無線と本人コメントで振り返る『太田vs牧野』大熱戦「どっちか決めてくれないと分からないじゃん!」/第5戦もてぎ

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2024年08月26日 19:10  AUTOSPORT web

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チームメイト同士のトップ争いを繰り広げた太田格之進(6号車)と牧野任祐(5号車)
 8月26日にモビリティリゾートもてぎで行われた2024全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦決勝では、DOCOMO TEAM DANDELION RACING同士の首位争いが終盤に白熱したが、トップを走っていた太田格之進がファイナルラップ手前の90度コーナーでスロットルトラブルに見舞われスピン。2番手を走っていた牧野任祐が今季2勝目を飾った。

 スピンを喫した太田は泣き崩れ、優勝した牧野もまったく笑顔を見せないという、ある意味で異様な結末を迎えた今季のもてぎラウンドだが、チームメイト同士であっても一歩も引かなかったふたりのバトルに興奮したファンは多かったことだろう。

 改めて、公式アプリ『SFgo』で公開されているチームラジオ(無線)と、ふたりのコメントをもとに、“ガチ攻防戦”を振り返ってみたい。

■戦略ターゲットは山下健太。ギリギリのタイミングで太田が“決断”

 37周で争われた今回のレース、2番手スタートの太田格之進はピットウインドウが開いた10周目にピットインし、一方で5番グリッドから追い上げた牧野任祐はレース後半までコース上に留まるという作戦を選ぶという、お互いに真逆の動きを採ることとなった。

 公式映像でも「6(太田)がミニマムで入るのなら、俺は入らないから……早く決めて!」という牧野の無線が流れた。

「正直早く決めてほしいな、という感じでした。ただ、ポジション的には僕が後ろだったので、優先権は6号車にありました。それ次第で自分の戦略が変わってくるのかなと思っていました」(牧野)

 その優先権を持っている太田の6号車陣営もミニマムでピットストップするか否かをギリギリまで悩んでいた。

「チームは『引っ張っても良いのではないか?』と言っていたのですけど、ヤマケン(ポールポジションスタートの山下健太/KONDO RACING)が入らないのであれば、僕が入ってアンダーカットをするという感じでした。彼が入らなかったので、僕が(ピットに)飛び込みました」(太田)

 SFgoの無線を振り返ると、太田はペース的には山下よりも分がありそうだが、追い抜けるまでの差ではないとチームに報告。それに対して吉田則光エンジニアは「ペースがあるなら(ピットを)延ばそうか?」と提案すると「雨が降らないのを信じて入っても良いよ」と太田。どうやら、サーキット近くにあった雨雲の接近を気にしていた模様だ。

 いろいろとやり取りをした結果、ウインドウが開く10周目のファーストアンダーブリッジを通過したあたりで「ヤマケンが入らないんだったら、入るよ!」と太田が決断し、ダンディライアン勢の戦略が決定。この間、指示を待っていた牧野は痺れを切らし「どっちか決めてくれないと分からないじゃん!」と杉崎公俊エンジニアに無線で詰め寄る場面もあったが、6号車の戦略が決まったことで「ヤマケンが入ったら一緒に入ってきて!」とコース後半部分で牧野に最終情報が伝えられた。

 結局、トップの山下がステイアウトを選択したことで太田が10周目にピットイン。牧野も後半まで引っ張る戦略に頭を切り替え、周回を重ねていった。

「アンダーカットをして(山下に対して)1周あたりで1〜2秒くらい速かったけど、さすがに26周くらいを同じタイヤでいくので、最後は厳しいなと思う場面もありました。でも、ずっと36秒台をキープできていたということを考えると、良い仕事はできたのかなと思います」とレース中盤を振り返る太田。

 それに対して牧野は、山下を逆転するために自身のピットタイミングをどうするかについて杉崎エンジニアと話し合いを始めていた。

「彼に対しては絶対にアンダーカットしないといけないなと思っていました。同じタイミングで入ってしまうと、また彼の後ろにまわってしまうことになるので、その話は事前にしていました」(牧野)

 最終的に22周目のタイミングでピットインを決断。それでも「もしヤマケンが入ったら、(自分は)入らないよ」(牧野無線)と、ピットストップのタイミングが被らないことを最重要視していた。

 山下は牧野の翌周、23周目にピットイン。その間に牧野はセクター3とセクター4で全体ベストタイムを記録し、メインストレートではOTSも発動させて、逆転に成功した。さらには25周目には大湯都史樹(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)を抜いて2番手に浮上。約10秒先の太田を追いかけた。

「特に後半まで引っ張っていく展開だと、残り10〜11周で入るというのがセオリーだと思います。残り15周というちょっと早いタイミングで入ったので、その分最後は厳しくなるかなと思ったのですけど、まずは山下選手の前に出るというのが目標だったので、戦略という意味でやれることはやったのかなと思います」(牧野)

 一方、逃げる太田は20周目付近まで雨雲を心配していたが、吉田エンジニアから「雨は大丈夫!」ということを確認すると、ライバルの状況と各ギャップを確認しながら周回を進めた。

■両者に出された「クリーンファイトで」の指示

 2番手に上がった時点で太田との差が約11秒あった牧野。この後も杉崎エンジニアから大湯を含めた付近の状況が逐一伝えられていたが「もうやることは分かっているから大丈夫!」と振り切り、太田とのギャップを縮めていった。33周目終了時点で、両者の差は1.5秒まで縮まった。

 このタイミングで公式映像でも流れた「後ろ任祐ね。クリーンファイトでお願いします」という吉田エンジニアの無線が太田へ飛んでいたが、同じように杉崎エンジニアからも牧野に対して「クリーンファイトで頑張ろう! クリーンファイトでお願いします」と伝えられていた。

 そして、残り3周。ついに両者のバトルが本格化するが、この時点での各OTS(オーバーテイクシステム)残量は太田が94秒だったのに対し、牧野は96秒とほぼ同じ。SFgoで振り返ると、34周目の最終ビクトリーコーナーを立ち上がったところで、牧野がOTSをオンにした。

 これに対し逃げる太田は「ちょうどメインストレートで(牧野がOTSを)使い始めたのを大型ビジョンで見て『相手が使っている』というのは把握した気がします」。1コーナーに入るタイミングで吉田エンジニアからも「今、任祐がOT使っている!」と無線が入り、太田も2コーナーを立ち上がったところでOTSを発動。ここから手に汗握るバトルが始まった。

 ミニマムのタイミングでタイヤ交換をしている分、タイヤ的には苦しくなっている太田。オンボード映像を見てもリヤタイヤをスライドさせる動きが増えていた。

「1コーナーでインから来られて、3コーナーも危なくて……けっこうギリギリで抑えていた感じでした。でも『ここで(OTSを)切ると、も相手がコース後半も使い続けていたら仕掛けに来るだろうな』と思ったので、切らずにそのまま行きました」(太田)

 コース前半で決定打を見出せなかった牧野だが、後半で真後ろに近づくとヘアピンでインに飛び込んで一瞬前に出る。しかし、クロスラインを取った太田が抜き返す。

 直後の90度コーナーでは牧野がアウトから襲いかかるが、ここでも太田は一歩も引かず。35周目のバトルは太田に軍配が上がった。

■「最高のチームメイトとチームに恵まれてレースができている」

 この時点でのOTS残量は太田が19秒で、牧野が6秒。36周目はお互いインターバル(OTSが使用不可の時間帯)を挟むため、ファイナルラップでの一発勝負かと思われたが、90度コーナーで太田がスピンを喫し、バトルは思わぬ幕切れを迎えた。

「何とかあの周を抑えられたし、向こうも残り数秒しかないという状況だったので『これはもらったな』と正直思いました。でも、ああいう結末になるとは思っても見なかったので……残念ですね」(太田)

「残り3周のところで仕掛けていって、90度コーナーまでバトルしていきましたけど、そこで決め切れなかったです。そこでOTもほぼ使い切って残り6秒くらいだったので……勝負には負けたなと思っています」(牧野)

 終わり方は予想できないものになってしまったが、“クリーンファイト”という指示が出ていながらも、手に汗握るバトルを繰り広げたふたり。もっとも白熱した35周目については、改めてこのように振り返った。

「僕たちは開幕戦の鈴鹿でもバチバチにやっているので、そこはお構いなくというか……。僕は僕でヘアピンは無理やりいったし、彼は彼で90度コーナーは無理やりブロックしてきました。でも、お互いに信頼しているからできたバトルだったのかなと思います」(牧野)

「開幕戦もそうでしたけど、やっぱりお互いのことを信頼しているからできるバトルだと思いますが、今日に関してはちょっと……ギリギリだったかなと(苦笑)。90度コーナーに関しては僕もアグレッシブに行き過ぎたところもあって、そこに対しては『ゴメンね!』という気持ちはあります」(太田)

「チームに『クリーンファイトで!』と言われましたが『でもトップ争いなんだから、そりゃ激しくはなるよねとは思いました。でも、ああいうバトルがあるのがSFだし、最高のチームメイトとチームに恵まれてレースができているなと思います」(太田)

 それぞれのコメントにもあるとおり、3月の開幕戦鈴鹿でも互いに一歩も引かないバトルをみせていたふたり。今季は富士と鈴鹿で2大会4レースが残っていることを考えると、またどこかで一歩も引かないチームメイト対決が見られるかもしれない。
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