[写真]=須田暉輝 史上最速でワールドカップ出場権を獲得した“第2期”森保ジャパン。8大会連続8回目の出場となるFIFAワールドカップ26では『最高の景色を』をキーワードに、優勝を目標に掲げ、約1年2カ月後の本番へ準備を進めていくことになる。
ここまでどのような意図を持ってチームを作り、ここからどのような強化をして本大会へ臨むのか。森保一監督に聞いた。
インタビュー=小松春生
―――スタッフィングについてお聞きします。FIFAワールドカップカタール2022では森保監督自身を含め、選手としての日本代表経験者がスタッフに複数いて、第2期では名波浩コーチのようにワールドカップに出場しつつ、海外リーグでのプレー経験のある人材を起用。現在はさらにヨーロッパリーグやブンデスリーガの優勝経験を持つ長谷部誠コーチを加えました。代表、ヨーロッパでの経験が豊富な長友佑都選手含め、現在の代表選手たちが日ごろプレーしている環境に近い経験を持つ人材を置いていますが、長谷部コーチや長友選手のような存在がコーチ陣と選手をつなぐ役目も果たしていると思います。
森保 今言われたようなことも含めて招聘しています。過去から今があり、未来につないでいく。日本サッカー、日本代表の歴史の継承をしていきたいと考えています。コーチングスタッフは元日本代表が多くなりましたが、力のある人材ならば必要に応じて招聘する気持ちはあります。長谷部コーチに関しては、選手も辞めたばかりで、コーチ業をやりながらいろいろなことを勉強しているところですが、我々にとっても本当に貴重な存在です。ヨーロッパ、日本代表での経験値が高く、ヨーロッパ、Jリーグで頑張っている選手たちの思いに、よりフランクにアプローチ、対応してもらえる部分はあります。かつ選手と我々コーチングスタッフをつなげてもらう点もあります。名波コーチのように海外でのプレー経験があるコーチもいますが、どちらかというと日本での選手、コーチ経験を積んできている。現役を辞めてから時間が経っていないからこそ、長谷部コーチから現コーチングスタッフに対しても、感じたことを言ってもらえることは、ありがたいですね。
■はめてくる相手に何をしていかなければいけないかにフェーズも変わってきている
―――選手の招集でも、大前提として戦力として足りうるかがありつつ、日本代表というものの意味合いを感じてもらう、継承するというマネジメントもされていると思います。
森保 そうですね。ニュートラルに競争や力を見ていることが基本ですが、歴史の継承や日本代表として戦う部分で、ベテラン、中堅、若手のバランスも考えています。ただ、日本代表としての力があることが大前提ですし、ギラギラ感を持って、「俺は日本を背負って立つ」という思いを持ち、チームのため、仲間のため、日本のため、みんなと協力して戦ってくれる選手たちを招集したいですし、そういう選手たちが今はたくさん戦力になってくれています。
―――FIFAワールドカップカタールを優勝したアルゼンチン代表はリオネル・スカローニ監督の元、ワルテル・サムエルやパブロ・アイマールといった選手経験値も高いコーチングスタッフにいましたし、決勝トーナメント1回戦で対戦したクロアチア代表にはマリオ・マンジュキッチやイヴィツァ・オリッチのように、現役を退いて間もない元代表選手がコーチとして一緒にトレーニングをしていました。選手をマネジメントする意味も含め、必然的にそうなるものなのでしょうか。
森保 元日本代表であることや、選手に近い人をコーチとして入れることを、すごく意識しているわけではありません。コーチングスタッフの機能性と、選手に技術的、戦術的、メンタル的な環境を作っていく時に必要だと思うスタッフを構成することが基本的な考えだとは思います。ただ、私自身のスタイルでもある一方的に何かを言って、一方通行のチーム作りをするよりも、お互いにコミュニケーションを取りながら、よりいいものを作っていこうというチーム作りにおいて、選手の感覚に近いスタッフがいることで、意見も出やすいと思いますし、チームとしても、いろいろな意見が出た中で、最善、最適、最高が何かを考えていけると思います。
―――カタール大会後、森保監督は「選手たちに枠組みをもっと提示してあげたほうがよかったかもしれない」と話されていました。日本人としての特異性として、集団での規範を無意識的にも作ってしまうが故、良くも悪くもまとまってしまう。一方、ヨーロッパなどの大陸の人たちは、規範があっても自分が正しいと思えばその枠からはみ出していくメンタリティがある分、団体としては日本よりもむしろ細かくルールを決めて、白黒を曖昧にしていない印象です。サッカーではそれを“戦術”や“チームマネジメント”として表現される部分もあるでしょうし、だからこそヨーロッパでプレーする選手がほとんどとなった日本代表でも、選手がヨーロッパ的なマインドを持っているからこそ、ギャップが生まれ、あの発言になったと解釈してきたのですが、そのあたりの感覚はいかがでしょうか?
森保 チームの枠組み自体や規律は、チーム作りの中でやってきたつもりではいましたし、今もつもりではいます。ただ、どこまで作り上げていくかにおいて、当時は足りていなかったことを感じたからこその発言だったと思います。今はまた状況も変わってきています。当時は、どちらかというとリーグ内でも挑んでいく、相手に合わせる戦いが多いクラブに所属していた選手が日本代表に多くいた中、戦術的な規律やパターン的な部分をもっと持っていた方が、選手たちがプレーしやすかったであろうと感じ、「もっと細かくしておけばよかった」という振り返りのコメントをしたと思います。もちろん、その時にも提示することを考えながらやっていましたが、結果的に見ると足りなかった。でも、今は5大リーグやヨーロッパ全体として見ても上位にいたり、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグに出るような選手が多いので、今度はこちらが相手をはめるだけではなく、我々をはめてくる相手に何をしていかなければいけないか、ということへフェーズも変わってきているとは思っています。
■より強度高く、技術力、戦術力を発揮できる選手たちを起用している
―――第2期では大まかに齊藤俊秀コーチ、下田崇コーチが守備、名波コーチや前田遼一コーチが攻撃をオーガナイズし、選手に近い立場に長谷部コーチがいて、分析官の方も増えました。
森保 分業制は1期目のアジア最終予選あたりからよりはっきりしてきたと思います。今は分業制でそれぞれのコーチがそれぞれのパートからチームを勝たせる、そして選手を輝かせてくれていると思っています。日本代表の活動は集合して2日目、3日目には試合をしないといけない中、監督はピッチ上のこともやる、戦術も伝える、ミーティングもやる、選手個々にも向き合っていく、チームスタッフや各部署ともいろいろな向き合い方をしながらチームマネジメントをしていくので、その結果、選手たちが思い切って輝ける場へのアプローチが薄くなってしまうと判断をした点があります。加えて、カタール大会でも決勝までの7試合戦うことを想定してやっていましたが、今度の大会では決勝まで8試合ある中、その決勝の舞台で全員が100%の力を発揮できる状態を作っていくために必要だと思い、より分業制にしました。人数を多くし、一人ひとりが疲弊して倒れないようにと考えてスタッフ編成をしています。
―――アジア最終予選では両ウイングバックに攻撃的な選手を置く3バックシステムを中心に戦いました。変化やバリエーションを増やすという意図もありましたか?
森保 私自身が日本代表監督として1期目から2期目に入り、マンネリ化しないということ。そして、「これまでの戦い」ではなく、「これからの戦い」をどう作っていくかというテーマがありました。積み上げてきた、忘れてはいけない部分をしっかりと持っておきながら、これからをどうやって作るかという点で、4バックでも、3バックでも、攻撃の選択肢も守備の選択肢も、新たなトライをしてこられていると思いますし、新たに加わったコーチ陣とともに、1期目にはなかったアイデアにチャレンジしながら、選択肢として持てるよう、できる範囲ではやってこられていると思います。
―――選手起用では、相手との噛み合わせなどもありますが、攻撃、守備、メンタル面も含めて、高い強度を出せる選手が必然的に並び、そういった選手が輝けるような戦い方を作っている印象もあります。
森保 技術的な部分や個々の特徴は見ますが、強度を高く戦える選手が、より試合に出ていることは間違いないです。日本人は技術が高いと思いますし、サッカーを見られる日本人の方もテクニカルの部分を見る方が多いと思っています。ただ、小手先のうまさでは国際試合は勝てない。世界では勝てないので、より強度高く、技術力、戦術力を発揮できる選手たちを起用しているところはあります。
■3バックも4バックも両方使っていきたい
―――FIFAワールドカップ26まであと1年少々。目の前の試合に最高の準備で臨む点はこれまでと変わらないと思いますが、大会までのロードマップはどのように考えていますか?
森保 ロードマップは最初から決まっています。ワールドカップ優勝までの道のりがある中で、目の前の一戦一戦にどれだけ勝利を目指して戦えるかということ。そして、その中で選手、戦術を試すことをミックスして戦うことも変わりはありません。ワールドカップまで残り1年ほどになりましたが、長期の目標にたどり着くことがありながら、道が続くのか、途絶えるのかという岐路に一回一回、立たされているというのが我々です。選手たちも次の活動に選ばれるか分からないという競争の中で戦わなければいけないですし、アピールもしなければいけません。それは選手だけでなく、我々も結果が悪ければ、途中でいなくなってもおかしくない。今をどうやって積み上げていけるかで未来につなげていくということは、みんなが同じ思いでいると思います。
―――試すという言葉もありましたが、アジア最終予選での3バックは対アジア用だと思っています。押し込む展開が前提の試合での戦い方を最終予選を通じて作った。相手に対してのリアクションでの戦い方はカタール大会などでの経験がある。ここから本大会までで、システムはあくまで数字の話ではありますが、4バックを採用するなどはいかがでしょうか?
森保 システムで言うと、3バックも4バックも両方使っていきたいと考えています。システムありきではないですが、それを持ちつつ、本大会の最善は何かということで決めていきたいと思っています。アジアでの戦いとワールドカップで上位進出を目指す戦いで、明らか違うのは選手の質です。例えば守備の面から考えると、相手には強くて速くてうまくて高いセンターフォワードや、強烈な個の力で突破できるウイングを擁しているのが世界トップ基準だと思います。そこに対応できるのは3バックなのか、5バックなのか、あるいは4バックにしながら攻撃に移っていくのかは、また考えないといけません。アジア最終予選ではウイングバックに攻撃的な選手を配置して戦ってきましたが、あのポジションに、より守備で強みを持つ選手を配置すれば、5バックになるかどうかは別として、より守備は堅く、攻撃に移っていけることも考えていけるので、試してはみたいですし、選択肢には持ちたいと思います。4バックにして、攻撃的には行きたいですが、世界のトップと戦う時には守備に回らないといけない時間や、ウイング対応も増えるので、それも踏まえて4バックで戦うことも考えていかなければいけないと思います。
【動画】森保監督インタビュー完全版