衆院予算委員会で質問を聞く石破茂首相=17日午後、国会内 政府は、北朝鮮による拉致被害者有本恵子さんの父明弘さんが死去したことを受け、喫緊の課題と位置付ける拉致被害者の早期帰国の実現を急ぐ方針だ。ただ、高齢化の進む被害者家族が危機感を募らせる中、解決の見通しは立っていない。金正恩朝鮮労働党総書記との交渉に意欲を示すトランプ米大統領に頼らざるを得ないのが現状だ。
石破茂首相は17日の衆院予算委員会で、明弘さん死去について「本当に残念だし、(数カ月前に)最後に交わした言葉は私の脳裏に強く焼き付いている」と語った。その上で、「一日も早い拉致被害者の帰国をあらゆる手段を使って実現させなければならない」とも強調した。
2002年と04年の小泉純一郎首相(当時)による訪朝で拉致被害者と家族が帰国して以来、拉致問題で具体的な進展は見られない。20年に恵子さんの母嘉代子さんと横田めぐみさんの父滋さんが亡くなり、親世代で存命なのはめぐみさんの母早紀江さんのみとなった。
だが、北朝鮮はロシアとの軍事協力を強め、拉致問題で連携してきた韓国は国内政局の混乱が続き、拉致解決はますます厳しさを増している。
日本政府にとって頼みの綱はトランプ氏による北朝鮮への働き掛けだ。首相は先の日米首脳会談で即時解決への協力を要請。17日の予算委では「トランプ氏が金正恩氏との面会で、常に拉致問題を提起することは極めて意義深い」と指摘した。トランプ氏から「『(訪日時に)拉致被害者の家族と会ったことをよく覚えている』という発言があった」と明かし、次回の来日時も家族との面会を調整する考えを示した。
首相は、拉致問題解決のため、東京と平壌への連絡事務所の設置を提唱していたが、現在は持論をあいまいにしている。家族会が「時間稼ぎにしかならない」と反対していることなどを踏まえたとみられ、首相は予算委で「被害者や家族の思いにきちんと寄り添っていかねばならない。連絡事務所の設置だけが唯一の解ではない」と語った。