楽天グループは5月14日、2025年第1四半期の決算を発表した。楽天モバイルを起因とする損失は継続しているものの、全セグメントで増収増益を記録し、連結売上高は過去最高となった。
楽天モバイルとその子会社からなる「モバイルセグメント」が順調な増収を記録し、固定資産税を除くEBITDAベースながら「携帯キャリア事業参入以降初の四半期黒字化」を達成し、数字は改善している。
この記事では、同日に行われた決算説明会の概要を説明する。
●連結業績の概要
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連結業績は、売上高を示す売上収益が前年同期比で9.6%増の5627億400万円、営業損失が前年同期比で178億2,800万円改善の154億4400万円となった。Non-GAAP(開示義務のない指標を含む)営業損失は、251億4400万円改善の305億円だった。
楽天グループでは今回、三木谷浩史社長を含む登壇者3人が、質疑応答を除いて「AIアバター」で説明するという決算会見を実施した。AI(人工知能)に注力する姿勢を鮮明にするための演出だ。
決算説明はAIアバターによる合成音声によるものだったが、質疑応答でリアル登壇した三木谷社長によると「スクリプトを確認した上でやっているので、私の発言として引用してもらって結構です」と話していた。
●モバイル事業の損失が大幅に改善 黒字化に向けての“第1歩”
楽天モバイル単体の業績は、売上収益が前年同期比で40.7%増の871億6200万円で増収、Non-GAAP営業損失は前年同期比で175億4500万円改善の490億7400万円、Non-GAAP EBITDAは同206億7800万円改善の64億5100万円の損失となった。
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固定資産税を除くEBITDAベースでは、同202億円増の1億200万円となり、初めての四半期黒字を達成した。
一方、楽天モバイルの子会社を含むモバイルセグメントの売上収益は、前年同期比10.9%増の1107億500万円、Non-GAAP営業損失は前年同期比143億500万円改善の512億7600万円となった。
ARPU(1契約当たりの平均収入)は前年同期比の5.7%増で2078円、グループ売上増の貢献を示す「エコシステム」は前年同期比11.4%減で749円、両者の合計を示す「エコシステムARPU」は前年同期比で0.6%増の2827円となり、「正味ARPU」(※1)は前年同期比で5.1%増の2430円となった。
(※1)エコシステムARPUから「MNO契約者による売上アップリフト効果に伴う売上原価」と、「グループ会社からモバイル事業への送客効果」を控除した額
回線契約数は前年同期比で23.4%増の863万回線。解約率はMNOの単純解約率で1.99%、調整後の解約率は1.56%だった。
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楽天エコシステムへのプラス効果も継続
数字的には、決して「楽観視」できるものではない。しかし、三木谷社長は楽天グループの長期成長モデルとして「モバイル事業の拡大」「グローバル事業展開」「AI」を活用した「トリプル20」という3本柱を掲げている。特にモバイル事業は、既存ユーザーのロイヤル化や新規ユーザーの取り込みを担い、エコシステムの拡大に貢献するとして重視しているという。
「エコシステム全体の拡大に注力し、差別化されたサービスで競争優位性を確立する」と、三木谷社長は強調する。
実際、楽天エコシステムのユーザーのうち、楽天モバイルユーザーが占める割合は13.7%まで拡大。楽天モバイルの新規ユーザーが楽天エコシステムのユーザーとなる数も増加傾向にあり、エコシステムの拡大に貢献しているという。
携帯電話料金の値上げは「現時点では考えていない」
NTTドコモやKDDIは、携帯電話の新プランを相次いで発表し、いずれも月額料金を値上げしている。ソフトバンクも決算説明会において月額料金の値上げを前向きに検討しているとした。
一方、三木谷社長は以前から携帯電話料金の値上げには否定的なコメントを出していた。
今回の決算説明会でも、三木谷社長は「他社とは違い『仮想化技術』『Open RAN』『AI』の活用で、オペレーティングコストが抑えられている」と話し、そこにグループのエコシステム貢献が加わるため、「現段階で大きな値上げをすることは考えていない」とした。
ただし、2026年度に楽天モバイルは衛星通信サービスを提供する計画で、こうした新たなサービスを付加価値として追加料金で提供するかどうかは「検討事項」だという。
回線契約数拡大に向けては、新たに「中高齢層の獲得」「地方での獲得」をそれぞれ推進していくという。具体的には、店舗数を増やすなど「オフラインチャネル」を強化していく方針だ。
さらに、ネットワークの改善のために2025年内に1万局以上の追加基地局を設置するという。エリアの“穴”を削減し、混雑緩和を図ることで、解約率の低減につなげる考えだ。
●順調に推移するフィンテック事業とインターネット事業
金融/決済事業からなる「フィンテックセグメント」は、楽天銀行や楽天カードを中心に堅調に推移した。売上収益は前年同期比で15.6%増の2160億3,600万円、Non-GAAP営業利益は前年同期比で21.7%増の438億8900万円だった。
楽天カードのショッピング取扱高は6.3兆円、楽天銀行の単体口座数は1683万口座、楽天証券の総合口座数は1234万口座になるなど、全体的に好調に推移しているという。
楽天カードは取扱高が順調に伸びた。一方で、金利上昇による金融費用が増加したことなどを受けて利益は減少している。
「楽天ペイ」「楽天キャッシュ」「楽天Edy」「楽天ポイント」を提供する楽天ペイメントでは、取扱高が拡大。Non-GAAP営業利益は、黒字化した前年同期からさらに133.2%増となる19億円まで伸張した。2025年夏からは、楽天ペイアプリ内で保険商品を提供する予定で、新たな収益源として期待しているという。
楽天証券は継続的に増益基調だ。一方で、昨今話題の「証券口座の乗っ取り」に関する言及はなかった。
楽天グループの祖業である「楽天市場」を含む「インターネットセグメント」は、売上収益が前年同期比で6.9%増の3054億7,800万円、Non-GAAP営業利益は前年同期比で25.8%増の131億7900万円だった。
楽天市場の流通(取引)総額は、前年同期比で3.0%増の1.4兆円で、旅行代理業の楽天トラベルは、コロナ禍前の2019年比で48.1%増になるなど、順調な拡大となった。
楽天市場では楽天モバイルとの連携強化により、楽天モバイル契約者の流通額が非契約者よりも47.5%高くなったという。アクティブユーザーの割合も増加しており、エコシステムへの貢献がさらに進んだ。
AI分野では「セマンティック検索」が貢献
注力分野であるAIでは、AIを活用した「セマンティック検索」が楽天市場の成長を押し上げ、その効果は10.7%に達したという。
AI分野では、楽天独自の言語モデル「RAKUTEN AI 2.0 8x7B」「RAKUTEN AI 2.0 MINI 1.5B」をオープンモデルとして公開した。オープンβ公開中の「Rakuten AI Assistant」では、撮影された写真に対してAIが回答する「Snap & Ask」機能を提供するなど、機能の改善を続け、近いうちに正式リリースを発表するという。
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