「ニセコ駅周辺」に広がっていた“意外な光景”。日本屈指のインバウンド観光地も、実態は「かなり限られた区画だけ」だった

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2025年01月10日 09:20  日刊SPA!

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ニセコ駅
―[テーマパークのB面]―
北海道のスキーリゾート・ニセコのスキー場リフト券が1万円を越したことが話題になった。このリフト券は「ニセコ東急グラン・ヒラフ」と「ニセコHANAZONOリゾート」、「ニセコビレッジスキーリゾート」、「ニセコアンヌプリ国際スキー場」の4つのスキー場共通で使えるチケット。2022〜23年シーズンは8,500円だったのが、23〜24年シーズンには9,500円まで上昇。そして迎えた今シーズンは、さらに1,000円値上がりした10,500円になったというわけだ。

こうした値上がりの背景にはニセコに訪れる外国人観光客の増加がある。倶知安町の発表では、ニセコ地域(倶知安町とニセコ町、そして蘭越町の3町にまたがるニセコリゾートエリア)の23年度の外国人宿泊客の延べ人数は73万8,800人で、過去最高を記録したという。コロナ禍前の数値を大幅に超え、パンデミックのダメージから完全に復活した形となる。

◆「ニセコ駅周辺」は、意外にもひっそりしていた

需要が増えれば、供給とのバランスで値段が上がるのは当然のことではある。また、報道ではあまり強調されていないが、ニセコから車で30分ほどの位置にあるルスツリゾートのスキーリフト1日券は14,500円で、ニセコよりも高くなっている。にもかかわらず、ここまで多くのメディアがこの件を取り上げるのは、「急増するインバウンド観光客に侵食される日本」という構図が多くの視聴者の興味を惹くからだろう。

実際、こうした報道では、ニセコエリアの中では看板の多くが英語だったり、日本ではありえないような高額の商品が売られていたりと、「日本であって日本ではない場所」として映し出されている。

では、現在のニセコはどのような光景が広がっているのだろうか。実際に筆者は某日、ニセコエリアに足を運んでみた。札幌から車を走らせること3時間ほど、まずは道中のニセコ駅周辺で降りてみた。興味深かったのは、ニセコ駅周辺はいわゆる「インバウンド観光地」のような趣はなく、普通の地方のひっそりした駅前、という風景が広がっていたことだ。

◆「英語だけの看板」や「コンビニで売られているシャンパン」

駅前には健康ランドのような温泉施設があり、飲食店などが点在している。インバウンド観光客の姿もそこまで見当たらない。実際、ニセコリゾートの有名なスキー場まではここから数キロ離れており、利用する人は少ないのだろう。

そこから車で、スキー場が集まる羊蹄山のふもとを目指す。近づくにつれて目に入るのは、英語オンリーの看板だ。ニセコ駅周辺ではまだ日英併記だったのが、ここでは英語だけになっている。そんな看板からも、この区域が他とは違う場所になってきたことがわかる。

私はまずニセコひらふ地区に到着した。やはり看板は英語が多く、通りすぎる人はほとんどが外国人。唯一、どこか日本らしさを感じるのは、北海道のローカルコンビニであるセイコーマートだろうか。試しに中に入ってみる。

そこで驚いたのは、11,000円のシャンパンが売っていることだ。もともとセイコーマートは通常店でもワインの取り扱いが多い。しかし、ここまで高い商品が置いてあることは、まずない。しかも10,000円を超すシャンパンは数種類あるから、やはりここを訪れた外国人の需要があるのだろう。

◆“コピペしたような”一戸建てが並ぶ、異様な街並み

また、道路上にはブランドショップなども増えてきて、日本の普通のリゾート地とは異なった景色を見せている。

車を進める。そこで気付くのは、まるでコピーアンドペーストしたかのような一戸建ての建築群。どうやらこれらは外国人向けの貸別荘のようであるが、日本の建物とは異なる雰囲気を漂わせており、どこかSFっぽささえある。

ニセコではこうした集合住宅型の別荘であるコンドミニアムが盛んに作られており、私が現地を見た限りでも多くのコンドミニアムが建設中であった。特にニセコの場合、普段はホテルとして貸し出し、必要に応じて所有者もそこを使う「ホテルコンドミニアム」も盛んで、外国人富裕層からの投資が盛んだという。

◆「インバウンド観光地」は限られた区画だけ?

また、エリアの各地に英語で書かれた「売地」の看板が目立つのも特徴だろう。北海道だけにエリアの土地は広く、まだまだ開発されていない場所は多い。そして、それらの売買の対象は外国人、というわけだ。

車を走らせながら気付くのは、いわゆるメディアで言われるような「インバウンド観光地」のような場所は、かなり限られた区画だけ、ということ。それ以外は、少し走れば普通の日本の田舎の風景が広がっている。いわば、局所的に「日本でないような場所」が生まれている感じだ。まさに、北海道の中に、テーマパークが突如として出現しているといえるかもしれない。

テーマパークはあるエリアを区切って、そこで別世界を作る。「内」と「外」を強く意識させる場所だ。日本人がここまでニセコに対して興味を持ち、「日本人が相手にされていない」と嘆くのは、ニセコが持つテーマパークっぽさ、にも要因があるのかもしれない。

◆日本でもなく、北海道でもない「ニセコ」

ニセコのテーマパークっぽさは、そこを訪れる外国人観光客からも感じられる。外国人向けにニセコを案内するホームページを開くと、そこには「How to get to NISEKO(ニセコへの行き方)」というページがあり、「ニセコへのアクセスは、飛行機で新千歳空港まで行き、そこからバスで「ひらふウェルカムセンター」まで行くのが一般的だ。ほとんどの宿泊施設はひらふウェルカムセンターで出迎え、宿泊施設まで送迎してくれる」という。つまり、インバウンド観光客は新千歳空港からほとんど他の場所を経由せず、バスでこのニセコエリアにやってくる。

だから、インバウンド観光客にしてみれば「北海道にやってきた」というより「ニセコにやってきた」という意識のほうが強いだろう。まるで、日本でもなく、北海道でもない、「ニセコ」という別天地に来るイメージ。これもまた、外国人観光客を惹きつける要因かもしれない。

北海道に現れた巨大なテーマパーク・ニセコ。まだまだその勢いは衰えることを知らず、膨大な外国人観光客を受け入れている。このテーマパークが今後どのようになっていくのか、興味深く見ていきたい。

<取材・文・撮影/谷頭和希>

―[テーマパークのB面]―

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)

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