あなたの町が“モノ言う株主”になるかもしれません。JRの株を買うという自治体の選択、その狙いとは。
【写真で見る】ICカードが使えない!岡山県・真庭市の駅の様子
JR嵯峨野線が大混雑 知事も動く全国屈指の観光地、京都・嵐山。紅葉も見頃を迎え、多くの人が行き交います。
スペインからの観光客
「20日間くらい日本を旅行していますが、一番混んでいる観光地です」
観光客の多くが利用しているのが電車です。京都駅行きのホームは人であふれかえっていました。実はJR嵯峨野線、1時間あたり5本から4本に減便していた時期もあり、インバウンドの殺到などで車内は大混雑。地元では大きな問題に発展しています。
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混雑緩和のため、知事がJR西日本にダイヤ見直しを求める要望書を提出する事態に。
京都府・西脇隆俊知事
「我々の思いは十分に伝わったと思う」
そして「京都・嵯峨嵐山間」では今年のダイヤ改正で増便が実現したものの、「満額回答」ではありませんでした。
増便求めるも…“1時間1本”のまま嵯峨嵐山駅の先にある「亀岡・園部間」。
亀岡市民
「昼間1本しかないんで、1時間に」
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昼の時間帯が、おおむね1時間1本に減便されたままなのです。
亀岡市民
「時間を調整するのが難しい。向こう(目的地に)着いて時間余ったりとか全然ある」
亀岡市在住の高校生は進学を機に「嵯峨野線園部行き」を利用するようになりました。
嵯峨野線を利用・高校1年
「園部行きは『1時間に1本か、少ないなあ』と思って見てたんですけど実際に乗ってみると少ないですよね」
この日は期末テストで昼前に下校できるはずでしたが電車が来ないため、学校で友人と時間を潰していたといいます。
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嵯峨野線を利用・高校1年
「学校の終わる時間と電車が微妙にかみ合わない。1本ずらさなあかんなとか考えるのはめんどくさいというか不便」
亀岡市の”大動脈”ともいえる嵯峨野線。「亀岡・園部間」の便数が増えなかった理由についてJR西日本は「利用状況等を総合的に勘案して決定している」としています。
不便なダイヤを改善するため、動いたのは自治体でした。
亀岡市・桂川孝裕市長
「議会に1億円のJR西日本株を取得するための予算を要望した」
亀岡市は今年9月の議会でJR西日本の株を1億円分取得する予算案を可決しました。自治体がJR株を取得するのは極めて異例のことです。
亀岡市・桂川孝裕市長
「嵯峨野線の増便及び復便の要望をしてきた。我々としてはしっかりと株を取得しながら意見も言わせていただき、共にまちづくりを進めていく必要があると考えている」
これまでに駅舎の整備やバリアフリー化などに約56億円を負担するなどJRを支えてきた亀岡市。
さらに、先月から無人駅となった市内の駅では来年3月からトイレの管理も市が行うことになりました。
亀岡市・桂川孝裕市長
「利用が少ないならその分を多少、行政も担っていく必要がありますし、地方自治体としてJRと向き合っていくことも必要じゃないか」
今年度中に1億円分を取得する予定で株主総会にも実際に出席し、減らされたダイヤの復活を求める意向です。
赤字路線の存続訴え“モノ言う株主”に増便を求める自治体の一方、別の目的でJRの株主になった自治体もあります。
岡山県の北部に位置する真庭市は今年7月、JR西日本の株を取得しました。金額は亀岡市と同じ1億円分、念頭にあるのは真庭市を走るJR姫新線の存続です。
真庭市・太田昇市長
「姫新線が走っておりますけども赤字路線で、場合によったら将来廃線とか現実に内部では検討している面もあるやに聞きますからね」
姫新線は「中国勝山・新見間」でかかった営業費用約4億円に対し収入は1000万円。収入の40倍もの経費がかかる“赤字路線”です。
真庭市民
「寂しいいうんか、利用者が少ないような感じ」
姫新線を利用・高校生
「『汽車』なくなったら通学厳しいんで学校変えるかもしれない」
真庭市は今後、株主として「赤字路線の存続を要望していく」としています。
真庭市・太田昇市長
「内部補助という考え方で、儲けるところで儲けて利益を出すところで利益を出して、それを赤字のところに回していくことを前提に民営化された。全国ネットを持った鉄道会社ですから国民の足を守っていく使命は当然あると思う」
都市部に比べて駅の整備が遅れていることも利用が進まない一因だと指摘。市内の駅では未だICカードが利用できません。
真庭市・太田昇市長
「ICOCAを使えるようにすべきだと。私も1回だけ岡山駅で『ICOCA』で入って(真庭市に)帰ってきたら使えない。私も(姫新線に)乗ろうと思いましたけど、あの便数では乗れない」
設備を整えたり、便数を増やしたりすることで一定の利用者増は見込めると主張しています。
真庭市・太田昇市長
「“やがて廃止するようなところに先行投資をするか”というようにも取れないわけじゃない」
亀岡市も真庭市も投入するのは「1億円」。取得できる株式数は3万4000株程度で、時価総額「1兆円」を超える“巨大企業”の発行株式に占める割合はごくわずかです。自治体の動きにどう向き合うのか、JR西日本が取材に答えました。
――(自治体が)株主になったとして今までの関係と何か変わることは
JR西日本・長谷川一明社長
「それは特にない。我々は自治体は特別なステークホルダーと位置づけている」
――株主になったから増便・復便しようということにはならないのか
JR西日本・長谷川一明社長
「一株主様のご提案でその通りにするということにはならないと思う」
今後、赤字路線の廃線議論は現実味を帯びてくると専門家はみています。
鉄道ジャーナリスト・梅原淳氏
「人手不足になってきて乗務員が手配できなくて列車が動かせない、あるいは線路を保守しようとしても人がいないので難しくなってきてしまったということもあって、特に地方にそういった人材を割り振ることができなくなったという事情も最近はある」
また、多くの赤字路線が今後、黒字に転じることは難しいとした上で…
鉄道ジャーナリスト・梅原淳氏
「そこは赤字のままなんだけど(JRの)もっと大きな赤字が減ることで残せるのか、いや、それでも残せないのかという判断が欲しい。どこのJRもそうですけど何もしないままにして、ある日『お客さんが少ないからもう廃止にします』と言ってくるので、提案型のことは株主にならないとできないという思いがある」
喜入友浩キャスター:
立場によって見え方が変わって難しいですね。
上村彩子キャスター:
自治体としては町や利用者のことを考えて廃線にして欲しくない。JRとしては赤字路線を続けるのは経営的にも厳しい。お互いの主張がよくわかります。
喜入キャスター:
そもそも路線の廃止は、以前は国の許可が必要でした。ただ、1999年の法改正によって、届け出制に変わりました。事業者は届け出をすれば、国の許可なしに路線を廃止にすることができるようになったのです。それ以降、廃線が増えているということは、ある意味自然な流れかもしれませんが、本当にこのままでいいのかなとは思います。
上村キャスター:
利用者が少ない赤字路線とはいっても、生活にとって電車は欠かせないインフラの一つです。路線によっては観光列車にしたり、何か作品とタイアップを組んで、まちおこしに繋げるのに成功している路線もあります。JRと自治体が手を取り合って赤字路線をうまく観光の柱としていけたらいいですね。