スシロー、“回転寿司チェーン店舗数1位”で絶好調だが…見逃せない「外食チェーンが抱える根本的問題」

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2025年05月12日 16:00  日刊SPA!

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回転寿司チェーンの中で店舗数1位のスシロー(店舗数849、国内650海外199、25年3月末時点)の運営元はFOOD&LIFE COMPANIESだ。
連結決算(24年9月期)では売上3,611億円(前年比+19.7%)、営業利益234億円(前年比+112.6%)、営業利益率6.5%(前年比+2.9%)と好調である。

◆回転寿司チェーン店舗数1位を独走中のスシロー

財務の安定性の指標である自己資本比率は20.5%と低いが、資本効率を図る指標の自己資本利益率(ROE)は、レバレッジ効果もあり20.1%と高い水準だ。

他ブランドも含めてグループ全体で計1,174店舗を展開中である巨大寿司チェーンである。勢いのバロメーターでもある出店数は前年度(23年10月〜24年9月)の1年間で45店舗(国内7店、海外38店)を出店させるほどの勢いだ。

特筆すべき点は積極的な海外市場の開拓で、アジア圏を中心に出店を拡大しており、中期経営計画の売上の海外比率40%に向け確実に前進している。

◆国内売上は倍増&海外売上も好調

グループの約9割を占めるスシロー単独の実績は、売上3303億円(前年比+21.4%)、営業利益313億円(前年比+70.8%)、営業利益率9.5%(前年比+2.8%)と確実に上回っており収益率も高い。

市場別では、国内の売上は2382億円(前期比+15.7%)、営業利益は214億円(前期比+93.2%)とほぼ倍増だ。

海外売上も921億円(前期比+39.3%)、営業利益は99億円(前期比+36.6%)と好調である。

海外分の構成比は売上で27.9%、営業利益で31.6%だ。直近の25年上期(24年10月〜25年3月)も好調で、既存店ベースの前期比で売上107.2%、客数103.0%、客単価104.1%で、見通しも明るい。

◆業績好調の中、起きたストライキ

順調に業績を伸ばし続けるスシローだが、2025年春季労使交渉では労働組合「回転寿司ユニオン」との交渉が難航している。

パート比率の高い外食業界で賃上げの気運が高まる中、スシローはP/A(パート・アルバイト)の賃上げ要求にゼロ回答を示し、3月には一部地域の6店舗でストライキを実施している。

スシロー側は社員を派遣して営業を継続したが、ユニオン側はこれを「スト破り」と非難した。正社員への平均6%の賃上げと対照的に、P/A待遇を巡る対立は続いている。

なぜ、スシローが賃上げに慎重な姿勢を見せたのか。そこには、外食業界の特性が大きくかかわってくると推測される。

◆外食業界が直面する人件費の課題

外食業界では、FL(食材費+人件費)コストがKPI(重要業績評価指標)とされており、60%以内に抑制しないと採算を取るのが難しいが、今は物価高騰と人件費上昇の中で各店は苦労している。

商品価値の高さを強みとするスシローも違わず、原価率の高さが課題だったが、世界中から無駄なく適量適所な食材供給などをテーマに改善した効果が出て、44.5%から43.1%と1.4%抑制した。

だが、それでも粗利益は56.9%と他店と比較しても低い状態。販管費は業務効率を高めているから問題は少ないので、あとは人件費の適正な管理が重要だろう。

こういった現状を踏まえると、いくら業績が好調といえど、賃上げ要求への対応は合理的な経済活動の重視と将来の不確実性から慎重になっているのではと推察する。

◆パート・アルバイト中心の運営体制

外食チェーンは人件費抑制のため、殆どがP/Aであり、社員や店長すら置かないファミレス店も多い。

スシローもP/A中心の運営体制だが、店長と社員の約3人は店舗に配置しているようだ。外食は曜日・時間帯で繁閑の差が激しく、P/Aは売上の増減に応じて人件費を変動させる調整弁的に使われてきた面がある。

しかし、変動費とされながらも、一定の時間と賃金を保障しないと定着率が低いので、固定費的要素の一面もあることも事実。

その為、賃上げすると損益分岐点が高くなり、売上が好調ならいいが、減少に転じれば利益率が低下してしまう。

◆他チェーンの追い上げも懸念点

現在の回転寿司業界は、2位はま寿司が急速な出店で猛追しており、3位くら寿司の存在も脅威だ。加えて、かっぱ寿司や魚べいも下剋上を狙っている。

常に店舗力を磨かなければ、いつまでも首位の座を維持できるほど甘い世界ではない。

店舗の原動力であるP/Aを公正に評価し適切な処遇がされなければ、モチベーションが下がり運営レベルが低下して、次に起こるのは顧客離反だ。

外食店運営はDXへの依存度を高めて人手不足対策に対応してはいるが基本は人だ。働き手が不満を持ち、労働意欲が低かったら、料理の品質や接客が低下し、顧客満足度までもが低下してしまうだろう。

◆忘れてはならない外食の原点

従来から生産性の低さが指摘されている外食業界。生産性向上に向けた対策の一環として、DXによる作業のロボット化やデジタル機器を積極的に導入している。

その活用で、効率的・効果的なオペレーションの再構築が進められており、これが結果として、課題の人手不足対策を解決しているようだ。

だが、外食はもともとが労働集約型の業界であり、人が中心となり付加価値を創出することで、他業種と比較しても粗利益率が高いという外食の原点を忘れてはいけない。

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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