
旗手怜央の欧州フットボール日記 第36回
旗手怜央がプレーするセルティックは、4月末にリーグ4連覇を達成。今季は欠場なく出場し続け、これまでとは違った達成感と充実感を得たという。1年間の成長と手応えを振り返った。
【今季の優勝はこれまでと違った達成感と充実感】
タイトルを獲得した瞬間に感じたのは、これまでとはまた違った達成感と充実感だった。
4月26日、ダンディー・ユナイテッド戦(第34節)に勝利したセルティックは、4試合を残してリーグ優勝を決めた。
セルティックでのリーグ優勝自体は、2021−22シーズンの冬に加入してから4年連続で経験しているが、今季は1試合も欠場することなくプレーし続けての優勝だった。ケガを繰り返した昨季は、リーグ戦16試合に出場してプレー時間は987分。一方、今季はすでに36試合に出場してプレー時間も2376分を記録している。チームに求められたなかで、勝利に貢献し続けられた達成感も強かった。
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加えて今季は、自分自身が追求してきた数字もついてきた。リーグ戦では10得点4アシストを記録。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)などのカップ戦も含めると、ここまで11得点9アシストと、これまた昨季の3得点5アシストを超える結果を残せている。
チームはリーグカップ、リーグに続く、3つ目のタイトルとなるスコティッシュカップ決勝(5月24日)を残しているが、セルティックに加入してもっとも活躍できているという充実感に、確かな成長を噛み締めている。
特にシーズン終盤に差し掛かった最近は、取り組んできたプレーや動きが実を結び、ゴールやアシストといった数字に直結している。
4月12日のキルマーノック戦(リーグ第33節)では2得点1アシスト、大会は変わるが4月20日のセント・ジョンストン戦(スコティッシュカップ準決勝)では3アシストを記録した。
中盤に降りて攻撃の組み立てに参加しながらも、ゴール前に顔を出せている結果であり、以前よりも自分がシュートを打つべきなのか、それともパスを出すべきなのかの見極めが整理できているからだと自負している。攻撃の過程では「6番」のプレーでありながら、ゴール前では「10番」のプレーにもなる。その10番のところで顔を出した時の判断ができるようになったことで、ゴールやアシストといった結果がついてきているように思う。
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【どこが空くか見えるようになった】
それはCLを経験したことによる成長もあるだろう。自分たちよりも力のあるチームと対戦した際は、ボランチであるキャプテン(カラム・マクレガー)と横並びでプレーする機会も多く、より相手の配置を観察するようになった。
世界的にハイプレスが主流になっているなかで、自分たちが低い位置からビルドアップする時、ボールを持っている人は概ねフリーになっている。そのフリーになっている選手に対して、誰かがプレスを掛けにくる。その時、常に誰がプレスを掛けに来て、どこが空くのかを観察するようになった。
その結果、誰がどこにいて、どう動いたら、どこが空くかが見えるようになった。それが低い位置だけでなく、相手陣内へと攻め込んだ高い位置でもわかるようになってきたことで、視野や選択肢が広がった。
5−1で勝利したキルマーノック戦でダメ押しとなった90+3分のアシストが、まさにその成果だ。センターバックのキャメロン・カーター=ビッカースからの縦パスを、自分はゴールを背にして受けた。ただ、相手の配置や味方がどこにいるかを把握できていたため、ほぼノールックの状態から、ゴールを決めたアンソニー・ラルストンにダイレクトで浮き球のパスを出すことができた。
【三笘薫との会話がヒントに】
他にも、スコティッシュカップ準決勝セント・ジョンストン戦で、前半終了間際に(前田)大然が決めたゴールのアシストも手応えがあったプレーだ。
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相手のクリアボールを右サイドで拾った自分は、ドリブルでひとり交わしてゴール前に進入すると、ふたり目も3人目も交わして、左にいた大然へラストパスを送った。相手DFを交わしてシュートを決めた大然も見事だったが、複数人の相手を引きつけたプレーは、少し前に(三笘)薫と交わした会話がヒントになっていた。
あれは日本代表として戦ったW杯最終予選のサウジアラビア戦を終えたバスで、隣に座った時だった。
0−0という結果を受け、相手を押し込んだ時にどのように崩していけばいいかという話になった。その時、薫は「ボールを持った選手がひとりでも、ふたりでも相手を引きつけることによって、どこかにスペースが生まれ、どこかが空いてくる」と言い、「それはDFもMFも同じで、いかにボールを持ちながら相手を引きつけられるかが大事なのではないか」と話してくれた。僕自身も強く同意し、共感するとともに、セルティックに戻ってからも、その言葉を意識するようになった。
幸いセルティックは、スコットランドにおいてはボールを保持できる時間が長い。そのため、自分がボールを持った時は、ワンタッチやツータッチではたくプレーも取り入れつつ、前に運べるシーンでは、相手をひとり、ふたりと引きつける動きを取り入れた。
ドリブルで仕掛ける機会の多いサイドの選手が、それを試みるシーンはよく見かけるが、中央でプレーする自分ができるようになれば、チームの強みになり、自分の特長にもなる。セント・ジョンストン戦でのアシストは、薫と話してから意識するようになったプレーが、結果として表れた瞬間だった。
【タイトルを積み重ねることが大切】
今季は多くの試合を戦い、経験したことで、より相手や配置、スペースを考えてプレーできるようになり、相手を引きつけるプレーもできるようになった。他にも守備面においても成長を実感できる1年だった。だからこそ、今までにない達成感と充実感を得られたリーグ優勝だった。
同時に、いつだったか内田篤人さんが言っていた、ジーコさんからの金言を思い出した。
「選手を引退する時、残るのはタイトルの数だけだ」
その言葉を聞いて、今季も自分のキャリアに新たな星を加えられたことを誇りに思っている。カップ戦もリーグ戦も優勝は積み重ねだ。また、タイトルを狙えるチーム、環境でプレーできることもその成果を得られるひとつでもある。
そのシーズンにどんな活躍をしたか、どんなプレーを見せたかは、しばらく経てば忘れられてしまうだろうが、ゴールやアシストといった記録が残るように、タイトルを獲った結果や事実も永遠に残っていく。
だから、セルティックで今季もふたつのタイトルを獲れたことに喜びを感じつつ、通算9つ目のタイトルとなるスコティッシュカップに優勝して、今シーズンを締めくくることができればと強く思う。
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