【悼む】いしだあゆみさんの秘めた「表現力」本人も自覚しきれないくらいに幅広かった

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2025年03月17日 18:45  日刊スポーツ

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日刊スポーツ

81年、「駅 STATION」の完成パーティーに参加した、いしだあゆみさん(左)。高倉健さん(中央)、宇崎竜童と乾杯する

<悼む>



警察官の夫への思いを込め、列車の乗降口で妻は離別の敬礼をする。


列車が走り始めると妻はその姿勢で笑い、やがて泣き笑い、そして大泣きになる。


高倉健さんと共演した「駅/STATION」(81年)の一場面だ。いしだあゆみさんといえば、まずこのシーンを思い出す。


セリフ抜きの表情の変化だけで心中を映す。抑制の効いた歌唱法に似た、そんな引き算の演技がうまかった。セリフを絞り、その中に心情を書き込む脚本家の倉本聰さんの作品に多く起用された理由が分かる気がする。


「問題児」萩原健一さんとの離婚に際し、1人で臨んだ会見は逆だった。


「家庭をおろそかにして主婦失格です。自分勝手な気苦労ばかりが重なってどうしようもない私自身に愛想が尽きました」


相手をおとしめることがないように言葉を選んでいたが、劇中とは違って多弁で口調は滑らか。押し殺した表情が記憶に残った。


これも健さんと共演した「海へ See You」では、1カ月余りをロケ地のアフリカ・チュニジアで過ごした。取材に訪れると「ホームシックなんかないと思っていたけど、(共演の)宇崎(竜童)さんからかっぱえびせんをもらってポリッとかんだら、その瞬間から涙がポロポロ出て、もうとまらないの。どうしてだか分からないんだけど」と明かした。秘めた「表現力」は本人も自覚しきれないくらいに幅広かったのかったのかもしれない。【相原斎】

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