【写真】会見終了後に記者たちからサインを求められた黒沢清監督
本作は、ネット社会に広がる見えない悪意と隣り合わせの“いま”ここにある恐さを描くサスペンス・スリラー。
プレミア上映に先駆けて行われた記者会見直前に、第97回米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に選ばれたことが発表された本作。
そのニュースはすでにイタリアにも届いており、司会者からお祝いの言葉を贈られた黒沢は、「本当に純粋な娯楽映画を作ろうというところからスタートした作品です。まさか今回のヴェネチア国際映画祭への出品も含め大きな名誉みたいなものと縁があるとは思っていなかったので、もう大変驚いています。それと僕の大きな楽しみは、この作品がアカデミー賞にノミネートされるようなことがもしあれば、主演の菅田将暉さんが、アメリカで大いに知られることになるだろうと想像すると、とてもそれは嬉しいことです」と喜びとともに、今回タッグを組んだ菅田とアカデミー賞の場へ立つ夢を語った。
1997年に発表した『CURE』で世界から大絶賛され注目されつづけている黒沢は、2001年に発表したJホラーの金字塔ともいわれるインターネットを題材にした『回路』を発表。本作でもネット社会を描いていることから、『回路』に絡めて『Cloud クラウド』の成り立ちについての質問が。
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「その人間の心に中にある“欲求不満”あるいは“歪み”のようなものが、インターネットを通して異常に増幅され、集結してしまう。そういう現象は20数年前は考えられなかった。人間の心の中こそが今、やはり問題で、インターネットはそれを象徴的に表してると考えています。この発想がこの映画の原点になっています」と語った。
菅田演じる吉井の転売ヤーという設定については「知り合いに転売をやってる男がいたことがきっかけです。彼は別に悪いことをしてるというわけではなくて、ただ大きな組織の中で働くということが苦手で取り立てた何か才能があるわけではなく、もちろんお金があるわけでもない。それでも現代の社会で生きていこうとするときに、ひとつの生き方だと思いました。資本主義の冷たい現実があって、いかにもそのような現代を象徴する仕事だと思い、主人公を転売屋という設定にしました」と現代社会に切り込み解説。
さらに、本作がもつ現代性を荒川は、「実際、日本でも、私たちがその企画を始めた6年前にはなかったような事件、突然見知らぬ人から襲われるといった事件が日常的に起こるようになりました。あえてそれを狙って作っていたわけではないのですが、世相と本作がどんどん近づいていき、最終的にとても現代的なテーマを持つ作品になりました」と続けた。
そして、主演・菅田の話題に。黒沢は、「菅田将暉さんは、その世代で人気・実力ともにも圧倒的にナンバーワンの俳優です。彼はあらゆる役を演じ分けることができる人です」と菅田の魅力を世界のジャーナリストにアピール。
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荒川は「黒沢監督の長いフィルモグラフィーの中で、90年代はVシネマ、2000年代はJホラーを中心に、2010年代は原作ものを職人監督として面白く撮る、といった時代ごとに変遷がありますが、図らずも今年は、本作をはじめ黒沢監督の原点回帰とも言えるような作品が続きます。黒沢監督の作品は常に集大成と言われることがよくありますが、そうではなく、黒沢監督は常に新しいことに挑戦し続けている監督だと私は思っています。この作品をきっかけに次の黒沢監督の新しいフィルモグラフィーが続いていくことになれば嬉しいです」と、“今”を更新し続ける黒沢作品への思いを伝えた。
さらに、世界のジャーナリストからの質問も続き、黒沢作品への熱い期待と興味が尽きない中会見は終了。終了後は、世界から愛される黒沢だけに、サインを求める記者たちの行列ができるほどの人気ぶりだった。
そして、いよいよレッドカーペットに黒沢が登場。国際映画祭の常連だけあり「KUROSAWA!」コールも起き、記者会見に引き続き、レッドカーペットに待ち受ける世界中の映画ファンの声援とサインの要望に応えた。黒沢監督はレッドカーペットのゴールで待つ、黒沢ファンという映画祭ディレクターのアルベルト・バルベーラに出迎えられ熱い握手を交わしヴェネチア国際映画祭のメイン会場であるSALA GRANDEへ。
場内では、黒沢が登場するや待ちわびていた観客たちから熱気を帯びた拍手が贈られ上映前から既に大盛り上がり。現地時間同日23時45分から上映スタートのミッドナイト上映にもかかわらず1032席を埋め尽くし満席だった。上映終了後も、さらにテンションの高いスタンディングオベーションが湧きおこり、鳴りやまない熱い拍手喝采の中、黒沢は照れた表情を見せながらも安堵したような笑顔で応え、会場を後にした。
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