限定公開( 16 )
スターバックスが国内2000号店を突破した。スタバの1号店が登場したのは1996年のこと。その後、店舗数をどんどん増やしていって、今年2月、大台に達したわけだが、この勢いはまだまだ続きそうである(年100店舗ペースで増やしていくそうだ)。
全国のスタバを見ると、ユニークな店舗がある。例えば、愛媛県の「道後温泉駅舎店」。その名の通り、伊予鉄道・道後温泉駅の駅舎を改装して、一棟まるごとスタバに生まれ変わった。千葉県の最南端にある「カインズ館山店」では、店舗前の駐車場で月に1回、ラジオ体操を行っている。多い日には、100人ほどが参加するそうだ。
このほかにも、エッジの立った店舗はたくさんあるわけだが、個人的に気になっているのは、JR大阪駅に直結している商業施設「ルクア大阪」の店舗だ。関西在住の人はご存じだと思うが、ルクア大阪は「ルクア」と「ルクアイーレ」の2つの施設で構成されている。ファッション、ライフスタイル、飲食店などが充実していて、大阪梅田エリアの人気スポットのひとつである。
「で、どんな店なの? めちゃめちゃオシャレとか? 大阪の街を一望できるとか?」といった声が聞こえてきそうだが、実はこの施設の中にスタバが6店舗もあるのだ。同じ建物の中にたくさんの店舗があれば、お客が分散して苦戦するのでは……と考えがちだが、「すべての店舗の売り上げが全店平均を上回っている」(担当者)という。
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ちなみに、同じ施設の中で、最も多くのスタバがあるのは、埼玉県の商業施設「イオンレイクタウン」(以下、レイクタウン)で、ここには7店舗もある。この数字に驚かれたかもしれないが、レイクタウンの店舗面積は24万5000平方メートルで、国内最大の広さを誇るショッピングセンターである。
一方、ルクア大阪の店舗面積は5万3000平方メートル。レイクタウンと比較すると、ルクア大阪はより限られたスペースに多くのスタバが集中していることが分かる。
●売り上げ好調の秘密
それにしても、なぜ同じ施設に6店舗も構えているのか。ルクア大阪が誕生したのは2011年で、その年、9階にスタバをオープンした。まずは、1店舗からのスタートである。
当時、ルクア大阪の目標は売上高250億円、客数1900万人だったが、結果はどうだったのか。売上高は340億円で、客数は4060万人。施設に多くのお客が詰めかけたので、スタバの店内は「混雑」が続いていた。
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アンケート調査をしても「混雑していて、店内に入れない」といったコメントが並んだ。この不満をなんとか解消しなければいけない――。こうした課題を抱えていた中で、2015年に3店舗を出店。さらに、2018年、2022年にもオープンした。
同じ施設に6店舗もあるのに、なぜ売り上げが好調なのか。特に気になるのは、2階である。このフロアに3店舗もあるわけだが、それぞれどんな特徴があるのか。
3店舗のうちの1つ「LUCUA 1100 2階 アトリウムガーデン店 」の特徴は、入口付近にあって、花屋「青山フラワーマーケット」との併設店舗である。利用客を見ると、ビジネスパーソンが出勤前にコーヒーを買ったり、ランチ後にオフィスで飲むために持ち帰ったりしている。店外にテーブルが少し並んでいるので、そこでコーヒーを楽しむことはできるが、ほぼテークアウトの店舗として機能している。
アトリウムガーデン店の奥へ進むと、「LUCUA 1100 2階 グランマルシェ店」がある。このエリアには食のセレクトショップが並んでいるので、買い物の合間に立ち寄りやすい環境になっている。3つめの「LUCUA 2階店」は、ティーに特化した店舗である。お客の8〜9割は女性で、主に10〜30代が多い。
「LUCUA osaka 地下2階店」は、希少なコーヒー豆を使ったメニューを提供する「スターバックス リザーブ バー」として、西日本で初めてオープンした。9階の「梅田 蔦屋書店」は書店内に併設していて、本を読みながらコーヒーを楽しめるようにしている。同じフロアには、一般的なスタイルの「LUCUA 9階店」があり、これで計6店舗となる。
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●ドミナント戦略のメリットとデメリット
……ここまで読んで、勘の鋭い読者は気付いただろう。店舗ごとに「ターゲットを変えている」のだ。店舗開発を担当している植月誠さんによると「顧客データを分析したところ、多くのお客さまが店を使い分けていることが分かってきました」という。
コーヒーを持ち帰りたい、誰かとゆっくり話したい、席でゆっくりしたい――。その日の気分や目的に応じて、「今日は〇階のスタバに行こうか」と考える人が多いようだ。
ルクア大阪というひとつの施設内で、スタバはドミナント戦略(特定エリアに集中的に出店する戦略)を展開している。そのメリットとして、まず挙げられるのは「サポート面」だ。何らかの理由で、スタッフが急に休んでも、他店で余力があれば、その人がサポートに入れる。
エリアを担当する管理スタッフも、移動時間を短縮できるため、状況を把握しやすい。また、ある店が満席の場合、お客を別の店舗へ案内することもできる。
一方のデメリットは、長く営業している店舗がどうしても”古びて”見えてしまうことだ。ルクア大阪でいえば、9階にある一般的な店舗がそれに該当する。2011年にオープンした店舗のため、他の店舗と比べるとどうしても古さを感じるのだ。
さて、店舗を増やしたので混雑が解消されているのかと思いきや、そうでもない。「満席」のことが多いので、お客からは不満の声が寄せられているようだ。
こうした状況が続けば、7店舗目も視野に入ってくるわけだが、既存店のリニューアルも検討しなければいけない。 「攻め」と「守り」の両方を意識しながら、店舗運営のかじ取りが続きそうである。
●なぜスタバだけ増やせているのか
最後に気になったことをひとつ。なぜスタバは同じ施設内に複数の店舗を出店しているのに、競合チェーンはそうしないのか。商業施設内に複数のカフェチェーン店が存在するケースは珍しくないが、それらは異なるブランドであることが多い。
少し考えてみると、他社にもできそうに思える。例えば、テークアウト専門店や、書店・花屋との併設店なら、それほどハードルは高くなさそうだ。
にもかかわらず、なぜスタバにはできて、他社はやっていないのか……または、やろうとしないのか(これから取り組もうとしているのかもしれない)。こうした現象が起きている背景について、植月さんは「積み重ね」という言葉を口にした。
植月さんによると、スタバはお客さんとのコミュニケーションを大切にしており、そうした交流を楽しめる人たちが集まっているという。「こうすれば、同じ建物内で複数の店舗を運営できますよ」といった明確なマニュアルはなく、「こういうことがしたい人たちが集まっている。だから実現できた」というのだ。
ややふわっとした話に感じられたかもしれないが、スタバが同じ施設内に複数の店舗を展開できるのは、「ターゲットを変えた戦略」と「ブランドの積み重ね」が大きいようだ。取材を通じてそのことが見えてきたが、他社が簡単に真似できないのは、「積み重ね」が十分ではないからかもしれない。
ルクア大阪のスタバは、これからどう進化していくのか。夕方から夜にかけて営業するナイト店ができるかもしれないし、健康志向のヘルシー店かもしれないし、スイーツ&デザートの専門店が誕生するかもしれない。
もしかして、数年後には「10店舗になりました」なんて日が来るのかもしれない。
(土肥義則)
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