東京電機大学と長崎大学に所属する研究者らが発表した論文「Ties Bind:うわさした誰かとの繋がりや親近感を感じさせるインタラクティブアート」は、SNS上で自分に関する事柄が投稿されるとコショウが噴射され、くしゃみを誘発するシステムを提案した研究報告である。
古来より日本には「うわさされるとくしゃみが出る」という俗信が存在する。一方で現代社会においては、SNSの普及により、個人に関するうわさや情報が匿名で簡単に拡散されるようになった。そこでSNS上でのうわさを物理的なくしゃみという形で体現するシステム「Ties Bind」を提案する。
Ties Bindの目的は、古来より見られていた人同士の直接的なつながりが希薄化した現代において、うわさを介した人同士のつながりや親近感を再構築することだ。
このシステムは、コショウ噴出機とSNS送信用PCで構成し、両者は無線で接続している。コショウ噴出機は高さ10cm、縦横30cmの箱に制御用マイコンと送風用エアポンプを格納し、マイクスタンドにマスク型コショウ入れと飛沫防止用の囲いを装着した設置型装置だ。
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動作原理はIFTTTを用いてSNS(ここではXを利用)から定期的にAPIを取得し、特定のワードを含む投稿を検出すると、Webhooksを通じてBlynkのクラウドサーバへリクエストを送信。Blynk上で仮想ピンの値が更新され、その情報がWi-Fiモジュールに通知される。Arduino IDEを用いて、Blynk上のスイッチがONのときにエアポンプを10秒間動かし、コショウ粉を噴出させることでくしゃみを誘発する仕組みである。
評価実験では大学生6人を対象に、うわさされる側とうわさする側の両方の体験をしてもらい、システムを通じてうわさを発信した人との間につながりを感じたかどうかを評価した。結果として、うわさされる側の体験のみでは6人中5人が「全く/あまり感じなかった」と回答した。その理由として、コショウが鼻の奥に入った不快感が強く、うわさについて考える余裕がなかったことが挙げられる。
「やや感じる」と回答した参加者は、通常であればうわさをネガティブに捉えるところ、今回は「自分が悪く言われている不快感がなかった」と述べている。このことから、コショウ噴出機での体験を通じてうわさを発信した相手とのつながりを感じることで、参加者がうわさの内容をネガティブではない形で認識する可能性があることを示唆した。
Source and Image Credits: 鈴田 智也 ,金谷 一朗,山本 景子, Ties Bind:うわさした誰かとの繋がりや親近感を感じさせるインタラクティブアート, 情報処理学会, インタラクション2025
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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