とはDDMとか師弟とか、そういう次元の関係ではないんです。彼女とはレスラーを引退した後も関わりがあると思う。私は人生レベルで、「桜井と出会ってよかった」と思ってる。

 だけど、レスラーとして"桜井麻衣"を見ると、その後ろには必ず私の存在がつきまとってくる。それに悩んだり苦しい思いもしているから、「解き放ってやらなきゃいけないな」って。

 私たちは、ただ「好き・嫌い」とか、そういう"女子っぽい"関係じゃないんです。前の団体をやめて、覚悟を決めてマリーゴールドの旗揚げに参加した。だけど、彼女がもっと上に、先にいくために、私の存在はよくも悪くも邪魔になっている。だったら闘わなきゃいけない。私もけじめをつけなきゃいけないから、ラストマッチに指名しました。

――ラストマッチも楽しみですが、その先の目標を教えていただけますか?

ジュリア:私はどこにいても、「日本の女子プロレスを、たくさんの人に届けたい」という思いでプロレスを続けます。そのために、私はもっと今より大きな存在にならなければいけない。だから海外に行く。そして、必ず日本に戻ってきます。

 その時までに、私が愛するマリーゴールドがしっかり地に足をつけた団体になっていてほしいし、選手たちにはプロレスを、"自分"を心ゆくまで表現する楽しさを満喫してほしい。今はそのための枠組みや土台作りをしているところ。残り少ない時間ですが、私が持っているものすべてを、選手ひとりひとりに伝えたいと思っています。

<プロフィール>
ジュリア

1994年2月21日生まれ、イギリス出身。162cm。2017年7月にアイスリボンのプロレスサークルに入会。同年10月29日にプロレスデビューを果たす。2019年11月にスターダム入団。2020年1月4日、新日本プロレス・東京ドーム大会に出場。1月19日、新ユニット「ドンナ・デル・モンド」を結成。同年に3月24日、STARDOM Cinderella tournamentを優勝するなど、2020年度プロレス大賞・女子プロレス大賞を受賞した。2022年10月1日に5★STAR GP 初制覇し、12月29日にワールド・オブ・スターダム王座を奪取。2024年3月にスターダムを退団し、ロッシー小川らと共にマリーゴールドを旗揚げした

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