サッカー日本代表の「新顔」望月ヘンリー海輝がサイドバックの序列を崩す 指揮官も絶賛「恐ろしいスピードが出る」

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2024年09月02日 12:20  webスポルティーバ

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 無印ながら特大のポテンシャルが、いきなりスポットライトを浴びることとなった。FC町田ゼルビアの大卒ルーキー・望月ヘンリー海輝がワールドカップ最終予選に臨む日本代表に初選出されたのである。「海輝」は「ひろき」と読む。

 ナイジェリア人の父親から受け継いだ遺伝子は、192cmのサイズに色濃く出ている。この長身でDFならセンターバックを任されそうだが、ストライドの大きさを生かした推進力はサイドプレーヤーとして際立つ。フィジカルを全面的に押し出す町田で、望月の可能性と将来性は少しずつクローズアップされていった。

 ガンバ大阪とのシーズン開幕節で、途中出場ながらいきなりデビューした。しかし、その後は出場機会を得られなかった。

 望月が主戦場とする右サイドバックには、リスタートのキッカーとロングスローを担当する鈴木準弥がいる。セットプレーを重要な得点パターンとするチーム戦略では、欠かせない選手のひとりだ。

 その鈴木の陰に隠れていた望月にチャンスが巡ってきたのは、4月21日のFC東京戦(第9節)だった。「(相手の)両ウイングが足の速いタイプの選手だったため、スピードや空中戦への対応、またロングスローでのターゲットになれる」(黒田剛監督)との理由から、スタメンに抜擢される。

 はたして、背番号33を着ける22歳は期待に応えてみせる。

 1-1で迎えた25分だった。右サイドへのフィードに反応すると、ゴールラインぎりぎりで右足を伸ばしてクロスを供給する。オ・セフンのヘディングシュートをアシストしたのだった。

 スタメンに定着したのは、6月15日の横浜F・マリノス戦(第18節)からだ。8月25日のアルビレックス新潟戦(第28節)までの11試合中9試合に先発し、29日に発表された日本代表のメンバーに名を連ねたのだった。

 日本代表の森保一監督は「非常にフィジカルの能力が高く、サイズ的にも魅力がありますし、サイドバックとして上下動ができる」と評価する。さらに「守備はまだまだ改善しなければならないところはあると思いますが、ボールを果敢に奪いにいく姿勢を見せてくれている。落ち着いてビルドアップに関わることができる。時にはターゲットとして高さを活かして攻撃の起点になれる」と、その選考した理由を説明した。

【22歳を取り巻く空気は劇的に変わった】

 代表メンバー発表から2日後に行なわれたJ1リーグ第29節の浦和レッズ戦で、望月は4-4-2の右サイドバックで先発した。20分には攻撃で持ち味を発揮する。左センターバックの中山雄太のフィードを敵陣で受けると、冷静なトラップからの鋭いターンで縦へ抜け出す。グラウンダーのクロスが、藤尾翔太の決定的なシュートを導いていた。

 だが、チームは前半を0-1で折り返し、黒田監督は後半開始から動く。守備時と攻撃時でシステムを可変させる戦略とし、右サイドバックを望月から鈴木へ代えたのだった。

 試合後の記者会見で、黒田監督は前半で下げた望月を気遣った。

「重圧のかかる試合では、平常心でプレーできないメンタルの弱さもあります。日本代表という重い荷物を背負わされるような状況で試合に入りましたし、まだプレッシャーを力に変えられるような選手ではないですから、難しい状況だったかもしれません」

 望月自身は「試合の入りはあまりよくなかったですが、自分の出来がメチャクチャ悪かったというわけじゃなかったです」と振り返る。黒田監督の記者会見でのコメントを聞くと、「なるべく試合に集中しようと考えていたんですけど、やっぱりちょっと難しいところはあったかな、と思います。今日の試合に100パーセント集中していたつもりでしたが、外から見たらそうではなかったのかな」と言う。

 長身が目につく彼がミックスゾーンに出てくると、どの選手よりも多くの記者が集まった。22歳を取り巻く空気は、この数日で劇的に変わっている。

 望月自身の心境には、まだ、変化はない。代表合流について聞かれると、「ううん、まあ、そうですね......あんまりそこは考えていなかったです」と率直な思いを明かしつつ、言葉を詰まらせることなく続ける。

「練習を通して思いきってやっていくなかで、いろいろなことを言われると思うんですけれど、成長していきつつ、代表の力になれたらなと思います」

【ロールモデルに掲げた選手は酒井宏樹】

 チームのキャプテンで2018年のロシアワールドカップ代表メンバーでもある昌子源からは、「思いきってやって来いよ」と声をかけられた。送り出される立場になって、代表選手としての自覚が芽生えつつある。

「FC町田ゼルビアでも自分のためだけ、ということではないのですが、日本代表というのはさらにそういう思いが強くなるというか、サッカー選手としてトップの場所だと思うので、日本全体のためという責任がすごくある場所だと思います」

 日本代表の右サイドバックの序列は、今夏にサウサンプトン入りした菅原由勢を最上位とする。その菅原の後継としてオランダのAZに加わった毎熊晟矢は、初の欧州移籍の直後ということもあって招集を見送られたのだろう。6月のミャンマー戦に先発した橋岡大樹は、負傷により戦線離脱中だ。

 望月の序列が2番目、ということではない。森保監督も「完成している選手ということで招集しているわけではない。チームの活動を通して、どれくらいできるか見ていくところはある」と話している。

 ポテンシャルに疑いはない。192cmの長身でありがなら、身のこなしがしなやかなのだ。リーチの長さも強みである。相手と並走しながらほんの少し前へ出てクロスを上げたり、ぎりぎりのところで足を伸ばしてシュートやクロスをブロックしたりするのだ。

 さらには、スピード豊かなのである。町田の黒田監督は「攻守にわたってスピードを活かせる選手です。前に自分の道が開いたら、恐ろしいスピードが出る選手です」と評価する。攻撃時のフリーランニングはもちろん、守備のプレスバックも高速なのだ。

 本人は「高さもあってフィジカルも強い。自分のスタイルに近い」という理由から、酒井宏樹をロールモデルとしている。今はまだ荒削りな部分を残すものの、酒井にはない強みもある。国際舞台へ飛躍していく可能性は、十分にあると言っていい。

 浦和戦後のミックスゾーンでは、控え目な声量で自らの思いを明かしていった。性格は温厚で、闘志を内に秘めるタイプと言われるが、言葉に迷いはない。

 日本代表での抱負を聞かれると、間を置かずに答えた。

「チームでやってきたことを評価されていると思うので、それを活かしていきたいです」

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