初来日から35周年! 「ザ・ローリング・ストーンズ」の公式カメラマン・有賀幹夫が語る、世界No.1ロックバンドと関係を築けた理由「ザ・ローリング・ストーンズはマフィア的だと思うんです」

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2025年02月08日 13:10  週プレNEWS

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ザ・ローリング・ストーンズ公式カメラマンの有賀幹夫氏


今年2025年は、1990年2月のローリング・ストーンズ初来日より35周年。その初来日公演以降、全ての来日公演を公式カメラマンとして撮影している有賀幹夫氏の「ザ・ローリング・ストーンズ」写真展が現在、渋谷「イケシブPOPUP SPACE」で開催中だ。

35年間における6度の公演と、昨年2024年のロサンゼルスにおける最新公演などから、有賀氏が厳選した30カットが展示。ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッドのメンバーに加えチャーリーワッツ、ビル・ワイマンやミックテイラーら過去メンバーの貴重な姿も見られ、どの写真からも音楽が聞こえてくるような躍動感、臨場感が溢れている。

長きにわたり、ザ・ローリングストーンズを追いかけ、その姿を写真に収める有賀氏に、撮影エピソードとともに、普段は語られないストーンズの姿や撮り続ける理由を聞いた。

【写真】ライブ中のザ・ローリング・ストーンズ

*  *  *

――有賀さんは1990年から、現在に至るまで合計6回、ザ・ローリング・ストーンズの来日公演を撮影。足かけ35年間、公式カメラマンとして活動されていますが、まず、そもそも公式カメラマンとは?

有賀 アーティストに雇われ、彼らが求める写真を撮影をするのが"公式"カメラマンです。昔はフィルムの時代だから、現地をわかっていないと現像だけでもひと苦労します。そこで各国で現地カメラマンを公式で選ぶようになったんだと思います。とはいえカメラマンの人数自体は多くはないです。それで過去の流れから90年の初来日公演では、日本人でやってみようとなり、僕が選ばれたというわけです。


――そもそもどういう経緯で公式カメラマンに?

有賀 僕はそれ以前にストーンズの89年アメリカ公演や記者会見、88年のミックの初来日公演などを雑誌や日本のファンクラブ会報用に撮っていたんです。ただ、じつは彼らを撮影したくてカメラマンになったくらいの大ファンでして。ファンクラブの代表の方が熱心にストーンズサイドにアプローチしてくれたところ、「写真を送れ」「ミック(・ジャガー)とキース(・リチャーズ)のマネージャーのOKが出れば公式として採用されるぞ」と。そこで広報担当の会社に作品を送ったら、気に入ってもらえました。ちょうど初来日公演の前で、タイミングが良かったんでしょうね。

――その初来日は、東京ドーム10日間公演でしかも全席完売。日本中が大騒ぎとなりました。有賀さんはどれくらい撮影を?

有賀 日程の半分くらいです。写真チェックは撮影翌日の午後イチ。フィルムだから、帰宅後に徹夜して現像。寝る時間がなく毎日、フラフラでした(笑)。

――撮影の指示はあったんですか?

有賀 まったく。初日はミックをあまり撮らなかったんです。ものすごく動くので、追いかけていたら邪魔になるかなと思って。その一方キースはたくさん撮りました。やはりかっこいいですから。で、翌日チェックに持って行ったら、ミックのアシスタントが「こんなんじゃ困るよ!」とカンカン。理由を言ったら「ミックはプロなんだから、気にするわけないだろ!」とさらに怒られて。逆にキースのマネージャーは大喜び。ストーンズはパワーバランスを考えて撮らないと、と思い知らされました。翌日以降はその辺も踏まえ、しっかり撮影したら喜んでくれました。いや、びっくりされましたよ。

――びっくり? どのような撮影を?

有賀 90年当時、ストーンズはそれまでの"悪ガキ"ではなく、"大人のロックバンド"にイメチェンしかけていたんです。ただし、それがかっこいいかといえば、僕としては正直いまひとつ。ミックも髪を短くしてイメチェンを図ってたけど、とっちゃん坊やみたいでしたし(笑)。そこで大人っぽさとそれまでの不良っぽいカッコよさを合体させる意識で撮影したんです。そうしたら、すごく気に入ってくれたんです。

――リアルなだけでなく、有賀さんの中にある理想のストーンズ像をうまく取り入れたと。

有賀 そうですね。僕は1973年、中学1年生の時ファンになったんですけど、一度も来日しなかったじゃないですか。その分、妄想が膨らみました。見たければ見られるアメリカやイギリス人と違う、"待たされた末の情念"みたいなものが写真に添加されたんだと思います。あと初来日前のアメリカツアーでの写真はエンタメ感が強い感じだったんですよ。


――エンタメ感、ですか?

有賀 巨大なスタジアムで、ステージセットの壮大さ、作り込みのすごさを意識して撮っていたというか。メンバーも芸能的スターという感じ。でも僕はスタジアムだろうが、ライブハウスだろうが関係ない。たまたまドームだったわけで、それよりミックやキースのロック的なカッコよさをどう撮ろうとしか考えてなかった。それがよかったんだと思います。

――だから有賀さんのお写真は臨場感がある。なんだか音が聞こえてきそうです。

有賀 それ、昔からよく言われます。ありがとうございます。

――とはいえ撮影では緊張したんじゃないですか。世界のローリング・ストーンズ。ライブを撮影する、日本の公式カメラマンは有賀さんただひとりなわけで。

有賀 あまりにやることが多くて緊張する余裕もなかったけど、気合いは入っていました。ただ当時、ミックのアシスタントがクリエイティブディレクターも担当する人で、打ち合わせで「お前はこの規模のステージ写真を撮り慣れてるか?」と聞かれたんです。正直に「まったくないです」と答えたらわかりやすく「ダメだこりゃ」って顔をされましたよ(笑)。

まぁ、とにかく大変でした。アシスタントを呼んでいいか聞いたら「パスはお前だけに渡す」、あと当時は英語があまりしゃべれなかったから、通訳を頼んでいいかと聞いたら「俺たちはお前以外の言葉は聞かない」とバッサリ。でもそれって意地悪じゃないんですよね。

――というと?

有賀 アメリカでもイギリスでも、公式カメラマンはひとりでこなすんです。アシスタントや通訳を、という発想がそもそもの間違い。「お前それでもプロなの?」「ひとりで俺たちと仕事できないなら、日本のバンドを撮ってれば?」ってこと。世界No.1のロックバンドと仕事をするって、スキル以前にそれ相応の気構えを求められるんです。

――ストーンズはその後1995年、98年、2003年、2006年、2014年と来日しました。有賀さんは継続して撮影をされています。公式といっても継続されるかは不明なわけで、別の人が公式になる可能性だってあったわけですよね。

有賀 あったと思います。90年に僕が撮影したのを見てその後、俺たちでも撮れるんだって売り込みに行ったカメラマンは多いでしょうし、レコード会社と懇意のカメラマン、僕よりも年上でキャリアのあるカメラマンは多勢いました。でもストーンズサイドは「ミキオがいるので間に合ってます」とすべてを断り、ずっと僕に撮らせてくれました。


――なぜそこまで?

有賀 僕が思うに、ストーンズって言ってみれば"マフィア的"だと思うんです。中に入るのはめちゃ大変だけど、入った後は、不義理さえしなければずっと大切にしてくれる。いまストーンズの公式Xアカウントって全世界で340万くらいのフォロワーがいるんですけど、フォローしているのはわずか80ちょい。その中に僕がいるんです。頼んだわけじゃないですよ(笑)。絆の強いファミリーの中にいるんだという自覚はあります。

――有賀さん自身、メンバーと接触されたことはあるんですか?

有賀 あります。ツアー中、メンバーには個人楽屋があてがわれているんですけど、コンサートの前後、キースやロン(・ウッド)はふらふら出てくるんです。そこで歓談したり。キースには「90年に撮ったお前の写真、俺のベッドルームに飾ってるよ」なんて泣けることを言ってもらいました(笑)。ロンやチャーリー(・ワッツ)がソロで来日した時は、食事会に呼んでいただいたこともあります。ただそれ以上はないですね。いや僕自身、求めていないというか。

――大ファンなのに?

有賀 キースと一緒にお酒を飲みたいかというとそんなことはないし、むしろ距離を置かなきゃと思う。実際、92年にニューヨークに滞在中、コーラスのバーナード・ファウラーから、「今、キースがレコーディングしてるから一緒にスタジオに遊びに行かないか」って電話で誘われたんです。すごく嬉しかったけど、断りました。

行けばキースは笑顔で迎えてくれるはず。でもマネージャーは冷ややかだと思うんです。作業の邪魔だし、あと少し関わったからといって、仲間ヅラするやつってどうなのと。仕事として関わるって甘いもんじゃないんですよ。浮わついていてはできない。でもだからこそ、僕が長く仕事を続けていられる理由だとも思うんです。

――なるほど。ちなみに先ほどミックの名前は出てなかったですけど彼と接触したことは?

有賀 ないです。ミックのそばに近寄るなんてあり得ない(きっぱり)。彼だけは別格です。キースもロンもチャーリーも普段からステージのイメージのまま、カッコよくていい人です。でもミックだけはステージを降りたらガラッと変わる。大企業の社長さんみたいです。

ファンならみんな知ってますけど、ミックがストーンズのすべてを舵取りしている。よくストーンズの裏話を書いた記事で「キースはナイスだけど、ミックはすごくイヤなやつだ」というのを見かけるんですけど、上っ面だけ見ると確かにそうだとも言えます。裏方には厳しいということです。でもそういう人が目を配らせているから、あれだけデカいバンドが何十年にもわたり第一線で続いている。ミックがいなければ普通のブルースバンドとして早々に終わっていたのではないでしょうか。


――35年に及ぶストーンズとの関わりの中で特に印象に残っていることは?

有賀 91年にリリースされた『フラッシュポイント』を手にしたときのことですね。90年の初来日公演音源も含むワールドツアーを総括したライブアルバムです。アメリカ、日本、ヨーロッパと各国の音源が入っていて、日本公演からは3曲、そして「チョットココデ、ペースヲオトシマース!」とわざわざ日本語のMCまで収録されています。

ブックレットも結構な厚みがあって写真も多数掲載。でも僕の写真は一枚も入ってなかったんですよ。それがすごいショックで! 普通は入って然るべきですよね。しかもすごく褒めてくれたんだし。

――確かに。何かあったんですか?

有賀 要は新参者はそう簡単に認めないよ、ということではないかと。仕事したのはたった一回だけ。それじゃ、まだまだだねって。

――厳しい!

有賀 でもその瞬間、「このままじゃ絶対に終われねぇぞ!」と心に火が付きました。そして何回も撮影しているうち、徐々にツアーパンフレットやオフィシャル本などに僕の写真が使われだすようになった。そして2016年からロンドンを皮切りに始まった回顧展「Exhibitionismーザ・ローリングストーンズ展」(自身がプロデュースし、アート・フィルム・写真・衣装・楽器・パフォーマンス映像など500点以上が展示された。世界中で巡回し、日本は2019年に開催された)にも写真が使われました。

50年以上の彼らの歴史を集めたものに、僕の名前がクレジットされ、図録にも写真が掲載されたんです。日本人として唯一。感無量でしたね。あの時の悔しい思いがあったから、ずっと頑張ってこれたんだと思います。

――素晴らしい! ところで今回の写真展の中で特にお気に入りは?

有賀 全部気に入ってるけど......2014年の東京ドームでのカットかな。チャーリーの最後の来日公演で、右端には元メンバーであるミック・テイラーもいる。

この時一緒に「Midnight Rambler」を演奏したんですよね。僕は90年にビル・ワイマンが在籍する、五人組のローリング・ストーンズを撮影している。早々に亡くなったブライアン・ジョーンズは当然無理だったけど、ここでそれ以外のメンバーを収めることができたわけで、73年にファンになった僕の中でこの写真の意味は大きいです。

あと写真展でいえば、イケシブさんからの要望で、最新のローリングストーンズもと昨年のロサンゼルス公演のライブ写真も展示しています。そちらもしっかり目で見て欲しいですね。

――改めて、有賀さんが思うストーンズの魅力は?

有賀 1962年に結成され、ビートルズとともにロックバンドの雛形を作った人たちが、オリジナルの五人ではないけどいまだに現役でやってる。もう、ここまでやり続けてるってのは、もはやお金じゃなくて音楽への純粋な愛でしょうね。それを持ち続けているのがすごいと思う。あとつくづくすごいと思ったのは"口パク"です。

――口パク?

有賀 最近、有名バンドやアーティストの歌が口パクかどうかを音声分析を使って調べる動画がYouTubeにあがってて、「え? まさか!」って人もたくさんいるんです。見せるのに徹した昨今のショーでは口パクも当たり前の時代なのか?ってことなんですが、ストーンズはひっかからないんです。よく演奏を間違えるけど、だからこそそこも愛おしい(笑)、何よりあの年齢のバンドが生で堂々と歌い、演奏だってしている。時代的な見方でもあるけど、実は本当にすごいと思います。

――有賀さんは今後もストーンズを追いかけていく?

有賀 もちろん。でもストーンズも僕もいい年になったし、今後どれだけ元気にやっていけるか。それに僕はチャーリーが亡くなって以降、かなりガックリで......(笑)。でもいまとなっては、ストーンズを知らない世代って、世界中にたくさんいますよね。ベロマークは知ってても、それが誰なのかわからないって。じゃあ若い世代はストーンズの音楽がつまらないかといえばそんなことはないと。

一昨年ロンドン公演に行ったら、カナダから来た18歳やオーストラリアから来た20歳とも会いました。僕はファミリーの末端として、周年ごとに写真展をやって彼らを知らない人たちに見せていきたい。この人たちかっこいいじゃんって言わせたい。今後のことを考えるとそれが僕の一番の役割だと思うんですよね。


●有賀幹夫 Mikio ARIGA 
80年代半ばより音楽フィールドを中心に活動を始め、RCサクセション、ザ・ブルーハーツ、浅川マキ等を撮影。1990年、ザ・ローリング・ストーンズ初来日にあたりオフィシャル・フォトグラファーとして採用され、以降2014年までの全ての来日公演を撮影する。写真はバンド制作物に多数使用され、2019年に日本でも開催されたザ・ローリング・ストーンズ展「Exhibitionism」では唯一の日本人クリエイターとして作品提供者に名を刻む。 
公式X【@mikio_ariga】 
公式Instagram【@mikioariga】

●有賀幹夫 ザ・ローリング・ストーンズ初来日35周年特別写真展

【開催日時】
2025年2月1日(土)〜2月24日(月・祝日) 
11:00〜20:00

【会場】
イケシブPOPUP SPACE(イケシブ1F) 
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-7-4 スクエアB

【料金】
無料

【有賀幹夫 Talk Show】
2月8日(土)15時〜

毎週土日(祝日含む)インストアライブ、また額装写真やオリジナルTシャツも販売される! 開催記念インストアライブなどインフォメーションはイケシブHPにて確認を。
https://www.ikeshibu.com/event/20230401-22-trs/

取材・文/大野智己 撮影/荻原大志

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