スタートした「マイナ保険証」一本化 そのメリットと懸念点を整理する

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2024年12月09日 16:21  ITmedia NEWS

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 12月2日から、健康保険証の新規発行が停止され、本格的にマイナンバーカードと一体化した保険証、いわゆる「マイナ保険証」が基本となる仕組みが動き始めた。現行の保険証は、有効期限までのあいだは使用できる。ほとんどの保険証は有効期限が1年に設定されているため、まあ最長でも1年だ。2025年の12月までには、マイナ保険証に一本化される事になる。


【写真を見る】マイナ受付だけでは受診・来院確認があとまわしになるケースも


 これにともない従来の保険証は、現在の期限いっぱいで、法令で定めた「本人確認書類」から外されることになっている。次の保険証が発行されることはないので、本人確認書類としての役目も一緒に終わらせるという事である。


 なお、現時点でマイナンバーカードを持っていない、あるいは保険証の利用登録をしていない、していたが解除した、という人のために、保険資格を証明するカード状の「資格確認書」が無償で申請によらず交付されることになっている。ある意味これが、従来型保険証と似たような位置付けになる。


 もし予期せずこのカードが届いた場合、マイナ保険証への移行手続きをやっていない、あるいはマイナンバーカードの電子証明書の有効期限が切れているということだ。マイナ保険証への移行手続きは、マイナポータルからできる。一方有効期限切れの場合は、地方公共団体から「有効期限通知書」というのが送られてきているはずだ。これに交付申請用QRコードが付いていれば、ネットで更新できる。無い場合は、市町村窓口へ出向く必要がある。


 「資格確認書」は、申請でも取得することができる。例えばマイナンバーカードをなくして再発行手続き中だが保険証は使いたいという場合や、マイナ保険証の認証が困難な人は、こちらを入手したほうが便利だろう。またこの資格確認書は、保険証に変わって、本人確認書類に追加される事になっている。


 マイナ保険証を登録したか分からないという人は、スマホからマイナポータルへ行けば、登録状況を確認できるようになっている。やったようなやってないような…という方は確認してみて欲しい。


●マイナ保険証にまつわる騒動


 とはいえ、現状マイナ保険証の評判はあまりよろしくない。筆者は割と早めにマイナ保険証を登録した方だが、過去経験したトラブルの例をいくつか挙げてみよう。


 まずは、受付の手続きに混乱が見られる。筆者が通ったクリニックでは、マイナ保険証による受付だけでは、受診が後回しになるという表示がされている。マイナ保険証を読み取り機にかけただけで、受診受付されるというシステムもあるが、ここではおそらくそういうシステムは導入されておらず、人による受付が必要なのだろう。そうとは知らず、読み取りだけして、かけて待っているという人が多かったのかもしれない。


 大きな病院では、マイナ保険証で受診受付までできるところもあるが、小さなクリニックでは単に保険情報の確認のためにマイナ保険証を使っているだけなのだろう。現状では、こうした病院や調剤薬局の受付のレギュレーションにバラツキがあり、行ってみないと分からないという状況にある。


 もう一つ筆者が経験した例では、病院が診療開始したての朝の時間帯で、読み取り機がエラーを吐いているということがあった。パナソニック製の顔認証付きカードリーダーで、よく普及しているモデルだったが、受付の人が再起動をかけたら、ディスプレイ画面にWindowsのデスクトップ画面がそのまま出ていた。USB接続の、ディスプレイ兼タッチスクリーン兼カメラ兼カードリーダーとして動いているのだろう。


 システムが再起動するまで、しばらく待たされた。おそらく朝の開業時間は日本全国どの病院でもだいたい同じなので、サーバ側に負荷がかかり、動きが遅くなったりダウンしたりする例があるようだ。


 個人認証という点では、マイナ保険証の本人確認として、顔認識か暗証番号が求められる。暗証番号は忘れる人も一定数いると思うが、顔認証はそうそうエラーするものではない。ただ車椅子の人は、認証機器まで顔が届かないということはありうる。この場合、自分で機器を手元まで持って来ていいのか、あるいは顔のところまでケーブルが届くのか、そうした利用が想定されているのかも分からない。


 内科では、コロナ禍以降、すでに発熱している場合は病院の受付に入らず、駐車場で車の中での待機を要請されることがある。これまでは保険証を窓越しに提示して、受付の人が番号をメモし、それを手動で照合して保険情報を確認していた。


 だがマイナ保険証に一本化されたら、こうした方法ができるのだろうか。熱があっても中に入って本人が保険認証を行うというのでは、感染リスクが上がる。筆者は見たことないが、モバイル認証端末のようなものもあるのだろうか。


 政府では、25年春にはマイナ保険証をスマーフォンに搭載するとしている。そうなると受付では、カードで認証する人、スマホで認証する人が出てくる。端末が別になれば、端末を間違う人も出てくるだろう。受付の混乱は、しばらく続きそうだ。


●どういうメリットがあるのか?


 そもそも保険証をマイナンバーカードと一体化することで、どういうメリットがあるのか、いまひとつちゃんと国民に説明されていないように思える。


 まず医療機関では、受付時に患者の保険情報を確認する必要がある。一般の人は医療費が3割負担になっているが、のこり7割は健康保険機関から支払われるわけである。このため、その人の保険情報、つまりちゃんと保険に入っていて、資格が失効していないかを確認する必要がある。


 この確認作業は、これまで受付の医療事務員が保険番号をPCに入力して保険機関のデータベースに照会し、資格確認を行っていた。まあ、ある意味手作業である。これを効率化しようということで、マイナンバーカードの本人確認とともに保険番号を読み取り、自動でデータベースに照会して確認するという、オンライン資格確認が21年10月にスタートした。早いところでは、もうこのころからマイナ保険証が使えたというわけだ。


 これまでは入力ミスなどで資格確認できず、エラーになって差し戻されたりしていたわけだが、そうなると患者側の10割負担となり、トラブルとなるケースもあった。こうしたヒューマンエラーを減らして医療手続きを軽減できるというメリットがある。


 またこれまでの保険証だけでは本人確認が難しく、他人の保険証を使って診察を受けるような不正も可能だったわけだが、そこにマイナンバーカードの本人確認機能を使う事で厳格化できるというメリットもある。


 一方で利用者側のメリットはなにか。それは、過去処方された医薬品の情報や、特定健診の情報などが、何もしなくても医療機関に提供できるという事だ。薬の名前や、手術時の正確な病名などはなかなか覚えていられないものだが、診察に必要な情報が正確に渡されることで、対処精度が上がる事になる。


 これまで診察記録とは別に、投薬情報はお薬手帳で管理するなど、医療情報があちこちバラバラだったものが、一本化されるというメリットがある。また子供の予防接種履歴などは、現在母子手帳で管理されているが、こうした接種履歴も将来的には統合される見込みだ。


 さらに12月9日からは、救急医療時の医療情報が閲覧できる制度がスタートする。救急現場では、意識のない患者から得られる情報が乏しいことから、治療法を選ぶ上で大きな障害になっていた。今後は救急搬送された場合に、意識がなくてもマイナ保険証があれば、受け入れ病院は本人の同意なしに医療情報を閲覧することができる。25年度中には、救急車の中でも閲覧できるようになる見込みだ。救命率の向上や、後遺症の少ない治療が期待できる。


 また「高額療養費制度」への対応が楽になるというメリットもある。この制度は、医療費が高額になった場合、保険機関へ申請することで、一定の払い戻しが受けられる制度である。ただし、いったんは医療費を自費で支払う必要がある。要するに後精算なわけだ。あらかじめ高額になる事が分かっているならともかく、突然事故に合って大手術が必要になったといった場合には、一時的にしろ多額の医療費が請求される事になる。


 先に払うのは負担が大きいということで、この制度の利用を事前に申請することもできる。これは各保険機関に申請書を提出し、事前に「限度額適用認定証」を発行してもらう。もし医療費が高額になった場合は、この認定証を提出すれば、最初から高額療養費制度が適用された金額だけ支払えばよくなる。


 筆者も一度、この認定証請求をした事がある。申請して1週間程度で届くのだが、期限が1年間しかないので、毎年申請しなければならない。まあまあ面倒だし、忘れる。


 だがマイナ保険証を使えば、受付時にこの「高額療養費制度」の適用をその場で選ぶ事ができる。思いがけなく医療費が高額になっても、事前申請の「限度額適用認定証」を持っているのと同じ扱いになるのだ。これは転ばぬ先の杖として、メリットが大きい。


●多くの人の懸念は?


 マイナ保険証は、単純な保険加入情報だけでなく、医療情報も一括で扱えるところにメリットがある。その一方で、いくら相手が医療機関とはいえ、自分の医療情報が毎度毎度丸投げされるのはどうなのか、といった不安は残る。医療従事者がその情報を悪用しない保証がどこにあるのか、あまりにも性善説に基づきすぎてはいないか、という点は気になるところだ。


 一方多くの人が不安視しているのは、あまりにも多くの情報がマイナンバーにひも付けされているというところだろう。今後は運転免許証との統合も進むし、上記のような救急搬送のことを考えると常時持ち歩いた方がいいのだろうが、もしこのカードが人手に渡り悪用されたら、かなりの個人情報が抜かれる事になる。


 そもそも券面上にも、名前、住所、生年月日、性別と、個人情報基本4情報がばっちり記載されている。次期カードには性別は記載しないというが、名前をみればだいたい想像できるだろう。


 また再発行には必ず市区町村窓口で手続きする必要があり、再発行には最短でも5日程度かかるという、重たい処理が必要なのも懸念される。


 加えて現行のマイナンバーカードには、4つの暗証番号が設定されている。署名用電子証明書用、利用者証明用電子証明書用、住民基本台帳用、券面事項入力補助用だ。後ろ3つは同じ暗証番号でも構わないとされているので、最低でも2つ、最高4つの暗証番号を使い分けることになる。


 逆に暗証番号を忘れてしまったら、必要な手続きができなかったり、自分の情報にアクセスできなかったりといった事が起こる。特に利用者証明用電子証明書用は、コンビニで住民票を取ったり、マイナポータルにアクセスするときなど頻繁に使用するが、3回連続で間違うとパスワードがロックされる。いったんロックされると、その解除にはやはり市区町村などの窓口に出向き、ロック解除と初期化の申請が必要になる。


 セキュリティがガチガチゆえに全体像が分かりにくく、いったん失敗するとかなり面倒というシステムだ。そういうものにどんどん個人情報が集約されていくと、最終的には自分の手に負えないものになるのではないか。そうした漠然とした不安を抱える人も少なくない。


 そもそもこのITの時代に、いつまで物理カードを持ち歩く必要があるのか。マイナンバーの仕組み自体は許せても、4桁の暗証番号程度でアクセスできてしまうカードが許せないのだという人も、実は多いかもしれない。


 現在スマートフォンのロック解除はほとんど生体認証で行われているが、これで何か問題があったかというと、まあないこともないがそれほどザルというわけでもなく、そこそこうまく回っている。


 物理カードに4桁暗証番号運用は、さすがにもう時代遅れなのではないか、という気がする。



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