低価格帯に注力し始めたセブン 「コンビニ絶対王者」がシフトチェンジを余儀なくされたワケ

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2024年11月29日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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低価格商品を展開するセブンの狙いに迫る

 セブン-イレブンが低価格を売りにした商品を続々と展開しています。今まで低価格商品をあまり投入していなかった弁当でも300円台のものが次々と登場し、注目されています。


【画像】セブンが思い切って価格を下げた商品(全2枚)


 昨今、何かと物価高が話題になる時代。メーカー各社の値上げも続いていますが、そんな中で、なぜセブンは低価格商品を開発し、投入しているのでしょうか。消費トレンドを追いかけ、小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。


●コンビニは「割高」 消費者の意識に合わせた変化が求められる


 セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)が、北米を中心にコンビニを展開するカナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)社から買収提案を受けているとの報道が、話題を呼んでいます。そして、セブン&アイが創業家の資産管理会社・伊藤興業からMBO(経営陣による企業買収)提案を受けているとの報道も出ています。


 セブンはこれからどうなってしまうのか、と気になる人も多いでしょう。しかし、当のセブンは淡々と、自社のやるべきことを進めています。中でも目立つのが「うれしい値!宣言」です。


 2024年度第2四半期の実績で、セブンの3〜9月累計は客数が前年比99.9%、売り上げも同99.8%(いずれも既存店)となりました。直近の9月度は客数が同100.6%と前年を超えたものの、3月時点では客数98.7%、売り上げで99.8%と今期は厳しい状況でのスタートでした。2023年9月以降は客数の伸びが鈍化しており、売り上げに影響しています。


 セブンは2023年、消費者1万人を対象にしたアンケート調査を実施し、自社を含めた小売業に対するさまざまな声を集めました。業態・競合の値ごろ感に関する設問では、割高に感じる業態の1位がコンビニで、63.9%の消費者がコンビニは高いと感じていることが分かっています。2位のフードデリバリー(55.3%)、3位のホームセンター(14.1%)と比較し、コンビニの割高感はダントツなようです。


 セブンに関する項目では「やや割高に感じる」「非常に割高に感じる」の合計が、2021年の33.9%と比較して38.0%で、4.1ポイント増加していました。今やセブンは、日本の各種業態を通じて「最も割高な店」の一つだと認識されているのです。


 ファミリーマートの調査でも、消費者の節約志向が高まり、クーポンやセール、キャンペーンを意識して店選びをするようになったという結果がでています。消費者の買い方の変化がここからも見て取れます。


 物価高が続き、昨今は大きく生活コストが上昇しています。実質賃金は6月に27カ月ぶりのプラスへと転じましたが、8月には再びマイナスに。消費者の生活実態はいまだ不透明な状況にあり、先行きが分からない不安から節約志向はますます強まっていくでしょう。


 だからこそセブンは消費者の節約志向に対応し、自社に抱く割高なイメージを覆して客数アップの引き金にしようと「うれしい値!宣言」を仕掛けたのです。


●コンビニ各社が「低価格弁当」に注力し始めた


 「うれしい値!宣言」では、チルド弁当や手巻きおにぎりなどのフレッシュフード分野で65商品、セブンプレミアムなどのPBで205商品、計270商品を展開しています。セブンは自社の価格戦略を「松竹梅対応」と表現しており、これらの商品は「梅」に該当するといえるでしょう。


 今までのセブンは「竹」を中心に「松」を投入して、売り上げを伸ばしてきました。しかし今後は「竹」を中心にしながらも「梅」を強化して、生活防衛意識の高まっている消費者の志向に適応する狙いです。


 中でも代表的な商品が、手巻きおにぎりとチルド弁当です。7月14日までツナマヨおにぎりは151円、紅しゃけおにぎりは189円だったところ、15日週からはともに138円へと変更しました。その結果、おにぎりの販売数量と販売金額は、6月と比較してともに1割以上の増加となっています。


 手頃な価格に消費者が反応していると分かったことで、チルド弁当でも価格を変更。399円で販売していた「麻婆丼」「五目炒飯」「バターチキンカレー」を、内容量を変えずに348円としました。これらに代表される300円台の低価格弁当が、セブンの店頭に続々と投入され始めています。


 ちなみに、コンビニ各社ではどのような低価格弁当があるのでしょうか。図に整理してみましょう。


 従来はローソンストア100の一強だった低価格弁当ですが、昨今はセブン以外のコンビニも含めて百花繚乱の状況です。各社ともに、低価格弁当を客数増の入り口商品として強化しているのだとうかがえます。


●若者の「コンビニ離れ」をどうするか


 コンビニ各社がこれほどまでに、低価格弁当を強化しなければならないのはなぜでしょうか。単刀直入に「コンビニ離れ」といえる現象がここ数年続いてきたことに起因します。特に若者で顕著です。


 現在、日本のコンビニ業界は成長期を通り過ぎて安定期、中にはすでに衰退期に入っていると表現する人もいます。大きな理由は、全国のコンビニ店舗数がここ6年間でほぼ横ばいだからです。


 2018年度に全国のコンビニは5万5979店舗ありました。それが2023年度は5万5657店舗と、0.6ポイントの減少です。セブンのみが店舗数を増やしていますが、その他は店舗数を伸ばせていません。店舗数を増やして売り上げを上げてきたコンビニが、いよいよ曲がり角にきているのです。


 中でもセブンは「ほとんど毎日」利用していた客が2017年度に18%いたのに対し、2023年度には14%弱に減少しているなど、利用者の来店頻度が落ちていることの対策として、さまざまな業態や商品の開発を進めています。


 さらにセブンの年齢別客数構成を少し長いスパンで見ると、客層が明らかに変化していることも見て取れます。


 30年前は20歳未満が20%、20〜29歳が37%と29歳以下の客層が過半数を占めていました。それが2023年度になると20歳未満が7%、20〜29歳が15%と29歳以下の客層は2割程度になり、構成比にして35ポイントも減少しています。


 一方で増えているのが40歳以上です。40〜49歳、ならびに50歳以上の利用者はこの30年で大幅に増加し、客層の6割を占めるまでになっています。この30年間でセブンの年齢別客層の主役は若者から中高年へと大きくシフトしており、これこそセブンが伸び悩む理由です。ただ、この問題はセブンにとどまらず、コンビニ全体の共通テーマといえるかもしれません。


 そんな中でセブンは低価格商品、特に若者層を取り込めるアイテムである、おにぎりやチルド弁当などで低価格商品を展開することによって、若者の来店頻度を向上させ、全体の客数を上げようとしています。実際に値下げをした「麻婆丼」「五目炒飯」「バターチキンカレー」は、過去3カ月弁当類を購入していなかった人の購入率が2割を超え、さらに30代以下の構成比も2割近くになるなど、若年層の購入率が上がっているようです。


●「梅」商品が優れるのはコスパだけではない


 さて、セブンの松竹梅対応に話を戻すと、セブンでは下記のようにアイテム構成を変えています


 セブンは弁当の品ぞろえ比率について「松:竹:梅=1:2:1」を目指しています。現状、売り場を見た限りでは「3:5:2」といったところでしょうか。まだ高めの弁当が多い印象です。


 「松」に相当する高価格帯商品はセブンの強みだったところです。そのため、すぐにはアイテムを減らせないでしょうし、単価アップのためにも必要な商品といえます。従って、新商品の投入も継続して必要です。


 一方で「梅」が増えたことは、女性客を増やすきっかけになるのではないかと筆者は考えています。低価格弁当は小さなサイズもあり、量も少ないためそこまで食事に量を求めない層にウケるはずです。小さいことから持ち運びにも便利で、朝買って会社に持っていく際にサブバッグに入れても邪魔になりません。タイムパフォーマンスとコストパフォーマンスに優れ、“スペースパフォーマンス”も良いのですから、学生や女性客、500円以下でランチを済ませたい若手サラリーマンなどに広く支持されていくのではないでしょうか。


 世の中のあらゆるものの価格が上がり、生活コストが上昇し続けています。モノの値段が上がれば、支出を抑えたくなるのは当然の流れです。特に、毎日消費する食品への支出は抑えたくなるものです。そうなると、値下げや低価格メニュー開発、低価格業態が今後はますます増えてくるでしょう。


 コンビニ業界でいえば、ドラッグストアの食品強化やスーパーの総菜強化、飲食店の出店増や新業態開発などと戦わなくてはなりません。M&Aなどの大きな動きにも対峙しつつ、目の前のお客さまにどのように対応していくか。今のような激動の時代こそ、セブンの真価が問われます。セブンの経営の原点であり、真骨頂である「変化への対応力」に引き続き注目していきたいと思います。


(岩崎 剛幸)



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