ヤンキー漫画『今日から俺は!!』をコスプレ劇に…「福田雄一監督は面白いのか問題」を考える

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2024年09月13日 12:01  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

『今日から俺は!! 劇場版』

 誰もが心の中では感じているけど、大人げないのでいちいち口にはしないことを、今回は最初に言ってみたいと思います。「最近、けっこうな数の映画を撮っているけど、福田雄一監督の作品って本当に面白いの?」という疑問です。映画館に行かない人たちにとっては、どうでもいい問題です。

「福田雄一って誰?」という、映画監督の名前なんかまるで気にしない人もいるかと思うので、ざっと説明しておきます。2011年にTV放映された山田孝之主演の深夜ドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』(テレビ東京系)が好評を博し、それ以降、桐谷美玲ら若手女優が共演した『女子ーズ』(14年)、小栗旬主演作『銀魂』(17年)、大泉洋主演作『新解釈・三國志』(20年)など、人気俳優を起用したコメディ映画が立て続けに公開されている監督・脚本家です。

 9月13日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放映される『今日から俺は!! 劇場版』(20年)は、福田監督の代表作だと言えるでしょう。

 1988年〜90年に少年漫画誌で連載された人気ヤンキー漫画『今日から俺は!!』(小学館)を、賀来賢人&伊藤健太郎主演で福田監督が2018年にTVドラマ化し、その劇場版となります。2020年の夏休みシーズンに公開され、その年の実写映画No.1となる興収53.7億円という大ヒットを記録しています。年間総合ランキングでも、興収400億円超えという日本映画史上最大のヒット作となった劇場アニメ『鬼滅の刃 無限列車編』(20年)に続く、第2位という驚きの数字を残しています。

人気俳優たちによるコスプレドラマ

 では、福田監督の劇場版『今日から俺は!!』は、一体どこがウケたのでしょうか? はっきり言えば、中身がまったくなかったからです。賀来賢人が金髪にし、伊藤健太郎がツンツンヘアで長ランを着た、1980年代のヤンキーたちのコスプレドラマといった趣きです。80年代のヤンキーは、今の若い世代にとってはファンタジックな存在だという解釈です。

 TVドラマ版に引き続き、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀らが共演。福田作品でおなじみの佐藤二朗、ムロツヨシも登場し、アドリブでギャグを繰り広げるというお約束のパターンです。磯村勇斗らが参加しての大乱闘シーンが、クライマックスには用意されています。

 映画的な見どころがあるとすれば、柳楽優弥が演じる不良高校生・柳鋭次の狂犬ぶりでしょう。クレバーな頭脳を持ちながら、裏表のある人間の嫌らしさを、実に自然に、そして楽しそうに柳楽優弥は演じています。『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)や『ザ・ファブル』(19年)でも見せたように、狂気のキャラクターを演じればピカイチな役者です。柳楽優弥が出演していることで、劇場版『今日から俺は!!』は作品として成立していることは間違いありません。

 あとは横浜銀蝿のヒット曲「ツッパリHigh School Rock’n Roll」や嶋大輔の「男の勲章」をキャストがそろって歌い、演奏するというステージパートを加えて、バラエティー色豊かな劇場版は完成です。テーマ性やメッセージ性は、まったくありません。でも、だからヒットしたのです。公開された2020年はコロナ禍の真っ最中。若手人気キャストが大集結したお祭りムービーに、自粛生活に飽き飽きしていた若い世代は飛びついたのです。

 そこで今回の主題である「福田雄一監督が撮る映画は本当に面白いのか?」問題についてです。鈴木亮平が主演した『HK 変態仮面』(2013年)は、マジで面白かったと思います。全裸に近い姿で顔にパンティーを被って熱演する鈴木亮平、そしてさらにその上を行く変態ぶりを見せるニセ変態仮面を演じた安田顕には、熱い俳優魂を感じましたよ。こんなにもくだらない内容の作品を、真剣に映画化した福田監督にもリスペクトを覚えたものです。

 しかし、その後は失望しかありません。鈴木亮平や安田顕に全力を振り絞らせた『変態仮面』のような熱気は、福田監督が撮る劇場映画からはあっさりと消えてしまいました。小栗旬、菅田将暉、橋本環奈らが共演した『銀魂』は興収38.4億円を記録し、福田監督は売れっ子となっていくものの、キャストの豪華さが話題になるだけです。山崎賢人が主演した『斉木楠雄のψ難』(17年)は、寒いギャグと橋本環奈の顔芸が延々と続き、あまりのつまらなさに気絶したくなりました。新しいタイプの拷問と呼んでもいいんじゃないでしょうか。

 福田監督が撮る映画は、正しくは映画ではありません。かつて毎年元日の夜に放映されていた『新春かくし芸大会』(フジテレビ系)の世界です。人気芸能人が集まって、その当時話題になっていた映画などをパロディとして演じていたヤツです。どこまでも軽いノリとゆるいギャグで構成され、メッセージ性はまったくなし。お屠蘇を飲んでほろ酔い気分の視聴者たちには、そんなライトな世界が好まれたのです。

 マンネリ化を指摘され、フジテレビは46年間続いた『新春かくし芸大会』を2010年に打ち切ってしまいましたが、そうした世界を喜ぶ層は確実にいます。『新春かくし芸大会』の終了と入れ替わるようにして、福田監督はブレイクしています。空いた席をうまく見つけたわけです。

日本で「ラジー賞」が開催されない理由

 イケメン俳優らにコント仕立てのお笑いをやらせるという手法に加え、福田監督作品が人気を集めている要因は、配役の豪華さでしょう。普通はプロデューサーがキャスティングするのに対し、福田監督は自分から俳優たちに声を掛けて回るそうです。しかも、キャスティングのアイデアの多くは、福田監督の奥さんによるもの。ちなみに奥さんは専業主婦。キャスティングセンスに優れた奥さんに、福田監督は頭が上がらないそうです。

 米国ではその年の最低映画を決める「ゴールデンラズベリー賞」(通称、ラジー賞)がアカデミー賞授賞式前日に発表されますが、日本では長らくこのような趣旨の映画賞は存在しないままです。それは多分、福田監督作品が毎年賞を独占してしまうので、賞レースとして盛り上がらないからではないでしょうか。ある意味、福田監督の存在はすごいと言えるでしょう。日本版ラジー賞ができる前から、殿堂入りが確定しているのですから。

 12月には福田監督の新作、松山ケンイチ&染谷将太がW主演する劇場映画『聖おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団』が東宝系で全国公開されることが決まっています。当分は福田監督が日本映画界を蹂躙し続ける日々が続きそうです。

 もちろん、福田監督の映画が好きだという人は、それはそれでかまいません。でも、うっかり福田作品を観てしまったとお嘆きの方には、田中登監督が撮った実録犯罪映画『丑三つの村』(83年)や伊藤俊也監督が「村ホラー」に原発問題を絡めた『犬神の悪霊』(77年)といった日本社会の暗部を暴き出した邦画を観ることをお勧めします。このくらい、こってりした映画を観ないと、中和されないように思います。

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