スズキの軽自動車「スペーシア」には見た目の違ういくつかのバリエーションがあるが、中でもSUVテイストの「スペーシアギア」は熱心なファンが多いクルマなのだという。それだけに、2024年9月20日に発売となった新型がどう変わっているのかが気になっている人は多いはずだ。デザインを担当した商品・原価企画本部 四輪デザイン部 インテリア課の沖野有花さん、商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリア課の長嶋みのりさん、商品企画本部 四輪デザイン部 アイデア開発課の中村賢都さんに話を聞いてきた。
ボディカラーは落ち着いたラインアップ
――新型「スペーシアギア」のボディカラーでは「ミモザイエローパールメタリック」「ソフトベージュメタリック」「モスグレーメタリック」の3色が初採用となりました。初代スペーシアギアは黄色が印象深かったのですが、今回の新型は黄色のニュアンスが変わっていますね。
長嶋さん:先代では「アクティブイエロー」という元気で彩度の高いイエローを使っていました。今回のミモザイエローは2023年11月に発売した「スペーシア」でも使っている色ですが、スペーシアギアでは今回が初採用ということになります。
長嶋さん:アウトドアの色味はトレンドが変わってきていまして、グッズでもウェアでも、最近は「日常使い」できる色が増えています。初代スペーシアギアの発売当時(2028年11月)は明るくて元気で活発な色がトレンドでしたが、今は落ち着いた、日常に溶け込む色味が人気です。そこでイエローにもチューニングを加え、ソフトで柔らかな色にしました。
――新色はどれもアースカラーっぽいですね。
長嶋さん:誰もが使いやすい色を目指して開発しました。
――アウトドアブームと言い出してからしばらく経って、アウトドアアイテムもどんどんこなれていっているのかもしれませんね。いかにもアウトドアです、というような雰囲気よりも、もっと抑えた感じの表現が好まれるようになっているような気がします。それはクルマも同じなのかも。
長嶋さん:身近なところまで入ってきたという感じですね。
沖野さん:新型スペーシアギアのキーワードは「10mile ADVENTURE」です。10マイル(約16km)は軽自動車の1日あたりの平均走行距離を表しています。アウトドアというと、今までだと山へ行くなど敷居が高かったのですが、これからは日常、例えば買い物へ向かう道中の運転でもアウトドア気分を味わっていただきたいんです。家の近くでチェアリングをしてみるとか、そういう使い方でもいいと思います。
沖野さん:ボディ色は低彩度のカラーがメインですが、アクセントカラーのオレンジはあえて高彩度にしました。アクティブでありながら、どの車体色にも似合う彩度を狙って開発した色です。オレンジにもいろいろな色味がありますが、冒険心を高める、高揚感のある色を探してたどり着きました。
――ワンポイントのアクセントカラーに何色を選ぶかは、かなり迷いそうですね。ライムグリーンみたいな色でもよさそうですし……。
沖野さん:アウトドアにはカーキとかベージュとか、いろいろな色域がありますから、幅広く検討した中で、遊び心を表現できる赤味寄りのオレンジを設定しました。
――エンブレムにもこだわりがあるんですか?
長嶋さん:コンセプトとしては、先代に比べ、ハードで機能的な質感と個性あるアウトドアスタイルを狙って開発しました。「ビード形状」も入れて道具感やタフさなども表現しつつ、個性的にということで、少しの表面積でアクセントとしてオレンジを入れたコーディネートにしました。
インテリアにカーキグリーンをチョイス
――インテリアのカーキグリーンがクルマのキャラに合っていますね。
沖野さん:基本の内装色はブラック、メインの加飾のカラーがカーキグリーンです。車体色との合わせも含めて検討しました。ビードの部分にまで色を入れているのは、標準タイプおよびカスタムとは異なる配色です。スペーシアギアでは分厚さ、頑丈さを際立たせました。重さ感をしっかり出すために明度、彩度も下げ方向で調整しました。
――スペーシアファミリーのほかのタイプとの違いを明確化したわけですか。
沖野さん:スペーシアには3つの機種があって、差別化を求められます。暖色系の標準車、華やかなカスタムがあり、ギアではアウトドアという方向性をわかりやすく示すことができる色ということでカーキグリーンを選びました。
内外装のオレンジとのマッチングも考えた色でもあります。2色が合わさることで、個性あるアウトドアスタイルになっていると思います。
軽ハイトワゴン市場は活況! ライバルとの違いは?
――デリカミニなど、SUVテイストの軽ハイトワゴンが増えてきていますが、ライバルたちに対してスペーシアギアの強みや独自性はどのあたりですか?
中村さん:開発(デザイン)時は他社のクルマが登場前だったので、先代で評価されたところ、「武骨かわいい」ところをしっかりと継承しつつ、新しく作ろうと意識しました。
――「無骨かわいい」というのはいいフレーズだと思うのですが、考えてみると、デリカミニも無骨かわいいですよね。軽のSUVは、この方向性でいかざるを得ないのかもしれませんね。
中村さん:スズキならではの点としては、「ジムニー」との関連性があります。例えば新型スペーシアギアの丸い目は、現行型ジムニーと同じヘッドランプを使っていたりします。単純にかわいいから丸くしたのではなく、バックグラウンドがあるんです。新型スペーシアギアのメッキを使ったグリルも、先代ジムニーが使っていたパターンを意識しました。このあたりもスズキらしさの表現です。ウインカーも現行型ジムニーと一緒です。
――スズキファミリーの一員ということですね。同じパーツを使うことには、生産コストの面でもいい効果がありそうです。
――メッキブロックが並ぶフロントフェイスについては「ガジェット感を意識した」との説明でした。「アウトドア」と「ガジェット感」が頭の中でうまくつながらないのですが、どういう意図なのでしょう?
中村さん:鉛筆でデザインするとき(イメージスケッチを描くとき)に、「10mile ADVENTURE」を造形に落とし込むうえで少しヒントが欲しくて、デジタルガジェットに注目しました。
アウトドアグッズもデジタル化が進んでいて、例えばランタンも、スマホと連携させて色味を変えられたりするものが登場しています。これも、日常にアウトドア気分を持ち込む要素のひとつです。そういう「気軽さ」を表現するのに、デザインでもガジェット感を追求しました。
そうしたガジェットでよく見受けられるのが「タテ、ヨコ、ナナメの多角形デザイン」と「スッキリとした面質」です。それらの要素をデザインに落とし込みました。
今回のスペーシアギアは電動パーキングブレーキや先進的な運転支援システム(ADAS)が付いていますし、「スズキコネクト」を使ってスマホと連携させることもできます。そういう意味でも、デジタルガジェットというのはいいテーマかなと思いました。
――なるほど。スケッチを見ていると、正面から見ると台形といいますか、フェンダーが張り出していて、いかにもSUVっぽいスタイルですね。ただ、軽自動車は当然ながら規格に合った車体の大きさに抑えなければならないので、SUVテイストにするのは大変だと思います。例えばフェンダーを張り出させるとか、わかりやすいデザイン上の工夫はできないわけですから。
中村さん:見せ方には工夫しています。例えばフロントバンパーの前に斜めの線を入れてタイヤ、フェンダーの存在感を強調したり、リアバンパーのパーツが分かれているところで下の部分を少し外側に出したりなど、小さな工夫の積み上げなんです。
――なんだか、涙ぐましいような気もするお話ですね(笑)。
中村さん:(笑)。そこが、スズキの長けているところでもあると思っています。(藤田真吾)