識者が選ぶ2024 J1ベストイレブン 前編
2024年シーズンのJ1ベストイレブンを独自選考で発表。識者たちにそれぞれの11人を選んでもらった。最終節まで優勝争いを繰り広げた、3チームから多くの選手が選ばれた。
【MVPは質、量ともに昨季を上回った武藤嘉紀】
原山裕平(サッカーライター)
FW/アンデルソン・ロペス(横浜FM)、レオ・セアラ(C大阪)
FW/宇佐美貴史(G大阪)、武藤嘉紀(神戸)
MF/扇原貴宏(神戸)、知念慶(鹿島)
DF/東俊希(広島)、中谷進之介(G大阪)、山川哲史(神戸)、中野就斗(広島)
GK/谷晃生(町田)
個人的には、今季のJ1で圧倒的な個性を見出すことはできなかった。組織を重視する現代サッカーの戦術的な問題もあるだろうし、活躍していた選手がシーズン途中に移籍してしまうこともあるだろう。夏に加入し、インパクトを放った選手もいるが、シーズンをトータルで判断すればベストイレブンに入れることは難しい。
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選んだ11人は、上位進出を果たしたチームのなかから貢献度の高かった選手で構成した。GKはリーグ最少失点の谷晃生とした。J1初挑戦のFC町田ゼルビアの躍進の背景には、最後尾の安定感があったからだろう。
2センターバックは、昨季は崩壊したガンバ大阪の守備を立て直した中谷進之介と、凄みと安定感を増し、リーダーシップも身につけたヴィッセル神戸の山川哲史を選出。両サイドには、攻守両面でスケールアップを果たしたサンフレッチェ広島の両翼を配置した。
ボランチのひとりには神戸の扇原貴宏を選んだ。精度の高い縦パスで攻撃のスイッチを入れる司令塔のイメージが強いが、シーズンを通してフル稼働した今季はとりわけ守備での貢献が光った。もうひとりはFWからコンバートされ新境地を開拓した鹿島アントラーズの知念慶だ。持ち前のフィジカルと開花した危機察知能力を武器に、見事にデュエル王に輝いた。
中盤2列目には、ともに得点・アシストを量産したG大阪の宇佐美貴史と神戸の武藤嘉紀とした。前者は鬼気迫るプレーで昨季低迷したチームを復活させ、後者は攻撃のクオリティのみならず守備にも尽力し、シーズン終盤に見せた勝負強さも評価を高めたポイントだ。
2トップは横浜F・マリノスのアンデルソン・ロペスと、セレッソ大阪のレオ・セアラの得点ランク上位2人で決まりだろう。ともにチームは優勝争いに絡めなかったものの、シーズンを通して高い決定力を保った。とりわけアンデルソン・ロペスは二度のハットトリックを達成するなど、圧巻のパフォーマンスを披露し、見事に2年連続で得点王に輝いている。
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このなかからMVPを決めるなら、質、量ともに昨季を上回った武藤を推す。
【広島で大車輪の活躍だった中野就斗】
中山 淳(サッカージャーナリスト)
FW/アンデルソン・ロペス(横浜FM)
FW/宇佐美貴史(G大阪)、武藤嘉紀(神戸)
MF・DF/東俊希(広島)、井手口陽介(神戸)、仙頭啓矢(町田)、濃野公人(鹿島)
DF/マテウス・トゥーレル(神戸)、昌子源(町田)、中野就斗(広島)
GK/大迫敬介(広島)
年間ベストイレブンを選出するにあたっては、今シーズンのチーム成績を加味。そのため、必然的に最後まで優勝争いを繰り広げた3チーム、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、FC町田ゼルビアの選手が多数を占めることとなった。
GKは、このところ代表メンバーにも定着している広島の大迫敬介を選出。リーグ最少失点を誇る町田の堅守を支えた谷晃生よりも、安定性という点で上回る印象だった。
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DFラインは、神戸のマテウス・トゥーレル、町田の昌子源、広島の中野就斗の3人。昌子はトゥールーズ時代に負傷して以降、近年はなかなかパフォーマンスが上がらなかったが、新天地で復活。リーダーシップも発揮した。中野は右ウイングバックとセンターバックで大車輪の活躍を見せたため、ベテラン佐々木翔(広島)をおさえてのセレクト。神戸の守備の要として活躍したマテウス・トゥーレルは問答無用の選出になる。
ボランチは、ガンバ大阪時代の輝きを取り戻した印象の井手口陽介(神戸)と、大躍進を遂げた町田の中軸を担った仙頭啓矢の2枚。とりわけ仙頭は町田のスタイルを体現化したという意味でも、チームに欠かせない戦力だったと言っていい。ウイングバックでは、左に広島の東俊希、右に鹿島アントラーズの濃野公人を選出。東は広島のチャンスクリエイトに大きく貢献するなど、傑出したパフォーマンスを披露。濃野も、右サイドバックとして9得点という驚異的な数字を叩き出し、ルーキーとは思えない活躍を見せた。
前線は、神戸の武藤嘉紀、横浜F・マリノスのアンデルソン・ロペス、G大阪の宇佐美貴史の3人。チーム成績は振るわなかったが、得点王のアンデルソン・ロペスは文句なし。武藤はシーズンを通してハイパフォーマンスを見せるなど、今シーズンの年間MVP最有力候補と言える活躍ぶり。宇佐美は、2015年以来の二桁得点を記録するなど、G大阪の躍進をけん引。ベストイレブンにふさわしい活躍を見せた。
ここで選んだ11人以外に、日本人選手では山田新(川崎フロンターレ)、宮代大聖(神戸)、渡邊凌磨(浦和レッズ)、知念慶(鹿島)、外国人選手ではマテウス・サヴィオ(柏レイソル)、ラファエル・エリアス(京都サンガF.C.)、トルガイ・アルスラン(広島)、レオ・セアラ(セレッソ大坂)、ヤン・マテウス(横浜FM)も、インパクトを残した選手として挙げておきたい。
【欧州を経験したベテラン選手の活躍】
小宮良之(スポーツライター)
FW/山田新(川崎)、アンデルソン・ロペス(横浜FM)
FW・MF/トルガイ・アルスラン(広島)、宮代大聖(神戸)、武藤嘉紀(神戸)
MF/川辺駿(広島)、山口蛍(神戸)
DF/酒井高徳(神戸)、高井幸大(川崎)、中野就斗(広島)
GK/ランゲラック(名古屋)
拮抗したシーズンだった、と言えるし、飛び抜けたチームがいなかった、とも言える。脚光を浴び始めた選手が、半年で欧州に移籍するだけに"チームの顔"という選手の台頭も乏しかった。そのなかで、昇格組のFC町田ゼルビアが「目立って健闘したチーム」と言えるが、黒田剛監督が(賛否両論あるなかで)ダントツに目立っていた。
そうした状況で、欧州を経験したベテラン選手の活躍は安定していたと言えるだろう。
山口蛍、酒井高徳、武藤嘉紀は、それぞれ欧州経験のあるワールドカップ日本代表選手たちで、ヴィッセル神戸の進撃に大きく貢献した。山口は攻守の要になっていたし、勝負の流れを熟知。酒井は右サイドバックで攻撃の糸口を作っていただけでなく、天皇杯決勝のように守備の堅固さに真骨頂があった。武藤は相変わらず前線に多大なパワーを注入し、アシストも含めて欠かせない存在だった。
一方、若手で神戸の躍進を支えたのが、宮代大聖だろう。もともと、スキルが高く、戦術眼にも優れる。ストライカー的なゴール前への動きをインサイドハーフでやってのけ、それは攻撃の多彩さにつながった。将来的には、南野拓実(モナコ)のようなセカンドストライカーで大輪の花を咲かせるのではないか。
名古屋グランパスのGKランゲラック、横浜F・マリノスのFWアンデルソン・ロペスは、どちらも実績、実力に敬意を表したい。
ランゲラックは7シーズンを過ごした名古屋の退団が今シーズン限りで決まったが、Jリーグカップ優勝MVPを受賞し、有終の美を飾っている。とにかく堅牢なセービングで、窮地を救った。足を使うGKのタイプではないが、守護神の称号がふさわしい。
アンデルソン・ロペスは、ベストシーズンではなかったかもしれない。それでも、左足のひと振りで違いを示した。レオ・セアラ(セレッソ大阪)、ジャーメイン良(ジュビロ磐田)と迷ったが、単純にゴール数で選んだ。
川崎フロンターレの高井幸大、山田新の選出は異議が出るかもしれない。低迷したチームの成績を考えたら、少し偏っているし、高井はパリ五輪出場などで出場試合も限られている。しかし、どちらもJリーグの可能性=世界で活躍する予感を漂わせていた。チームの基盤である「止める・蹴る」という技術を戦術に落とし込めているふたりだ。
サンフレッチェ広島は主力の入れ替わりが多く選出に迷ったが、全試合先発の中野就斗は入るべきか。複数のポジションを担当、強度の高いプレーの数々だった。復帰組の川辺駿は、入れ替わるように移籍した川村拓夢(ザルツブルク)との合わせ技。欧州でピッチに立っていた「匂い」をさせ、一つひとつのプレーに確信が見えた。トルガイ・アルスランは後半戦だけのプレーも「世界」を感じさせ、ライン間のサッカーのうまさは際立ったが......。
ベストイレブン以上に、MVPを選ぶのが難しいシーズンだ。
後編「圧倒的なパフォーマンスで目立った選手たち」へつづく>>