(左から)MINA、SANA、MOMO (C)ORICON NewS inc. 多国籍9人組ガールズグループ・TWICEの日本人メンバーMINA、SANA、MOMOからなる3人組ユニット・MISAMOが2ndミニアルバム『HAUTE COUTURE』の中で、2018年に引退した安室奈美恵さんの名曲「NEW LOOK」をカバーし、話題に。カバー曲というと、原曲ファンからの一定の批判は避けられないものだが、公式YouTubeにアップされている同曲のMVは1千万回以上再生。熱心な安室ファンからは「新しいNEW LOOKに出会えて幸せ」というコメント、一方で、本家の曲を知らないMISAMOファンからも、「改めて安室ちゃんの曲を聴き直した」と双方のファンが相思相愛という相乗効果を生んでいる。これは真の意味で世代や文化をつなぐカバーの好例と言える。
【写真】見惚れるスタイル! タイトなミニワンピで登場したSANAの全身ショット ■徳永英明の『VOCALIST』を機に社会現象となったカバーブーム、一方でカバー曲が溢れかえる状況に食傷気味の声も
カバーブームのきっかけとなったのは、2001年に発売された井上陽水の昭和歌謡のカバーアルバム『UNITED COVER』の大ヒット。この流れから社会現象ともなった2005年9月に発売された徳永英明の『VOCALIST』へとつながった。
徳永は荒井由実「卒業写真」中島みゆき「時代」山口百恵「秋桜」といった名曲から一青窈「ハナミズキ」夏川りみ「涙そうそう」など女性アーティストの有名曲をカバーし、発売から5年後の2010年の9/27付のオリコン週間アルバムランキングで、カバーアルバム史上初となる通算200週ランクイン(TOP300入り)を達成するほどのロングセラーになった。
これ以降、カバーアルバムを発表するアーティストが増え、2010年にはオリジナル曲でも高セールスを記録しているアーティストもカバーアルバムを続々リリース。ちょうど音楽ダウンロードが主流になり、CDが売れなくなってきたという時代の背景もあったことから、新曲で勝負するのではなく、かつての名曲カバーの方が安定的なセールスが見込めた。
過去の名曲をカバーすれば一定のヒットは確約されるものの、世間の声としては「またカバーか」「プロの歌手がカラオケを歌っているのと変わらない」といった声も。そもそも過去曲のカバー本来の意味とは、世代を超えて名曲を歌い繋ぐことだが、営利目的で使用されるようになり、その意味は失われ、「元の曲がいいから誰が歌っても同じだろう」と軽んじられる空気感もあった。
そんななか、今回発売されたMISAMOの曲は、様々な声はあるとしても、安室奈美恵、MISAMO双方のファンが称え合う声が多く、ファン同士の相思相愛のカバーとなっている。
■MV公開後に振付変更も…細部へのこだわりまで感じられる本家・安室奈美恵へのリスペクト
では、今回の安室奈美恵カバーは何が違うのか。MVやMISAMOの活動を見ていると、あらゆるところに、本家・安室奈美恵へのリスペクトが感じられる。例えばMVのオープニング。安室奈美恵の「NEW LOOK」が発売された16年前を表す、「16 YEARS AGO」という文字が、その存在感をハッキリと示している。
また本家のダンスでは、サビの「だけど I wanna get a new look」という歌詞で、目元でピースをする振付が印象的だが、MISAMO 版のMV公開時には違う振付となっていた。「あの振付がないのは残念だ」という安室ファンの声も踏まえて、メンバー3人は「安室さんの『NEW LOOK』といえばやっぱりこれだよね」と自らの想いを話し合い、MV公開後に振り付けの変更を申し入れたという。
また、K-POPでは、楽曲に応援の掛け声があり、応援方法の動画が出ることが一般的。今回のアルバムでMISAMOは、「NEW LOOK」と「Identity」という2曲のMVを出しており、オリジナル曲の「Identity」では、これまでのように応援ガイド動画を公開。だが、カバーである「NEW LOOK」ではそれをしなかった。これは、原曲である「NEW LOOK」に、掛け声や合いの手を入れるのは失礼だから無くしたのではないかと推測される。
こうした想いが花を咲かせたのか、TWICE公式YouTubeに上がっている「NEW LOOK」のMVには批判的なコメントはほとんど見られない。双方のファンがそれぞれの良さを語っており、MISAMOファンは「この神曲を生み出して下さった安室奈美恵さんありがとうございます」「これ安室ちゃんの曲なんだ! 本家も聴きに行ったけどどっちも素敵なNEW LOOK」との声が。そして安室奈美恵ファンからも「カバー曲って世間に溢れているけどこんな敬意あるカバーほかにあります?」「若い世代のアーティストが歌い継いでいってくれるのは本当に嬉しい」「MISAMOちゃん達の安室ちゃんへの憧れやリスペクト、愛を沢山感じられる素敵なMV」など、まさに“相思相愛”の様相を呈している。
■「ただの安室奈美恵カバーではない」、MISAMOとJ.Y.Park氏による相互作用を生む土壌
今となっては、K-POPのアイドルグループに日本人がいるのは当たり前の光景と言える。その土壌を作ったのは、間違いなくMISAMOの母体であるTWICEの成功によるところが大きい。TWICEの国を跨いでの大ブレイクをきっかけに、日本人メンバーを含む多国籍グループが増えたと言っても過言ではない。そんなMISAMOが伝説の歌姫の名曲をカバーしたから話題になったのか…いや、そうではないだろう。
双方のファンからの反響が大きいように、今回のカバーにはMISAMOのファンであるZ世代とかつての安室ちゃんファンであるミドル層、J-POPとK-POPという世代や文化がしっかりとつなげられている。この背景の一つには、近年のY2K(Year2000)ファッションの再ブームも挙げられる。厚底ロングブーツやルーズソックス、ミニスカートなどいわゆるギャルファッションであり、それを牽引していた一人が安室奈美恵だ。それが現在、“平成レトロ”として現代風にアップデートされており、このアップデートそのものが実は、今のK-POPの根底にあるとも言える。
実際、MISAMOやTWICEのプロデューサーであるJ.Y.Park氏の安室奈美恵へのリスペクトは大きい。もともとMISAMOの3人は幼少期から安室奈美恵のファンであったと語っているほか、J.Y.Park氏も過去のインタビューで「日本でやりたいこと」を問われた際、「安室奈美恵さんの曲を作ることです。でも、安室奈美恵さんが引退してしまって。安室さん、考え直してくれませんか?」と懇願している。
カバーは、そもそもの原曲の前では負けてしまうことが度々とあった。だが日本が生み出した伝説の歌姫の名曲を、プロデューサーであるJ.Y.Park氏とK-POP日本人アーティストの先駆者である3人がリスペクトを持ってカバーしたことでファン同士が相思相愛という相互作用できる土壌が形成された。これこそ、文化や世代を超える“カバー”本来の意義への紛れもない原点回帰といえるだろう。
(衣輪晋一)