宇宙事業を展開しているインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)は2024年9月、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(以下、SBIR)」で、最大46.3億円の交付を受けることが決定した。さらにSBIグループやNTTドコモなどを引受先とした第三者割当増資と、銀行からの融資により、総額39億円の資金調達が完了。これによりロケット・人工衛星事業のさらなる加速が期待される。
ISTは小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の初号機打ち上げを目指している。「ZERO」が提供する宇宙輸送サービスは、1基あたりの打ち上げ費用が8億円以下(量産時)で競争力のある価格と、多様化する衛星ビジネスモデルに合わせた専用打ち上げに対応できる柔軟性が強みだ。
一方、人工衛星事業では、宇宙空間の衛星とスマートフォンなどの地上端末を直接つなぐことで、高速かつ大容量の通信を実現する「衛星通信3.0」の実用化に向けた開発が進められている。こうした事業を支えるのは、ロケットと人工衛星の両事業を自社で一貫して展開する「垂直統合型ビジネス」に加え、トヨタグループをはじめとする他業種からのエンジニアを受け入れ、ものづくりの考えや手法を積極的に取り入れようとするISTの経営姿勢だ。
垂直統合型ビジネスのメリットを生かし、オープンイノベーションによる人材活用や開発効率の向上を目指すISTの稲川貴大CEOに、事業展開のビジョンを聞いた。
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● SBIR補助金で実証プロセス強化へ 欧米と競う日本の宇宙産業
――SBIRのフェーズ2として、最大46.3億円の補助金の交付が決まりました。今回の決定が今後の開発にどんな効果をもたらしますか?
稲川: SBIRの補助制度は1社最大140億円という枠のなかに、ステージゲート審査という選定プロセスが入るところが非常に面白いなと思っています。設計から開発、試験、飛行の実証といった技術の成熟度を評価する尺度にTRL(Technology Readiness Level)というものがあります。SBIR事業は、このTRLの段階を上げていく活動に対して、外部の有識者やさまざまな事業の観点から審査され、補助金が入るというプロセスになっています。
実証度でいうと、私たちは他社と比べても高いところにあると考えています。その高さに対して、最終的には飛行実証になりますが「しっかりと次の実証に進んでください」と、実証度を上げるような点を今回、認めていただいたところです。補助金は、こうしたあらゆる実証をするためのものになりますので、初号機の部品や試験をするための人や設備にお金を使っていきます。
――他国と比べて日本の宇宙産業の現状を、どう評価しますか?
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稲川: 国内は5年、10年という時間でみると、お金の付き方や関わる人、企業の数も増えてきたという大きな変化があります。一方でグローバルに見たときに、米国が進んでいますし、中国も国策として加速度的に進化していて、欧州も猛追しようとしています。日本が進んでいるところで言うと、JAXAの「宇宙戦略基金」は、10年で1兆円の基金により宇宙産業を育てるということをやっていて、第1期で3000億円がついていますが、欧州と比べると金額的にはかなり大きいです。一方で、ロケットの発射場といった公共インフラの部分は、日本と比べて、欧州の方が具体的に進んでいます。
●「ロケット×人工衛星」 垂直統合型ビジネスの強みとは
――国内初のロケット開発と人工衛星開発を手掛ける垂直統合のビジネスモデルは、どんなメリットがありますか?
稲川: ロケットと人工衛星の垂直統合(バリューチェーンの異なる段階を自社で一貫して手掛けるビジネスモデル)は本当に大事です。宇宙に物を運ぶというサービスは打ち上げ頻度や行き先、搭載方法などの面で、あまり自由度がありません。打ち上げの頻度の点では、世界中で多くのロケットが打ち上がっているのかと言うと、米スペースXの「ファルコン9」以外は、年間に数回、多くても10回程度しか打ち上がっていないので、大規模に宇宙で何かをしようと思った時に、そこがボトルネックになってしまうということは非常に問題になってきます。
輸送先も、かなり重要で、宇宙では、軌道傾斜角とか高度とか、三次元空間的な要素で行き先が決まります。(輸送において)お客さんが一番取れそうな軌道は比較的便数が出ていて、それ以外はそれほど便数が出ていない。大規模な宇宙空間の利活用において、この「行き先がフレキシブルに選べない」という課題があります。
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ロケットと人工衛星の搭載の方法で言えば、ロケット側は、インタフェース(規格)が合致する方法しか認めないこと、人工衛星側は、1つのロケットだけに頼りたくないから、他のロケットも選べるように、ある程度共通するインタフェースに合わせることがあります。
スペースXの通信衛星「Starlink」はロケットとの深いインテグレーション(統合・連携)ができているから、ロケットに多くの衛星を搭載することができます。また、ロケットだけやっていると人工衛星の利活用という点で、自社において輸送ニーズを作り出せないのでなかなか量産できず、高コストになります。これがロケットと人工衛星が自社で垂直統合できるようになってくると、お互いの無駄がなくなり、量産ができるようになり、相乗効果や競争力を生み出せます。
● 世界初の人工衛星技術が切り開く 宇宙通信とユビキタス社会の未来
――6月、総務省から国立の5大学とともに高速衛星通信技術の確立に向けた研究事業を受託しました。ISTが手掛けるフォーメーションフライトの技術は、他国を含めた衛星通信市場のなかで、どんな優位性がありますか?
稲川: 多数の人工衛星が電磁石の力のみで一定の間隔や隊形を保って編隊飛行するフォーメーションフライトは、日本発で世界初の技術です。当社はこの技術の社会実装を目指しています。宇宙にモノが運ばれる時、折り紙の展開方法が有名です。(輸送するものを)ロケットに積むときは、小さくしておく必要があり、折り畳んでいたものをまた展開できる折り紙のような技術が有用です。
ただこの展開方式には限界があって、アンテナで言うと、例えば小型衛星だと3メートル、大型衛星でも十数メートルぐらいが上限です。フォーメーションフライトは、その上限がなくなるように折り畳み方式ではなくて、それぞれの超小型サイズの人工衛星群が大規模なアンテナを構築し、通信衛星の機能を持ちます。
実際にそのアプリケーションビジネスとして考えた時に、通信領域が非常に大きな事業領域です。NTTドコモさんから出資していただいていますが、将来的に一般の携帯キャリアの企業さまと連携できる可能性があります。
私たちは、携帯電話だけではなくて(地上、海、空にある移動体を多層的につなげる通信ネットワークシステムである)NTN技術で言われる車や船、飛行機など、あらゆるモビリティがインターネットにつながるような、本当の意味でのユビキタスの時代が宇宙を利活用することで実現できると考えています。地上でアンテナを立てている限り、地球規模でのユビキタスの世界は来ないと思っています。そこを解決するためには、ブレイクスルーするような技術が必要で、それがフォーメーションフライトだと考えています。
●他業種からのエンジニア受け入れ 共創の力
――現在、トヨタグループをはじめ計7社から10人のエンジニア人材を受け入れられています。企業間の連携を強化し、ものづくりの考えや手法を積極的に導入されることは、品質管理やコストや競争力の強化に加えて、経営的な観点からみて、どのような相乗効果を期待していますか。
稲川: 宇宙産業は、輸出入が自由にできるかというとそうでもない部分があります。ロケットの技術はいろいろな意味で転用可能といわれる技術ですし、ロケットそのものの輸出入にも、相当の規制があります。国内で、技術やサプライチェーンをある程度完結する必要がある点は、ロケット産業において非常に大事なポイントです。
しかしながら、日本は宇宙産業だけで見ると、マーケットが小さくて、一通り作られるのですが、サプライヤーさんが1社など、やはり絞られる可能性はあります。
日本は例えば、自動車業界は世界で競争力があります。サプライチェーンという言い方をしますが、トヨタのような大手以外に、それを支えるメーカーさんがたくさんある点が日本のアセットとして大きい部分です。そういった方々が宇宙産業においてシナジーを持って、参入してもらうことがものすごく大事だと思っています。
大切なのは他の産業、特に強い産業とどのように連携できるかという点です。当社は、トヨタグループをはじめとしたさまざまな企業と連携できている点が強みです。
一方で宇宙産業には、特殊性もあります。例えば他業界のメーカーがロケットをやりますと言って参入してきたとしても、やはりすぐにはできない世界観もあるわけです。成長産業だからなんとなく飛び込みたいと思っていても、飛び込むためにはどうすればいいのかを考えた時に、先行しているプレーヤーとして私たちの取り組みを見ていただき、宇宙産業で連携や参入ができるところをしっかりとつかんでもらいたいです。
――オープンイノベーションはよく難しいと言われます。成功のポイントをどう考えますか?
稲川: やはりWin-Winの関係が大事なのではないでしょうか? 宇宙産業は、まだ黎明期だと思っているので、そういう段階ではオープンイノベーションが大事だと思います。守りで隠すみたいなことではなく、いろいろな方とご一緒しながら進めていく、大きくしていくことをまず優先して考えるべきだと思います。
●日本発の革新技術
以上が稲川CEOへのインタビュー内容だ。ビッグデータやIoT、AI技術の進化などにより、通信衛星の需要はますます高まっている。ISTによる垂直統合型ビジネスは、低コストで高頻度なロケット打ち上げを実現させ、 フォーメーションフライト技術を活用した衛星のコンステレーションシステムにより、大容量データ通信に対応できる衛星ブロードバンドの提供を可能にする。
さらに、他業種からのエンジニア人材の受け入れやオープンイノベーションの推進により、技術革新のスピードは増すばかりだ。宇宙の利活用は、宇宙輸送と通信インフラの未来を切り開き、社会全体に利益をもたらしてくれる。ISTは次なる挑戦に向け、さらに前進していく。
(フリーライター佐藤匡倫)
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