ぐんぴぃタイタン所属のお笑いコンビ、春とヒコーキのボケ担当、ぐんぴぃ(34歳)が現在公開中の映画『怪獣ヤロウ!』で主演を務めている。
2019年4月にABEMA NEWSの街頭インタビューを受けた際のやりとりから、インターネットを中心に「バキバキ童貞(バキ童)」の名で知られるようになり、現在、自身のYouTubeチャンネル(バキ童チャンネル)登録者数は180万人を超える。
主演映画の話にはじまり、27歳で芸人になったぐんぴぃに、映画にも重なる大人になってから一度諦めた夢を追うために必要なことを聞いた。すると同世代に向けて「積み重ねないで、積み減らしたほうがいい」とのアドバイスが返ってきた。
◆ぐんぴぃは千年に一度の童貞?
――「バキ童」としてネット界隈を中心に脚光を浴びたのが2019年。そこから6年足らずで主演俳優に上り詰めました。
ぐんぴい:まあ、そうっすね。ありがたいもので。インターネット・ミーム化とかでネットのおもちゃになった人が、自分でそれに触れるのってめっちゃ寒いとされてるんです。それを僕はやっちゃってるので、「あいつ、自分で言ってるよ」って人もいるんです。
でもあの画像自体の面白さどうのこうのより、あそこから、YouTubeをやって登録者が100万人を超えて、映画の主演になってみたいな変な人生のほうが面白くないかと言えるようになってきた。そこまで行ったと。
――行きましたね。
ぐんぴぃ:オードリーの若林(正恭)さんが、僕がネットミームなんかで有名になっていったと話したときに、「あれか、橋本環奈ちゃんみたいなことか」と言ってくださったことがあって。「橋本さんの奇跡の一枚」。だから僕も「千年に一度の童貞」だと。そう言われたらそうなのかなと思ってます。
――選ばれし童貞なんですね。
ぐんぴぃ:そうです。
◆初の座長として意識したのは櫻井翔の姿
――改めて、岐阜県関市を舞台にした『怪獣ヤロウ!』で主演を務めました。ご当地映画の製作を命じられた市役所観光課に勤める山田一郎が、かつての夢だった怪獣映画の製作を通じて地元を盛り上げようと奮闘する作品です。主演だと聞いたときは。
ぐんぴぃ:「嘘つけ」と思いました。マネージャーから、阿佐ヶ谷のバカ安いバカ狭い居酒屋で言われたんです。いや、めっちゃ旨いんですけどね。
でもそんなところで聞いた映画だから大したものじゃないだろうと思っていたのに、キャスティングとか聞いていたらどんどんすごいことになっていって、あとに引けなくなった感じです。
――座長として意識したことがあれば教えてください。
ぐんぴぃ:最初にドラマ(『大病院占拠』)に出させていただいたときの主演が櫻井翔さんだったんです。そのときの櫻井さんの座長ぶりがすごくて。
櫻井さんといえば、スーパースターじゃないですか。それが、現場にピリ付いた空気があろうものなら、櫻井さん自ら場を取り直し、みんなに話しかけ、失敗した人にはフォローをしてと。とにかく場を明るくしてくださるんです。でもあるとき近くにいた方に「あれが当たり前じゃないからね」と言われたんです。
――なるほど。
ぐんぴぃ:「櫻井さんだからなんだ」と。そのときのことが頭に残っていて、「これはやったほうがいいよな」と思って、普段は積極的にしゃべるタイプではないんですけど、今回の撮影中も「櫻井さんならどうするだろう」と思いながら、キャストさんやスタッフさんとやりとりしたり、ねぎらったりしていきました。
◆櫻井の言動に「これが主演になる人なんだ」
――当時、櫻井さんと個別にはどんなことを話されたんですか?
ぐんぴぃ:最初、当然僕は緊張しまくってました。「粗相があったら、俺は終わるだろう」と思ってましたし(笑)。でも「牛丼の美味しい食べ方教えてよ」とか、櫻井さんのほうからめっちゃ話しかけてくれて。僕のYouTubeを見てくださったみたいなんです。
それで「松屋のうまトマハンバーグとかも美味しいですよ」と話してたら、櫻井さん、その日のロケ弁を食べなくて、お昼に「ちょっと行ってきます」ってひとりで食べに行かれてたんです。
――会話だけじゃないんですね。
ぐんぴぃ:そうなんですよ。リップサービスじゃなくて、実際に松屋に行って食べて帰ってきて、「うまトマは名作ですね」とか言って。そんなことされたら「この人のために頑張ろう!」って思っちゃうじゃないですか。
それに櫻井さん、セリフも一度も間違えなくて、どんな長台詞でも言っちゃうんです。「これが主演になる人なんだ」と思いながら見ていたので、僕も見習って、セリフは間違えませんでした。
◆北野武さんの振り子理論のように、ふり幅はあったほうがいいと
――YouTuberとしてのお話も聞かせてください。YouTube業界もなかなか厳しくなっていると思いますが、登録者数180万人。大変な頻度で更新しながら、コンスタントに何十万回も再生されていて順調です。
ぐんぴぃ:逆です。180万人いて30万とか50万とかって少ないんです。でも僕は少なくていいと思っていて。再生数を追うとオワコン化しますから。
僕は自分が好きなことしかやってません。ネットミームのこともやるし、歴史もやるし、アニメもやる。ばかばかしいのもあれば、ちょっと勉強になるものもある。とにかく自分がやりたいこと、楽しめることが第一。
――再生回数は気にしない。
ぐんぴぃ:気にしないようにしないと無理ですね。北野武さんが、振り子理論についてよく話してるんですけど、武さんこそめっちゃばかばかしいことや、めっちゃおもしろい映画や怖い映画の両方をできる方ですよね。幅があればあるほどいい。
――好きなことだけやっているけれど、ふり幅も考えていると。
ぐんぴぃ:そうです。武さんは、「横幅だけじゃなくて、映画と笑い、小説とか絵画、いろいろ全部やっていればいつの間にかぐるぐる振り子が回って、全員が楽しめている。それが人間の幅になるよ」とおっしゃっていて。そういったことを「バキ童チャンネル」でもやっていきたいと思っています。
ただそれをやると、「俺はアニメは好きだけどネットミームは興味ない」「下ネタは好きだけど、歴史は好きじゃない」とか、いろんな人が出てくる。だから30万とか50万の再生は「そりゃ、そんなもんだろな」と。
――それぞれに楽しんでもらえば。
ぐんぴぃ:それで「いつの間にか“バキ童見ちゃうな”ってなっちゃう」っていうのがいいなと思ってます。でもこれはYouTuberの逆の理論です。
◆もし諦められない夢が残っているなら「バカになれ」
――さて、『怪獣ヤロウ!』の山田一郎は諦めていた夢を再び追いかけ始めましたが、同世代には諦めた人も多いと思います。それでも実は心の隅に夢が残っている人に、成功の階段を上っているぐんぴぃさんから言葉をください。
ぐんぴぃ:めっちゃバカになるのがいいと思います。僕も27歳で芸人になりました。みんな18歳とか20歳とかでなるところで、その年齢からというのは結構大きな決断です。
それなのに、なんで自分は追えたんだろうと考えると、めっちゃバカだったからなんです。本気で、芸人ってテレビで見る人たちくらいしかいないと思ってました。明石家さんまさんとか、そういう人たちしかいないと。
『怪獣ヤロウ!』はそこをコミカルに描いてますけど、夢が叶いそうなタイミングが少しでもあったら、周りの迷惑を顧みず、とにかくバカになってやってみる。バカにならないと夢なんか見られないと思います。「積極的にバカになろうぜ!」と思います。
◆積み重ねないで、“積み減らしたほうがいい”んじゃないかと
――ただ30代くらいになってくると、知らなかったことも知ってしまっています。
ぐんぴぃ:だからこそ、“あえて”と思うんです。積み重ねないで、“積み減らしたほうがいい”んじゃないかと。岡本太郎的な。
――おお、積み重ねないで積み減らす。なんかいいですね。
ぐんぴぃ:それこそ、『怪獣ヤロウ!』にもあるように「ぶっ壊せ!」と。身軽なほうがいいじゃないですか。
――本作は、いわゆるご当地映画で想像されるモノとはまったく違っていて、怪獣が街を壊す映像を、市の観光課が作っていく様が非常に面白く、関市の懐の深さを感じます。私が小学生のころ、クラスのお楽しみ会に、段ボールで作り込んだ町を、会の当日に怪獣着ぐるみ軍団がただ壊すという出し物があったのを思い出しました。
ぐんぴぃ:めっちゃいいじゃないですか! いったん壊さないと、新しいものを作っていけません。
――大人になってからもそうかもしれませんね。
ぐんぴぃ:自分が積んできたことに満足していないのなら、一回壊しちゃう。それもバカになっちゃえばいい。バカになっても人生は続くし、そんな悲惨な目にはあわないかもよと、僕の経験的には言えます。
◆恋愛至上主義のやつらと戦い続ける
――それから、ずっと言われ続けて申し訳ないですが、バキバキ童貞仲間にも言葉を欲しいのですが、いま、童貞仲間は珍しくないですよね。
ぐんぴぃ:そうなんですよ。言葉は、「一生懸命戦いましょう」としかないですけど。
――その戦いは、どこに向けているのでしょう。
ぐんぴぃ:世間ですよ。童貞のことをバカにした恋愛至上主義のあいつら。恋愛の何がすごいんだよと。恋愛しかないからだろっていう。自分の人生を埋めるものが恋愛しかなかったから、本能に準ずる恋愛しかなかった。誰でもできる低い恋愛しかなかったやつらが牛耳っている世界なんだ!
◆みなさん、僕、主演俳優ですよ
――(苦笑)。でもいま、ぐんぴぃさんはビジネス童貞だとも言われてますよね。
ぐんぴぃ:本当は童貞じゃないんじゃないかってことですよね。
――それもそうですし、童貞だとしても、ビジネスのためにあえて童貞を守っていると。
ぐんぴぃ:ああ、そこは助けてくれと思ってますね。
――思ってるんですね。
ぐんぴぃ:でも「そんなの関係ない!」と思える女性が現れるのを待ってるんです。本当に。今回共演した菅井友香さんみたいなね。本当にキレイな方ですし。
――ではそういったお相手が現れたら。
ぐんぴぃ:ずっと守っているわけじゃないですよ。でもたぶん性欲が強いほうではないんだろうなと。それは今のいわゆる30代なのかなと。同じ童貞芸人の(カカロニの)栗谷悟史さん※が、童貞である理由を「性欲がブライドを超えてこない」と言ってたんですけど、「それを超えるぐらいの女性に会うんだ!」とは思ってます。そのための映画ですよ。
※栗谷さんは2024年12月30日に童貞卒業を公式サイトで発表
――そのための映画?
ぐんぴぃ:もちろん。僕、主演俳優ですから。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi