高橋大輔「宝石って人を惑わす」切なく、狂おしく『フレンズオンアイス』で表現した不思議な世界

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2024年08月30日 18:30  webスポルティーバ

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「フレンズオンアイス2024」高橋大輔 編

【レジェンドのきらめきが炸裂】

 8月29日、KOSE新横浜スケートセンター。世界中から選りすぐりのフィギュアスケーターが集ったアイスショー『フレンズオンアイス2024』のリハーサルが公開された。

 オープニングで高橋大輔は荒川静香、浅田真央と豪華な共演。日本というよりは世界のフィギュアスケートを担ってきた3人の"画力"は強い。その歴史も含めて訴求力があり、何気ない滑りにもレジェンドならではの風情がある。

 なかでも、高橋は肩の力が抜けて軽やかだった。

「3人でひとつのナンバーを滑ったことはなかったので、つくっている時から楽しかったです。とくに大ちゃん(高橋)が頼りになって、一番しっかりしていて、びっくりしました!」

 荒川がそう洩らしていたように、高橋の"調和力"は飛び抜けていた。空間認識力が高く、リズム感も並外れて、何よりスケーティングの基礎が分厚く、完璧な佇まいだった。

 それはシングルからアイスダンスとジャンル(種目)を変更し、世界トップに迫ったこともあるのだろう。このコラボレーションだけでなく、周りとスケーティングを合わせるところで、懐の深さを見せていた。

 滑りの一瞬一瞬に、高橋が長年スケーターとして積み上げてきた軌跡のきらめきがあった。

【表現に対する徹底的なこだわり】

「宝石」。それが今回のショーのテーマだという。高橋は滑ることで、それを体現していたーー。

 ショー1部の山場、高橋はソロナンバー『Wake Up, You're Dreaming』で幻想的な滑りを見せている。

「宝石って人を惑わす部分も多いのかなって思うんです。その惑わせるっていうところから、不思議な世界に迷い込んでしまい、そこから抜け出せなくなってしまう。その感じを、自分自身で振り付けしました」

 高橋は、自身のソロプログラムについてそう説明している。

「曲調もきれいな感じで始まって、そんな感じで続くのかなと思いきや、ジャズっぽくも、ブルースっぽくもあって、またきれいな感じに戻る。解釈するのがとても難しい曲だなと思いました。だからこそ、不思議な雰囲気を出せるかなと。最近は他のスケーターと一緒に滑るほうが多いので、緊張感が少し高いんですけど(笑)」

 世界観の演出は、やはり傑出していた。モノトーンの衣装で、シルバーとホワイトの中間色の上着は謎の文様が施され、裾がすらりと長く、滑るたびに大きく揺れる。袖は黒く、パンツも黒く、それがコントラストで、冬の木のような寂しくも雄大な印象を与え、なびく金髪が何かのサインのようだった。

「本当は、(金髪に見える)髪の毛ももう少し白を入れたかったんですが」

 高橋は言うが、表現に対しては徹底的なこだわりがあるのだろう。色や模様や空間をどう使うか。それは服装や部屋の感じなど、日頃から考えていることで、センスが鍛錬されている。醸し出す空気は、一朝一夕ではない。

【才能と繊細さが織りなす世界観】

「才能があるのに繊細な男の子で、どう成長するのか。それが(幼い頃の)大ちゃんの第一印象でした」

 荒川の高橋評である。そのセンスは、スケート界にあっても卓抜だ。

 高橋は競技者として男子シングルでは五輪初のメダルを獲得するなどパイオニアとなり、現役復帰して全日本選手権2位になって、転向したアイスダンスでも全日本で優勝している。どれも前人未到の快挙である。フィギュアスケートをやり抜くことで、表現者としても高みに達したのだろう。

 この日、高橋は3回転フリップでステップアウトしたが、今の彼はそれを云々される領域にいない。スケーティングの間合いだけで、人を引き込める。切なさや儚さや狂おしさを数分、数百秒でひとつに凝縮し、伝えられるのだ。

 シングルスケーターとして最後の年、高橋はインタビューで信条をこう語っていた。

「スケートを滑り続けたい。滑る仕事を続けていきたいです。スケート......やっぱり楽しいんでしょうね。当然、体はしんどいですよ。(着氷する)右足は練習後に腫れてしまって。体の軸は歪んでいるし、すぐに負荷がかかります。でも、何が楽しいのかって......たぶん、(表現で)会場全体がひとつになるのが好きなんですよ」

 その言葉に、表現者としての適性と自負を感じさせた。

 ショー2部、高橋はグループナンバー『Cell Back Tango』、さらに『Exogenesis Symphony Part3』とたくさんのスケーターと共演し、よさを引き出し、引き出されてもいた。そうした協力関係を結べるのが、彼の才能なのだろう。

 村元哉中とアイスダンスのカップルを組んだ「かなだい」の時代も、糧になっている。グランドフィナーレでは、サービスで村元とリフトを披露していた。

「それぞれのソロ、コラボナンバーも、すばらしい世界観が感じられるはずで。皆さんに来てもらって、楽しんでもらえればと思います!」

 高橋は笑顔で言う。宝石の輝きをーー。ショーは8月30日から9月1日まで、全6公演が行なわれる予定である。

「フレンズオンアイス2024」浅田真央 編を読む>>

「フレンズオンアイス2024」宇野昌磨 編を読む>>

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