
食材のおいしさを引き出す「発酵」の力
あなたは今日、何を食べますか?
食卓の定番といえば、お味噌汁や納豆。他にも醤油やみりん、お漬物などは、日本人の誰もが毎日のように使う食材ですよね。
これらはすべて「発酵食」です。
「発酵」とは簡単に言うと、微生物が食材を変化させおいしさや栄養価を引き出す、魔法のようなプロセスです。発酵食品の醸造に使われる食材の中でも、「麹(こうじ)」は私たち日本人の食卓にとても身近で、料理に豊かな味わいをもたらしてくれます。
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今回は、日本各地、世界各地の発酵の面白さを伝え続けている“発酵デザイナー”の小倉ヒラクが、発酵の基礎の基礎とすぐに試せる「麹」を使った調理法についてお話をしていきます。
食材を柔らかくする「麹菌」
麹に含まれる麹菌は、さまざまな酵素を生成します。その中でも、麹菌が作り出す「プロテアーゼ」という酵素には、食材を柔らかくしたり、風味を豊かにしたりする働きがあります。
では、なぜ食材が柔らかくなるのでしょうか? それは、麹の酵素が「ハサミ」のように働くためです。
食材に含まれるタンパク質は、もともとビーズのネックレスのように、アミノ酸がつながって構成されています。食材を麹に漬け込むと、麹菌が生成する酵素がハサミのように働き、アミノ酸同士の結び目をチョキチョキと切っていきます。
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こうして分解されたアミノ酸は、分子の結びつきが「ゆるんだ」状態になります。この変化によって、食材がやわらかくなるのです。
麹漬けの基本とは?
麹菌の発酵の力を利用した料理法である「麹漬け」は、東北や北陸などの地域で生まれました。食材が酵素の力によってしっとりと食べやすくなり、麹を活かした甘みや旨味もプラスされるので、定番のテクニックとして今も親しまれています。
麹漬けの一つに、「三五八(さごはち)漬け」と呼ばれる北陸や東北の伝統的な加工法があります。米麹、炊いたお米、塩を3:5:8の割合で混ぜて作った三五八床(さごはちどこ)に野菜や魚、肉を漬け込むもので、保存食として活用されています。
「三五八漬け」は、昔ながらの知恵が詰まった調理法で、食材に深い味わいをもたらしてくれます。麹による発酵の力を体験してみたい方は、この「三五八漬け」を試してみるのがおすすめです。市販されている三五八漬けの素(いわゆる麹漬けの素)もいくつかあるので、気になる方はぜひ使ってみてください。
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また、近年よく目にする「塩麹漬け」も、簡単に試せる麹漬けとしておすすめな方法です。塩麹はスーパーで手軽に買えるので、これならすぐにでも始められますね。
「塩麹」をはじめ、麹漬けに使える調味料は色々市販されています。
いつもの料理に発酵を活用してみよう!
発酵の力を日々の料理に取り入れると、毎日の食卓に驚きと楽しさが広がります。たとえば、麹漬けにした鶏ハムは、もとのお肉では考えられない、ホロホロの柔らかさとリッチな風味に感動しますよ。
麹漬けの料理は、油を使わなくてもおいしく仕上がるというメリットがあります。これは、特にヘルシーさを意識する方に嬉しいポイントです。
以下に麹漬けのレシピをいくつかご紹介しますが、より簡単に手に入る「塩麹」で代用しても問題ありません。その場合は少し塩気が強くなるので、お好みで砂糖やみりん、はちみつなどで甘味を足してみてください。
カンタン! 麹漬け鶏ハムのつくりかた
鶏むね肉を麹漬けにし、茹でるだけでホロホロの鶏ハムが出来上がります。他の味付けは不要! シンプルなのに特別な一品に仕上がるレシピです。
エリンギのほっこり麹漬け焼き
エリンギを麹漬けにしてそのまま焼くだけで、しっとりジューシーな仕上がりに。油を使わずに調理できるので、ヘルシーさも抜群です。
おいしくてカラダにも嬉しい、発酵の力
発酵のテクニックを活用すると、いつもの料理が一段と豊かになります。どんな味を楽しもうか、今からワクワクしてきませんか? ぜひ、あなたもこの発酵の世界に足を踏み入れてみてくださいね。
発酵レシピチャレンジ開催中
テーマは「麹漬け」。ここで紹介した麹漬けの基本を踏まえて、ぜひいろいろな料理で発酵の力を楽しんでみてください。あなたの塩麹漬けレシピのアイデアをお待ちしています!
小倉ヒラク
発酵デザイナー / アートディレクター /「発酵デパートメント」オーナー
ポッドキャスト『#ただいま発酵中』YBSラジオ『発酵兄妹のCOZY TALK』パーソナリティ。 東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボをつくる。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちと発酵・微生物をテーマにしたプロジェクトを展開。
絵本&アニメ『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。著書『発酵文化人類学』『オッス!食国 美味しいにっぽん』『アジア発酵紀行』『日本発酵紀行』など。