写真 冬場に訪れる外国人観光客の多くが楽しみにしているのは、雪国での観光やウィンタースポーツ。特に北海道は外国人で溢れ返るため、オーバーツーリズムの問題が各地で噴出している。
◆海外かと錯覚するほどに多言語が飛び交う北海道
北海道の空の玄関口、新千歳空港も外国人観光客で連日大混雑。2月某日夜、道外での取材を終えて戻った際にターミナル内を回ってみると、国際線の発着は終わっている時間にもかかわらず、飲食店街や土産物店のエリアはアジア系の外国人観光客で賑わっていた。
新千歳空港駅から札幌に向かう列車の車内も同様で、大きなスーツケースを持つ外国人だらけ。中国語や韓国語が飛び交い、海外かと錯覚してしまうほどだ。
数日後、別件の取材で旭川に向かったが、札幌から旭川へ向かう特急カムイ号も指定席・自由席ともに満席。1月に旭川を訪れた際も満席だったため、やはり冬場は外国人観光客が多いのだとここでも実感。しかも、通路を半分塞ぐ形でスーツケースを置いている者が1人や2人ではなかった。
専用の荷物置き場が埋まっていたとはいえ、座席上の荷物棚に収まるサイズのスーツケースはそちらに置いてほしいものだ。途中駅で下車するためにドア付近に向かう日本人らしき乗客の中には、迷惑そうな表情を浮かべる者もいた。
◆旭山動物園行きの路線バスは、首都圏の朝のラッシュ並みの混雑
到着した旭川でも駅前バスターミナルのうち、旭山動物園行きのバス乗り場は外国人観光客の長蛇の列。
発車直前のバスの外は、まるで朝の山手線や埼京線のような状態だ。この様子だと日中でも途中の停留所から乗っても座れる可能性は低いだろう。
買い物や病院への通院などでこの路線バスを利用する沿線在住の70代の女性は、「動物園行きのバスは昼過ぎまで混むことが多いですね。列の後ろだと並んでも座れないため、その場合は1本やり過ごすようにしています」と話す。
まだ地方の路線バスでは比較的本数は多いが、住民にとって利便性に問題が生じたのは否めない。かといってドライバー不足でバスの増発も簡単にできず、事態は思っていた以上に深刻だ。
◆小樽―倶知安間の函館本線も外国人観光客だらけ
また、別の日には小樽へ。札幌から向かう普通列車は昼間の時間帯なのに混雑している。車内は筆者の目算だが、7割は外国人観光客だ。
小樽駅の到着ホームは列車から降りた乗客で埋め尽くされ、改札口に降りる階段付近では誘導の係員が立っている。コロナ禍の間には見られなかった光景だ。
ちなみに隣のホームには、ニセコの玄関口である倶知安行きの普通列車が停車。冬場の小樽―倶知安間は外国人だらけになり、昨シーズンにはあまりに混み過ぎて途中駅で乗客が乗れなかったこともあったほどだ。
そのせいか日中はそれまで1両での運行が多かったが、2両など車両数を増やして対応しているようだ。それでも車内は座席が埋まり、立っている乗客も多い。スーツケースやスキー、スノーボードなどの荷物を抱える外国人が何人もいて、確かに1両だったらキャパオーバーになっていただろう。
小樽―倶知安―長万部の通称“山線”と呼ばれる函館本線のこの区間は、北海道新幹線の札幌延伸に伴う廃止がすでに発表済み。だが、小樽から途中の余市駅までの区間の利用客は1日約2000人と多く、おまけにドライバー問題によりバス転換の目途も立っていない。
冬場には外国人観光客が殺到するため、沿線住民や観光客の移動手段に大きな支障をきたすのは明らかな気がするが……。
◆子連れの母親が平気で信号無視
小樽駅前にはバスターミナルがあり、市内や余市・倶知安方面など各地に向かう路線バスの拠点になっているが、おたる水族館や市内を一望できる天狗山のロープウェイ駅に向かうバスの乗り場はやはり外国人の乗客が目立つ。
でも、筆者が個人的に気になったのはバスターミナルと小樽駅を結ぶ横断歩道だ。
赤信号でも平気で渡る外国人観光客があまりに多かったからだ。たまにバスが通る程度とはいえ、子連れの母親が平然と信号無視する姿はやはり気になってしまう。
目の前には【信号を守りましょう!】という立て看板もあるが日本語のみの表記で、外国人たちにはまったく伝わっていないようだ。
◆中華系外国人の聖地と化した無人駅。1月には人身事故が発生
そして、最後に訪れたのは、小樽駅から札幌方面に3駅隣にある朝里駅。ここは崖と海に挟まれた無人駅で、4kmほど離れた場所には朝里川温泉があるが、駅周辺にはこれといった観光地はない。ところが、アジア系外国人の間でここは大人気の場所だ。
その理由は、15年公開の中国映画『恋愛中的城市』のロケ地だったから。真冬の雪に囲まれた海辺の駅という情景の美しさで話題になったためだ。
同作品は中国以外にも東アジア圏で公開され、ネットでも情報が拡散。それにより聖地巡礼に訪れる外国人が後を絶たない。
しかし、今年1月23日には朝里駅近くの踏切で人身事故が発生し、中国人女性が亡くなっている。どうやら線路内で撮影中に列車と接触したと見られている。
◆人身事故後も絶えない観光客。「警告」と書かれた看板も
筆者が朝里駅を訪れた当日もホームや駅舎内、駅周辺はアジア系外国人だらけ。ほぼ全員がカメラやスマートフォンで写真を撮りまくっている。
駅前では観光客が道いっぱいに広がり、クラクションを鳴らす車も。道路と海の間には民家やカフェが並ぶが、海をより間近で見ようと無断で敷地に侵入する者もいるのだろう。民家の窓には中国語で立入禁止を意味する「禁止进入」と書かれた紙も貼れている。
ほかにも1月の人身事故の現場を含む、駅近くの2つの踏切には、「警告」と書かれた看板が設置。ちょっと物々しい雰囲気だがすでに事故が起きていること、大勢の外国人観光客が訪れていることを考えれば仕方ないだろう。
恋人と香港から訪れたという20代の女性に話を聞いたが、「ネットニュースで事故のことは知りました。一歩間違えば命取りになりかねないからこそルールは守らなければいけない」と話す。
また、同じ20代だという彼氏も近くではしゃぎながら雪だまりに突っ込む中国人男性を冷ややかに眺めつつ、「気持ちが高揚するのはわかるけど、ああいう行為は控えるべき」と眉をひそめていた。
マナーを守って旅行を楽しむ人のほうが多いが、残念ながら日本のルールを守れない者も存在する。公共交通機関の混雑も多発する迷惑行為も外国人観光客の増加によって引き起こされた事態。訪日外国人はさらなる増加が予想されており、今以上にひどい状況にならなければいいが……。
<TEXT/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。