2025年10月14日のサポート終了まで1年を切ったWindows 10。Windows 11への移行を終えていないどころか、計画すら立てていないという中小企業は少なくない。早急に移行を進めたほうがよいのか、もしくは、それほど急ぐ必要はないのか。また、Windows 10を使い続けていると、どのようなデメリットやリスクが生じる可能性があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
21年10月にリリースされたWindows 11は、Windows 10の後継として6年ぶりにリリースされた、現時点での最新バージョン。Windows 10からの大きな変更としては以下があげられる。
・使用可能なPCの最小システム要件が以下のとおり変更
Win 10 Win 11
CPU 1GHz以上のプロセッサ → 1GHz以上+2コア以上の64bitプロセッサ
ストレージ 16GB、20GB → 64GB以上
メモリ 1GB、2GB → 4GB
ディスプレー 解像度800×600 → 9インチ以上+解像度:1280×720以上
TPM 不要 → バージョン2.0以上
・画面UI(ユーザーインターフェース)が大きく変更。左下にあったスタートメニューは廃止されてタスクバーの中央に配置。スナップ機能のレイアウト選択がウィンドウの最大化ボタンからできるように変更。タッチキーボードのUIも変更。
・Androidアプリを実行するにはエミュレータや仮想マシンの構築が必要だったが、不要に。
・タッチパネル搭載PC向けの「タブレッドモード」が廃止
・デフォルトでインストールされていた「Skype」が廃止となった代わりに「Teams」がデフォルトタスクバーに配置。
ITジャーナリストの西田宗千佳氏はいう。
「スタートメニューの位置変更など、UIに変更がある。新機能更新のタイミングが年1回になり、アップデート計画が立てやすくなっている。暗号化を含めたセキュリティ関連機能の強化もある」
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Windows 10を使用している場合、Windows 11へのアップデートは無料で行える。主な方法としては、以下の2通り。
・「Windows Update」から実施
「Windowsの設定」→「更新とセキュリティ」→「Windows Update」と進み、「Windows 11へのアップグレードの準備ができました」と表示されたことを確認したら、「ダウンロードしてインストール」をクリック
・「インストールアシスタント」を利用
マイクロソフトの公式サイト上から「Windows 11インストールアシスタント」をダウンロードし、「Windows11InstallationAssistant.exe」を実行
アップデート作業自体は煩雑ではないものの、注意すべきなのがPCのスペックだ。最小システム要件がWindows 10から上がるため、これまで使用していたPCが使用できなくなる可能性がある。その場合はアップデート作業の途中で、最小システム要件を満たしていないためアップデートができない旨のメッセージが表示される。
満たしていない場合はPCを買い替える必要があり、データ移行の方法としては、OSに統合されているOneDriveを利用するのが簡単。Microsoftアカウントの初期設定でOneDriveへのバックアップを有効化していれば自動的にデータ同期がなされているが、Microsoftアカウントの無料プランでは最大容量が5GBのため、データ容量がそれ以上の場合は有料のMicrosoft 365を契約しなければならない。もちろんOneDriveを使わなくても、USBメモリや外付けHDDなどの外付けストレージ、クラウドストレージなどを利用してデータを移行することは可能だ。
中堅IT企業役員はいう。
「IT系の企業は規模が小さい企業でも早期に移行を進めるが、中小企業のなかにはサポートが切れた後になってようやく慌てて動き出すところも珍しくない。アップデートの作業自体はどんなに長くても半日あればできるレベルなので、労力は重くはないが、ネックになるのは、やはり必要な最小スペックが上がることによって現在のPCが使えなくなることによる買い替えコストだろう。きちんと年度予算を確保していればよいが、確保していないと問題が生じている。サポート期間終了後も延長できるESU(Extended Security Update:拡張セキュリティ更新プログラム)もあることにはあるが、有償で3年しか提供されないし、緊急度の高いセキュリティ更新プログラムしか提供されないため、これに頼るというのは避けたほうがよい。まだ手をつけていないのであれば、すぐにでも着手したほうがよい」
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大手SIerのSEはいう。
「Windows OSアップデートのたびに『改悪』『使いづらくなった』という声が盛り上がるが、そもそもOSのアップデートは、時間の経過に伴い技術的に古くなった点やセキュリティー上の脆弱性を解消するために“やむを得ず”行われるものなので、基本的にユーザにとって大きなメリットがあるものではない。むしろUIや操作方法は変わるし、必要スペックが上がってPCの操作が重くなったり、買い替える必要が出るため、デメリットのほうがより強く印象づけられるもの。それでも“やらなければならないもの”がアップデートといえる」
社員用PCなどにWindows 10を使っている企業は、急いでWindows 11への移行を進めたほうがよいのか。もしくは、それほど急ぐ必要はないのか。前出・西田氏はいう。
「急ぐべき。というより、Windows 11の登場からすでに3年が経過しており、その時からずっと『移行すべき』とされているのに、『何もしていない』『あと1年しかない』と言うのは、そもそもおかしい。移行はいつか必須になることであり、『さらに伸ばす』ことを前提で語るべきではないし、急に出てきたものでもない。これはWindows 11でどうこうということではなく、過去のWindowsでも同様に起きていた。世界的には計画的移行が当たり前になっているのに、ギリギリまで待って騒ぎ始めるのは日本の悪癖。
OSの刷新は新機能の有無だけでなく『一定期間PCを安全に使うための基盤』として考えるべきもの。長く使い続けることによるリスクとコストを勘案すれば、新OS投入から3年ほどの間のどこかで更新計画をたて、ハードウェアと共に入れ替えていくのが望ましい。PCは『メンテナンスせずに安全に使い続けられる』ものではない」
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仮にサポートが切れた後もWindows 10を使用し続けていると、リスクやデメリットは大きいのか。
「セキュリティ対策上、非常に大きなリスクがある。古いOSは攻撃に晒される可能性も高くなるので、まずはそのデメリットを考える必要がある。OS基盤はその時のセキュリティ事情やハードウェアのトレンドを加味して開発されており、古くなるとリスクは大きくなる。マイクロソフトなどのOSベンダがOSを刷新するのは、ビジネス上の理由も大きいが、セキュリティ上のリスクを含め、必要な基盤を用意するためでもある。
ただし、企業側で移行に時間がかかることは、マイクロソフト側でも想定されている。ESUという仕組みが用意されている。これを契約すると、Windows 10のままセキュリティサポートなどを受けられるため、時間を稼ぐことも可能。ただし、ESUの利用には費用を伴った契約が必要であり、『移行しないでコストを抑える』ためのものではない。また、Windows 10のサポート終了から時間が経てば経つほどESUにかかるコストも高くなるので、結局、移行したほうが有利であるのは間違いない。ESUは個人向けのPCにも用意されるが、同様に費用がかさんでいく」
(文=Business Journal編集部、協力=西田宗千佳/ITジャーナリスト)
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