Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由
浦和レッズ マリウス・ホイブラーテン インタビュー 後編
浦和レッズのDFマリウス・ホイブラーテンをインタビュー。最後となる後編は、積極的に日本に馴染もうとするその生活ぶりや、近年トップレベルの選手を続々と輩出する、母国ノルウェーのサッカーについて教えてもらった。
前編「ホイブラーテンが初めて母国を出て日本でのプレーを選んだ理由」>>
中編「ホイブラーテンが語るJリーグのレベルとプレーの心得」>>
【僕はピッチの内外で日本語を話すように心がけている】
「僕らはとてもいいコンビネーションを築けていたよね。でも僕は誰とパートナーになろうとも、常に自分自身でいるように心がけている。もちろん、最終ラインのリーダーの役割を担う必要があるとは思う。今のチームに、僕よりもセンターバックとしてプレーした選手はいないし、新たにレギュラーになった選手に伝えられることもあるはずだから。いずれにせよ、これからも僕は自分自身のやり方でチームに貢献していきたいと思う」
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6月末に浦和レッズからカタールのアル・ワクラへ移籍していったアレクサンダー・ショルツについて訊くと、マリウス・ホイブラーテンはそう返答した。1年半にわたって最終ラインの中央でコンビを組み、昨季のベストイレブンに揃って選出された元相棒だ。
とはいえ、プロの選手に移籍はつきもので、去った選手のことを考えても仕方がない。ホイブラーテンはそんなことを言いたいようだった。
ただしコミュニケーションの不安は、あってもおかしくない。ショルツとは、ノルウェー語とデンマーク語という北欧の似た言葉で通じ合っていたから、咄嗟の場面でも助け合えていたところがありそうだ。現在のパートナーである井上黎生人や佐藤瑶大らとは、日本語で意思を伝え合っているのだろうか。
「当然だよ!」とホイブラーテンは明るく答えた。
「僕はピッチの内外で日本語を話すように心がけているんだ。週に2回、日本語のクラスで学んでいるしね。試合中に使う単語はシンプルで難しくないし、フットボールの言葉は世界共通のものが少なくない。それに言葉も大切だけど、チームメイトの考えを互いに理解し合うことが、より重要だと僕は思う」
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【本場・日本の寿司は、びっくりするくらいおいしい】
浦和や日本に積極的に馴染もうとしてきたホイブラーテンは、日頃からこの国の文化にも触れている。日本文学への造詣が深かった元同僚のショルツの影響からか、彼もまた日本を舞台にした小説を読んだという。
「ショルツは文学だけでなく、日本のさまざまな文化や物事に精通していた。日本のことは、ほとんどすべて知っていると言っても過言ではないくらいにね。僕もそれは見習いたいと思っている。それにもとから読書が好きなので、最近『パチンコ』という小説を読んだよ。とても興味深いものだった」
『パチンコ』(原題『Pachinko』)は韓国系アメリカ人作家のミン・ジン・リーが書いた小説で、アメリカで100万部を突破した近年のベストセラーは、海外で絶賛されているという。ショルツとのインタビューでもそうだったが、こうして外国籍選手に日本に関連することを教えてもらうのも、新鮮だ。
それから好物の日本食については、こんなふうに語っている。
「日本は食文化も本当にすばらしいよね。種類が豊富だし、どれもものすごくおいしい。これまでに食べたものはすべて好きだけど、ひとつを選ぶなら、やっぱり寿司だね。日本に住む以前に食べたことがある寿司といえば、カリフォルニアロールのような創作ものが多かったけど、今は幸運にも、とても新鮮な本当の寿司を味わうことができている。シンプルながら、ディテールへのこだわりをひしひしと感じる本場の寿司は、びっくりするくらいおいしいね」
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休みの日には、東京ドームにプロ野球観戦にも行ったことがあるという。
「野球のルールはわからないところもあったけど、いい雰囲気のスタンドで、すごく楽しめたよ。いい経験になったね」
【ハーランドやウーデゴールとの思い出】
そして最後に、ノルウェー人のホイブラーテンに訊きたかったことを尋ねた。以前に元ノルウェー代表のタリク(元湘南ベルマーレ)にも訊いたことだが、人口550万人ほどの北欧の国がアーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)やマルティン・ウーデゴール(アーセナル)といった世界でもトップレベルのタレントを、輩出できている理由は何なのか、と。
「いい質問だね」とホイブラーテンは、このインタビューで何度か口を突いた言葉を繰り返した。
「正直に言って、その秘訣は僕にはわからないな。だってもしわかっていたら、僕自身が彼らと同じレベルになれていたはずでしょ(笑)。考えられるのは近年、ノルウェーの育成が現代的に発展していることや、ノルウェーのクラブが若手の起用に積極的なこと。でもそれ以外は、彼らの個人的な努力の賜物だと思うな。ホーラン(ハーランドのノルウェー語読み)とマルティンは年齢も近く(24歳と25歳)、どちらも父親が元プロだけど、おそらくそれは偶然だろう」
浦和に来るまでは母国でキャリアを積み上げてきたホイブラーテンは、両選手と一緒にプレーしたことがあるという。
「ストロムスゴセットでプレーしていた時、そこには15歳のマルティンがいた。その年齢でファーストチームに上がってきたんだけど、当時からとてつもないレベルのスキルを持っていて、思いどおりにボールを操っていた。間違いなく、ビッグクラブや代表で活躍できると思ったよ。少し遠回りしたけど、今はそのとおりになっているよね。
ホーランとは彼が(モルデに所属していた)19歳の時に、対戦したことがある。その頃からフィジカルは群を抜いていたけど、率直に言って、彼がここまでの存在になって驚いている。きっと、ザルツブルクで大きく成長したんだろうね」
最近では、マンチェスター・シティの21歳のウイング、オスカー・ボブも台頭しているように、ノルウェーは引き続き好タレント生み出している。ホイブラーテンの8カ月になる息子の将来も楽しみだ。
「そうだね! 強要はしないけど、もしフットボールをしたいと言ってくれば、最高だよ」
プロ選手を父に持つ次なるワールドクラスのノルウェー人は、日本に縁のある選手になるかもしれない。
(おわり)
マリウス・ホイブラーテン
Marius Hoibraten/1995年1月23日生まれ。ノルウェー・オスロ出身。2011年、リールストロムで16歳でトップチームデビュー。ストレンメン、ストレームスゴトセト、サンデフィヨルド・フォトバルを経て、2020年からはボーデ/グリムトでプレー。国内リーグ2連覇に貢献した。U−17、U−19、U−21と年代別のノルウェー代表の経験がある。2023年より浦和レッズでプレー。2023シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。