最終戦での逆転は16年で5回、勝負のカギはタイヤ戦略。パロウvsパワー、王者の行方は?/インディカー最終戦ナッシュビル

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2024年09月12日 12:50  AUTOSPORT web

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アレックス・パロウがウィル・パワーに33点差をつけ挑むナッシュビルでのインディカー最終戦
 2024年のNTTインディカー・シリーズ最終戦はナッシュビル・スーパースピードウェイで開催される。インディカーの最終戦がオーバルコースで行われるのは、2014年以来のこととなる。

 オーバルでは自らクラッシュしたり、誰かのアクシデントに巻き込まれてリタイアに追い込まれることもある。それは狭いストリートコースでも同じこと……という意見もあるが、33点のポイントリードを持って最終戦を迎えるアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)が、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シボレー)に対して有利な立場にあることに間違いはない。もちろん、パワーが逆転して王座に着く可能性も十分に残されている。

■逆転王者は過去5回

 歴史を紐解いてみよう。分裂していたアメリカン・オープンホイールが1シリーズに統合された2008年からのタイトル争いでは、最終戦をポイントリーダーで迎えながらチャンピオンになれなかった例は5回だ。

 16シーズンで5回は、結構な割合ではないだろうか? 2009年にはダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)がスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)の持っていた6点のリードを逆転してチャンピオンになり、2010年にはやはりフランキッティが、12点差でトップだったパワーを逆転してタイトルを奪取。パワーは2011年にも11点あった差をフランキッティにひっくり返された。

 フランキッティは3年連続で最終戦での大逆転を実現し、3年連続チャンピオンの偉業を達成した(タイトル獲得はトータル4回)。

 2012年はライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート/シボレー)が最終戦でパワーを逆転してチャンピオンになった。フランキッティとは対照的に、パワーは3年続けて最終戦をポイントリーダーで迎えながら、その3年すべてでタイトルを取り逃がしたのである。古い話を蒸し返してパワーには申し訳ないが……。

 そして、5回目の大逆転は2015年のことだった。ファン・パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー/シボレー)はグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)に34点、ディクソンに47点の差をつけていたが、2013年から2019年までのインディカー・シリーズは最終戦をダブルポイントとしていたこともあり、ディクソンが大・大逆転を実現した。

 これらの記録を見て気づくのは、パワーがカーナンバー10との勝負となったチャンピオン争いで一度も勝てていないこと。チーム・ペンスキーもまた、チップ・ガナッシ・レーシングとのタイトル争い一騎打ちでは非常に分が悪い。

 彼らの間で最終戦までタイトルが争われたケースは9回あったが、そのうちの8回でガナッシのドライバーが王座に着いている。パワー有利のデータもひとつだけだが見つけた。彼が初めてのタイトルを手中に収めた2014年の最終戦はフォンタナだった。シーズンフィナーレがオーバルレースだった、いちばん最近のシーズンにチャンピオンになったのはパワーだった。



 今年もガナッシとペンスキーのドライバーたちが最終戦でチャンピオンの座を賭けて戦うが、流れはガナッシ側にある。最終戦ひとつ前のミルウォーキー/レース2でパロウは電気系トラブルでスタートできなかったが、絶望的な状況に陥っても冷静を保ち、クルーたちが全力で治したマシンで19位フィニッシュを拾い上げた。

 それに対して、パワーはポイント差を一気に縮める大きなチャンスを与えられながら、リスタートでスピンするという手痛いミスを冒して10位でレースを終えた。もしパワーが優勝していたら、パロウとのポイント差をほぼなくなって、パワーの方が大きな勢いを携えてナッシュビルに向かうことができていた。



 逆の見方もある。マディソンでの第13戦終了時点でのふたりの差は66点だったが、ミルウォーキーでのダブルヘッダーを終えると半分の33点に減っていた。

 差の縮まり具合を見ると、シーズン終盤のパワーが大健闘をしていて、パロウは貯金を切り崩してリードを保ってはいるが、シーズン終盤戦のパフォーマンスはあまり良くはない。今年の彼は2勝しか挙げておらず、最多勝利はパワー、パト・オワード(アロウ・マクラーレン/シボレー)、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー/シボレー)の3勝。パロウとすれば、最多勝利でライバルたちに並んでのタイトル獲得と行きたいところだろう。

 それは彼がナッシュビルで勝つということで、自身のオーバルレース初優勝という花も添えてのチャンピオンシップ獲得となる。デビュー5年目で3回目、この4年間で3回目のタイトルだ。



 最後には精神面がものを言う。それがチャンピオン争いというものだろう。ドライバーだけでなく、クルーたちにもプレッシャーはかかる。パワーと彼のクルーたちは開き直って優勝だけを目指せばいいのだから、重圧がかかるのはパロウのサイド……という見方もある。しかし、パロウの精神面の強さは並ではなく、チームの士気の高さはミルウォーキーでのトラブル対処の見事さで示された通りだ。

 パワーがタイトルを手に入れるためには、最低でも3位フィニッシュしなければならない。パロウは……というと、9位以内でフィニッシュできれば、パワーが優勝しても3回目のタイトル獲得が果たされる。今年のパロウの平均フィニッシュは6.25位で、オーバルだけだと9.67位。オーバルでの平均を少し上回れば三度目のタイトルに手が届くということだ。

■勝負のカギは2種類のタイヤ

 最終戦の舞台は過去15年間インディカーのレースが行われてきていないナッシュビル・スーパースピードウェイだ。全長は1.33マイルでショートオーバルの範疇に入るが、コーナーに14度、ストレートにも6度と9度のバンクがつけられていることからスピードは高い。

 2008年のポールポジション・スピード=204.519mphまでは行かないものの、今年のアイオワ(188mph台)やマディソン(178mph台)よりは明確にスピードが高いポールポジションとなるだろうし、レースでの平均スピードもアイオワ、マディソン、ミルウォーキーより高く、コーナーでスロットル・コントロールが必要な、高いドライビングスキルの求められるレースとなると見られている。

 ほぼ未知のコースでの難しいレースになるというのに、大方のドライバーたちは、レースウイークエンドがナッシュビル初走行となる。



 それに加えて、最終戦にはプライマリーとオルタネートのタイヤ2種類が用意されることになった。2008年以来の開催なのだから、今年ぐらいはタイヤは1種類で良かったのでは?とも思うが、インディカーの首脳陣と技術スタッフはチャレンジ精神に富んでいり、オーバルでの実績が昨年のマディソしかなく、今年のマディソンで採用されなかった2種類のタイヤによる戦いにゴーサインを出した。

 それでシーズン最終戦、今年6戦目となるショートオーバルでのレースがおもしろくなれば文句は一切ない。

 ただし、最も大切なことは、チャンピオン争いもエキサイティングになること。インディカーの思惑通りにオーバーテイクの回数が多くなり、タイトルコンテンダーたちが抜きつ抜かれつのバトルをクリーンに、そしてフェアに繰り広げてくれたら最高だ。

 今シーズン半ばからハイブリッドシステム搭載でマシンは重くなっており、ナッシュビルはバンクが急でスピードも高いため、マシンやタイヤにかかるGフォースは大きい。さらに、コースの路面はアスファルトより摩擦係数の大きいコンクリート。タイヤに厳しい条件がズラリと並んでいる。タイヤトラブルはゼロであって欲しい。

 各エントラントに供給されるのはプライマリータイヤが6セットと、オルタネートタイヤが4セット。プラクティス、予選でもオルタネートタイヤを使ってよいルールで、レースでは少なくとも1セットのプライマリータイヤと、2セットのオルタネートタイヤで2ラップ以上走行することが義務付けられる。ただし、それらが新品である必要はなく、ユーズド・タイヤでもオーケー。予選で使うタイヤも、新品とユーズド、いずれも可とされる。

 2種類あるタイヤ両方にマシンセッティングを合わせ、デグラデーションを最小限に抑え、グリップの下がったマシンでもコントロール能力を発揮し続ける……。

 そんな戦いでアドバンテージを手にするのはパロウか、パワーか。今年のこれまでのオーバルレースから見て、マクラフラン、オーワード、コルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル/ホンダ)、サンティーノ・フェルッチ(AJ・フォイト・エンタープライゼス/シボレー)、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シボレー)も手強そうだ。

(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)

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