今シーズンのバルセロナは"ふたつの顔"を持っている。
ラ・リーガでは開幕から7連勝を飾り、敵地サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリードを0−4と撃破する歴史的な試合をやってのけ、「独走か」とも思われた。しかし、11月に久保建英の活躍でレアル・ソシエダに敗れて以来、3勝3分け4敗と急ブレーキ。ハイラインの裏を狙われて守備が混乱し、首位陥落と失速している(第22節終了時点でレアル・マドリード、アトレティコ・マドリードに次いで3位)。
一方、チャンピオンズリーグ(CL)では、南野拓実を擁するモナコに敗れた後は連戦連勝。リーグフェーズ第7節のベンフィカ戦は敵地で4−5と派手に打ち勝った。さらに最終節のアタランタ戦はラミン・ヤマル、ラフィーニャが攻撃力を見せつけ、2−2のドロー。リバプールに次ぐ2位(36チーム中)でラウンド・オブ16への進出を決めている。
はたして、どちらが本物の顔なのか?
結論を先に言えば、どちらもバルサである。
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攻撃の破壊力は十分だが、守備は脆い。「肉を切らせて骨を断つ」という危うい戦いを続けている。「攻撃こそ最大の防御なり」という伝統の継承だ。結果が違う理由は相手にある。
ラ・リーガの選手たちは、バルサとラ・リーガで継続的に対戦してきており、経験のおかげで無駄に怯むところがなく、研究・対策もしている。しかし、CLリーグフェーズの相手は、ヤングボーイズ、ツルヴェナ・ズヴェズダ(レッドスター)、ブレストなど、バルサというビッグクラブとの対戦歴が少ない。そのせいで、名前負けするというか、どこかで怯むところがある。
そしてハンジ・フリック監督が率いるバルサは強豪との対戦を得意としている。
フリック監督はバルサの戦いをアップデートさせた。ボールを持つ能動的な姿勢を土台にしながら、ハイプレスからのトランジションによるカウンター、さらにロングボールからのクロス攻撃など、攻撃のバリエーションを増やしている。相手と打ち合う戦いを推し進めた結果、相手が強豪クラブであればあるほど、威力を発揮するようになった。
【攻撃に特化した選手たちを起用】
その結果、バルサはバイエルンを4−1と粉砕し、ドルトムントも敵地で2−3と叩いた。相手が攻める姿勢を見せるほうが、彼らは本来の力を発揮できるのだ。今年1月のスペイン・スーパーカップでも、レアル・マドリードを5−2と破って優勝を飾った。
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「超」がつく攻撃力を旋回させることができているのは、やはりヤマルというアタッカーのおかげだろう。リオネル・メッシを世に送り出した下部組織ラ・マシアの最高傑作だ。
ヤマルは、スピード、技術をハイレベルで融合させたプレーを信条とするが、左足アウトを多用するなど、トリッキーさも持ち合わせ、失われたストリートサッカーの匂いがする。彼がボールを運ぶだけで相手のラインを押し下げ、守備をぼろぼろにしてしまう。左足でのシュート、ラストパス、コンビネーションプレーは多彩だが、それを封じられても縦に抜け出てクロスを送り、あるいはPKを誘うのだ。
そして攻撃は、ヤマルだけではない。
前線ではロベルト・レバンドフスキが中盤に下がってプレーメイクに関わりながら、シューターとしての強度や老練さを披露。自慢の中盤は、マルク・カサド、ペドリがボール握り、つなげる力で相手を圧倒する。
ラフィーニャは攻守の車輪を転がすようで、プレスや出どころを抑える守備、スペースにボールを引き出し、フィニッシュする力も卓抜。集中力の高さが際立ち、ベンフィカ戦では相手GKの蹴ったボールをダイレクトのヘディングシュートで決めた。
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一方、右サイドバックのジュル・クンデはヤマルと呼吸を合わせ、縦横無尽に攻撃の渦ができる。左サイドバックのアレハンドロ・バルデはほとんどウィングのように攻め上がる。センターバックのパウ・クバルシのキックはセンターバックのレベルではないし、ロナウド・アラウホはセットプレーで非凡な得点力を見せる。GKはマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンが不在でやや不安定だが......。
フリックは攻撃に特化した選手たちを、現地で「ハラキリ」と言われるほどのハイラインで用い、背水の陣の苛烈さで勝利を収めている。
「90分敵陣で戦い、攻め続けるがサッカーの真理」――そこに近づけることこそ、フリック・バルサが見据える道のりだ。
当然、わずかなミスが失点につながる。敵がカウンターアタックを得意とする選手を配した場合、弱点をさらけ出す。その危うさはバルサらしくもあり、それを承知のうえで挑みかかり、活路を求める。そもそも、バルサは守りに入って、フィジカルで相手を制する選手が主力ではない。「美しく勝利せよ」がクラブのアイデンティなのだ。
まさに"肉を切らせて骨を断つ"のプレースタイルが、CLリーグフェーズでは吉と出ている。
では、彼らは決勝の地、ミュンヘンに辿り着けるのか?
キーポイントは結局のところ、"相手より多く点を取れるか"になる。カウンターで失点を浴びて敗れているラ・リーガでの苦境を考えれば、改善は必要だろう。ただ、チーム構造が攻撃に基づいているだけに、おそらく攻め抜くしかない。トップスコアラーのレバンドフスキ、ラフィーニャだけでなく、決定力の高いダニ・オルモが切り札となるか。
CLのラウンド・オブ16は3月4日(現地時間)スタート。一方、バルサの次戦は6日のスペイン国王杯準々決勝バレンシア戦となる。