夏の甲子園 低反発バットで野球が変わった ブレークスルーを果たした指揮官たちの挑戦

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2024年08月20日 07:10  webスポルティーバ

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 もう勢いのある若い監督という立ち位置ではなくなった。就任して25年になる関東一の米澤貴光監督にとって3回戦は絶対に勝たなければいけない相手だった。

「変な意識はないですけど、やっぱり高校野球界を引っ張ってきた人たちを、僕らはしっかり見なきゃいけないと思う。変えていくことも大切なんですけど、経験ってすごく大事。明徳義塾はすべてに徹底しているチーム。狙い球だったり、守備も含めて、安定感とか、やっぱり強いなって思います」

 そう話す米澤監督の関東一は、ようやく名将・馬淵史郎監督が率いる明徳義塾(高知)を3度目の挑戦で勝利を手にした。

【3度目の挑戦で明徳義塾に勝利】

 ひとつのミスも許されない、采配ひとつで変わってしまうような試合だった。

 明徳義塾が先制し、関東一は追いかける展開だったが、5回裏に相手のミスで同点に追いつくと、米澤監督は初戦に続き、リリーフ待機していたエースの坂井遼をマウンドに送った。これが功を奏した。

 初戦の北陸(福井)戦でもエースの坂井を早めにマウンドに上げているが、これこそが勝利に向けてスイッチを入れる瞬間だ。その北陸戦では3回にチームが逆転した直後に投入。試合の主導権を引き寄せると、その後も着実に加点して大勝した。

 明徳義塾戦では、当初は坂井の前にもうひとり投手を挟むつもりでいたが、相手打線との相性を鑑みて、予定を変えたという。

「捕手の熊谷(俊乃介)とずっと話していたんですけど、速いボールのほうが明徳さんはどうなのかなっていう思いがありました。ブルペンの様子を見て、控えキャッチャーが『今日は坂井のほうがいいと思う』と伝えてきたので、そういう選択になりました」

 過去2回の明徳義塾との試合は、大差がつくことはなかったが、イニングを重ねるごとにジリジリと離された。米澤監督は、そうした過去の対戦を振り返りながら采配を振るったことで、試合の流れを決めた。

 攻撃面では低く強い打球を打つスタイル。確実性の高いバントと、成功率の高いエンドランでチャンスをものにした。

「自分たちがやる最大限のことをしようといつも言っていて、ランナーをたくさん出しても得点を与えないというのが目指すところ。準備できる限り準備はします。『あれをやっておけばよかった』なんて絶対に思いたくない。明徳さんには2回挑戦してはね返されての3回目ですし、こういう形で勝ち切れたというのは、野球部にとっても、学校にとっても大きな財産になったと思います」

 関東一の戦いを見て感じたことは、 "守備力"がいかに重要であるかだ。二遊間を中心に鉄壁のディフェンスで、簡単に得点を許さない。低反発バットが導入された影響もあるだろう。

【戦況を読みながら戦う】

 そして今大会は、報徳学園(兵庫)をはじめ、大阪桐蔭、花咲徳栄(埼玉)などの優勝候補が序盤で敗退。その一方で、ベスト8に進出した大社(島根)、ともに1勝ずつを挙げた石橋(群馬)や掛川西(静岡)といった公立勢の奮闘が目立った。

 快進撃の理由について、地元出身の選手がほとんどでまとまりがあるとよく語られているが、実際はそうではない。低反発バットの影響で野球が変わり、1点の重みが変わってきた。そのなかでどういう戦いができるかが重要になる。

 高校野球にミスはつきものだが、攻守においてどれだけ少なくできるか。またひとつの走塁によって大きく戦況が変わることもある。以前に比べて、失点をどう計算するかなどのゲームプランも必要になり、それをうまくできたチームが優位に試合を進めている。

「投手を中心にしっかり守って、苦しい時には粘ってワンチャンス、ツーチャンスを狙う。初戦はそうした戦いができ、こういった野球をすれば形になると自信になりました」

 21世紀枠での初出場(2023年センバツ大会)から1年で、夏の甲子園出場を果たした石橋の福田博之監督はそう振り返る。

 初戦(2回戦)で聖和学園(宮城)に5対0と完勝。エース兼4番の入江祥太の獅子奮迅の活躍が大きかったが、少ないチャンスを確実にものにして、全員で守り抜く野球で甲子園初勝利を飾った。

 3回戦の青森山田戦は、初回に2点本塁打を浴びたが、2回の一死二、三塁のピンチでは前進守備を敷かずに引いて守った。内野ゴロで1点を献上することになるが、この回はその失点だけにとどめ、5回まで3点差の締まったゲームを展開した。

 最後は力尽きたが、福田監督はこう手応えを口にする。

「2点ビハインドのピンチでの守備位置は迷ったんですけど、我慢の最少失点ということを言ってきた。そこで前進守備をせずにいこうと。おそらく、前進守備だったら内野を抜かれていたと思う。だから、うしろを守って正解だった。次の打者も打ちとっているので、選手たちは賢く考えて野球をしてくれたと思います」

 また26年ぶりに夏の甲子園に出場した掛川西(静岡)も石橋と同じような戦いで、1回戦の日本航空(山梨)戦で60年ぶりの勝利を飾った。どう守り抜いていくのかがチームとして整理されていて、攻撃面では積極的な走塁が光った。

 試合後、大石卓哉監督の言葉が印象に残った。

「自信を持ってプレーすることに関しては、力を出し切れたんじゃないかと思います。戦い方に関しては、状況と場面に応じながら、最少失点に切り抜けていく。終盤に勝負をかける時には大事かなと思います。たとえば、一死一、三塁の場面を1失点で切り抜けていく。点を与えても、自分たちのペースだと思えるような守備というんですかね。状況を読みながら、流れを読みながら、展開していくことはできたかなと思います」

 2回戦で智辯和歌山を破り、甲子園初勝利を挙げた霞ヶ浦(茨城)も延長タイブレークにもつれた試合で、2点リードの11回裏、智辯和歌山の攻撃を1点にとどめるディフェンスに徹底して勝利を挙げた。霞ヶ浦の高橋祐二監督も、ブレークスルーを果たした指揮官のひとりだった。

「いつもは大事な場面で崩れてしまうことが多く、勝てなかった。今年のチームは積極的な選手が多く、それが違ったのかなと思います。ただ3回戦(滋賀学園戦)は力を発揮できなかったので、もう一度地元に帰って、なぜ勝てなかったのかを整理して、次につなげていきたい」

 ただ豪速球を投げ、豪快に振り抜いて得点を上げていく。高校生でもプロ顔負けのようなプレーを見せるのが、昨今の高校野球だった。だがこの夏、ブレークスルーを果たした指揮官たちの野球を見ると、とにかく1点に強いこだわりをみせた。そういう意味で、今大会は野球における大切なものを再考させてくれたのではないかと思う。

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