これまでスタジオジブリやピクサー&ディズニーの人気アニメをヘビーローテーションで回してきた『金曜ロードショー』(日本テレビ系)ですが、さすがに最近はマンネリ感をぬぐうことができずにいます。そこで日本テレビの編成マンもひと工夫したのか、12月13日(金)放映の『金ロー』は珍しく二本立ての構成となっています。
ディズニースペシャルと銘打ち、上映時間22分の短編アニメ『アナと雪の女王 家族の思い出』(2017年)と、上映時間72分の中編アニメ『美女と野獣 ベルの素敵なプレゼント』(1997年)が続けて放映されます。『ー家族の思い出』は、『リメンバー・ミー』(2017年)との同時併映作。『ーベルの素敵なプレゼント』はホームビデオ作品で、地上波初放映となります。
ディズニー離れが進んでいると言われる若年層を取り込むのに、悪くないアイデアかもしれません。「東映まんがまつり」や「東宝チャンピオンまつり」などを見ていた世代も、懐かしく感じる編成ではないでしょうか。
ひきこもり体験のある家庭には身につまされる内容
大ヒットした長編アニメ『アナと雪の女王』(2013年)と続編『アナと雪の女王2』(2019年)の間をつなぐエピソードとなっているのが『ー家族の思い出』です。雪だるまのオラフが大活躍し、アナ役の神田沙也加さんも歌声を披露しています。
アレンデール王国は、女王のエルサが戻ってきて初めてのクリスマスを迎えます。妹のアナは、クリスマスを楽しみにしていました。お城で国民を呼んでの盛大なクリスマスパーティーを準備していたエルサとアナでしたが、国民たちはあいさつだけして、みんなすぐに帰ってしまいます。「クリスマスは家族と一緒に過ごすもの」だからだそうです。
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お城に残されたエルサとアナは、自分たち家族ならではのホームパーティーを楽しもうとしますが、家族の思い出がなかなか浮かんできません。エルサはなんでも凍らせてしまう能力で他の人を傷つけてしまうことを恐れ、ずっと部屋に閉じこもって暮らしていました。そのため、家族みんなで過ごしたクリスマスの記憶がなかったのです。
そんなエルサとアナを見かねて、オラフは2人のために新しい伝統のクリスマスをプレゼントしようと考えます。国民の家を一軒ずつ訪ねて、各家庭の伝統のクリスマスを教えてもらい、理想のクリスマスパーティーをプロデュースしようとするオラフでした。
ひきこもり体験のある家庭や、経済的な事情から楽しいクリスマスを過ごした記憶のない人たちには、身につまされる内容です。子どものころに裕福なクラスメイトのホームパーティーに参加したものの、交換用のプレゼントを用意したり、小ぎれいなかっこうしなくちゃいけなかったりと、クリスマスにあまり楽しい思い出がない人はけっこういるんじゃないでしょうか。
ひきこもり時代のエルサは、変な編みぐるみ「サー・ヨルゲンビョルゲン」だけが話し相手だったという逸話が涙を誘います。西田敏行さんが生きていたら、きっと「淋しいのは〜、お前だけじゃない〜♪」と歌ってくれたことでしょう。
20年間で大きく変わったポリコレ
続いてオンエアされる『ーベルの素敵なプレゼント』は、ディズニールネサンス期を代表するヒット作『美女と野獣』(1991年)のスピンオフ作品です。お城に閉じこもって暮らす恐ろしい野獣ですが、もともとはイケメンの王子さまでした。しかし、みすぼらしい花売りの老女を追い返したことから呪いを掛けられ、野獣に変えられてしまったのです。
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クリスマスはその呪いを掛けられた忌まわしい記念日です。呪われて以降、お城ではクリスマスイベントはいっさい開かれなくなってしまいました。
ヒロインのベルは読書好きで、村いちばんの美少女です。性格も優しく、父親の身代わりとしてお城で暮らすようになりました。お城に閉じ込められたままの生活にストレスも感じていたのではないでしょうか。ポット夫人の息子・チップがクリスマスを体験したことがないと知り、野獣に隠れてサプライズパーティーを企画するのでした。
野獣に気に入られているベルの存在が気に食わないのが、パイプオルガンのフォルテです。ベルたちが楽しそうにパーティーの準備をするのを、邪魔しようとたくらみます。
同じディズニーアニメですが、まだセルアニメが大部分を占めていた1990年代制作の『美女と野獣』から、3Dアニメ『アナ雪』はテクノロジー面だけでなく、世間的な価値観も大きく変わったことを感じさせます。『ーベルの素敵なプレゼント』ではお城でクリスマスパーティーを開くため、ベルはモミの木を切り倒すために森へと向かいます。
一方、20年後に公開された『ー家族の思い出』では、クリスマスのために生きた木を伐採することが否定的に描かれています。ディズニーがずいぶんとポリコレに気を遣うようになったことが分かります。
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このままディズニーのポリコレ化が過剰に進むと、「キリスト教徒のイベントであるクリスマスを題材にすると、他の宗教を信じる人たちの気分を害するおそれがある」とか言い出すディズニー幹部も現れそうです。
今年は中編アニメ『ルックバック』もヒット
2024年のアニメ映画を振り返ると、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』が興収157億円、『劇場版 ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が115億円のメガヒットを記録したことに加え、藤本タツキ原作の『ルックバック』が20億円のヒット作になったことも注目されます。
押山清高監督が自身のアニメ工房「スタジオドリアン」で制作した『ルックバック』は、上映時間58分の中編アニメです。原作コミックの面白さを希釈することなく、丁寧にアニメ化していることから、ファンから絶賛されています。11月からアマプラでの配信も始まり、ますます話題が広まっているところです。
2019年に起きた「京都アニメーション放火事件」を彷彿させるヘビーな内容ですが、生きづらさを抱える若い世代からの共感を集めています。また、上映時間58分間の中に濃縮された情報と繊細な感情がぎっしりと詰め込まれています。タイムパフォーマンス(時間対効果)を重視するZ世代にとって、『ルックバック』は大好物のようです。
今夜放送の『アナ雪』『美女と野獣』の二本立てが好評なら、今後も中短編アニメの放映が検討されるのではないでしょうか。京都アニメの新作『特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』(2023年)は上映時間58分、新海誠監督の『言の葉の庭』(2013年)は45分です。テンポよく、無駄を排した中短編作品には、まだまだ埋もれている名作が多いように思います。
そして、多くの人が期待しているのは、スタジオジブリの当時の若手スタッフが制作し、宮崎駿を怒らせたことで有名な『海がきこえる』(1993年)でしょう。上映時間は72分です。2011年に『ゲド戦記』(2006年)と二本立てで放映されて以降、『金ロー』ではお目にかかることができずにいます。宮崎アニメのヒロイン像とは真逆な、性格のひねくれた美少女・武藤里伽子にもう一度会いたいと思っている人は、少なくないと思いますよ。
(文/映画ゾンビ・バブ)