
インバウンドや旅行需要の回復で、活気を取り戻す宿泊業界で深刻なのが人手不足。そんな中、ホテルや旅館の「食」を陰で支えるビジネスが注目を集めている。
【写真を見る】“プロのシェフに使っていただく”クオリティの冷凍食品
ホテルの朝食「運営代行」とは築地場外市場や歌舞伎座から徒歩数分のところにある『ホテルビスタ東京〔築地〕』(東京・中央区)。
ビュッフェ形式で提供される朝食会場は、多くの外国人旅行客で賑わっている。
焼きたてのパンケーキやバリエーション豊かなフルーツが人気で、他にも出汁の効いた厚焼き玉子サンド、牛すじのカレーなど“築地の味”も並び料金は大人3000円だ。
米・マサチューセッツ州出身の女性:
「とても美味しい。朝食は大切。いい朝食が取れればいい1日のスタートになる」
米・カリフォルニア州出身の男性:
「日本の朝食文化はバラエティーに富んでいて味も美味しい。バランスも取れていて健康的」
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好評の朝食ビュッフェだが、実は「メニュー作成」から「食材の仕入れ」「調理」「ホール業務」をすべて“外部に委託”している。
森田浩司支配人:
「私共のような宿泊特化型のホテルでも宿泊部門・清掃部門・料飲部門があり、どの部門でも人が足りなくて困っている状態。自分たちで宿泊以外に料飲の仕事を内製化するということはもはや考えられない」
ビスタホテルグループでは、全国で展開する15のホテルのうち12のホテルで朝食の運営代行を導入。
それを請け負っているのが『株式会社センダン』(東京・中央区)だ。宿泊施設での朝食運営代行は【2020年:27施設】⇒【2025年4月:60施設】と拡大しているという。
『株式会社センダン』峠 幸久代表取締役社長:
「宿泊特化型、いわゆる朝食のみのレストランを備えたホテルが増えている。需要が本当に右肩上がりの状況で、客の反応はすごくいい。チェックアウトをする前に食事を取り一番の思い出になるので、しっかりと客・ホテルのニーズに応えて運営できればと思っている」
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宿泊需要が増加する一方で従業員の確保が追いつかず、宿泊施設の人手不足は深刻化している。
2019年1月を100とした【延べ宿泊者数】と【宿泊施設の従事者数】を比較したグラフでは
▼宿泊者数⇒2024年12月の時点で「127」まで伸びているのに対し
▼従事者数⇒「102」とほぼ変わらず
(※延べ宿泊者数は観光庁・宿泊従事者数は総務省より)
1934年開業の老舗ホテル『札幌グランドホテル』(北海道・札幌市)も例外ではない。
伊藤博之総料理長:
「朝9時から夜6時までという時間が決まっているところは人気があるが、ホテルのように朝食やって夜のディナーをやるなどシフト制になっていると、今の若い人には不人気」
そこで取り入れたのが【冷凍食品】。宴会で提供される大皿料理全7品のうち2品は冷凍食品だ。
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例えば「白身魚で包んだホタテのムース」は冷凍食品を使い、ホテルで調理したソースとレモンを添えて提供。
伊藤総料理長:
「ホテルのソースに合わせてもらう場合と、うちが冷凍食品にソースを合わせる場合と二通りある。今は非常に冷凍食品もいい商品になっている。うまく活用しながら使っていくのは全然いいのかなと」
札幌グランドホテルの冷凍食品を手掛けているのは、『エア・ウォーターアグリ&フーズ MIKATA事業部』だ。
北海道日本ハムファイターズの本拠地・エスコンフィールドHOKKAIDOがある北広島市に工場を構え、有名ホテルから個人経営の旅館まで“全国約800の事業者”に冷凍食品を納入している。
色鮮やかなパイ包み料理やトロトロの豚の角煮、トリュフの香りのチキンロースト。
イカ・海老‧たけのこ‧椎茸‧鶏肉の5種類の具材が入った「海鮮五目塩炒め」は、特製の塩だれベースのソースと一緒に真空パックし、冷凍して出荷。
調理は袋のまま湯せんし皿に盛り付けるだけで、ホテルのバイキングで重宝されているという。
前川健剛事業部長:
「私共の強みとして、一番は“プロのシェフに使っていただく”というクオリティ」
その“プロのシェフが使いたくなる”秘密は、工場にあるという。
まずは、【従業員】にある特徴が。
中華鍋を豪快に振っているのは、「中華料理歴30年以上」の料理人。
洗練された手つきで魚をさばくのは、「和食歴20年」の料理人だ。
工場では200人以上が働いているが、その中には和洋中はもちろんインド料理やデザートまで【専属のベテラン料理人】が20人在籍している。
洋食一筋30年・草野信二さん:
「この工場の前はホテルで15年ぐらい。ホテルを出てレストランを2年ぐらい。ここが一番⻑い」
中華料理歴30年以上・林 哲也さん:
「ホテルにいた時代が⻑いので、客がどんなものを欲しいとかそういうのはためになっている」
MIKATA事業部の工場では【1年間で1000種類を超えるレシピ】を作成し、これまで作ったレシピは7000種類にも及ぶが、選ばれる理由は本格料理人によるレシピの豊富さだけではない。
『エア・ウォーターアグリ&フーズ MIKATA事業部』前川事業部長:
「ホテルの料理人は、それぞれ皆さん自分の味を持っている。それをどう再現するかというのはなかなか難しい部分がある。【オーダーメイド】というところで、ここはそれが実現できる工場」
ホテル側が求める冷凍食品を製造するために入念な打ち合わせを行い、宿泊施設から細かな要望を聞き取り商品に反映させているのだ。
▼「濃い目のソースを使いたい」という要望⇒食品自体の味付けを薄めに
▼「大皿に料理を盛り付けたい」⇒1食分のボリュームを調整など
先ほどの札幌グランドホテルでも試食とリクエストを繰り返し、完成までに2〜3か月、長いと半年かかることもあるという。
『札幌グランドホテル』伊藤総料理長:
「例えば工場で作ってもらう場合はロット数(製造数量)が多い。要するに4000個5000個、下手したら1万個とか言われる。MIKATAはある程度その宴会で使う使用
量で、いろいろリクエストに応えてくれる。こういうところは本当に他ではないのではないか」
さらに美味しさを保つために、“欠かせない行程”があるという。
使うのは「トンネルフリーザー」と呼ばれる最新技術が搭載された大型の冷凍設備。ベルトコンベアに乗った製品は、トンネルを約30分かけて通過し急速冷凍される。
例えば焼き魚でも、焼いたものをすぐに冷凍することによって【加熱した時に焼きたての味】を楽しめるというわけだ。
『エア・ウォーターアグリ&フーズ MIKATA事業部』前川事業部長:
「冷凍食品に抵抗を持っている料理人もたくさんいる。この工場に皆さん足を運んでいただいているが、試食や試作を一緒行い、帰りには考えが180度変わる」
ホテルなど宿泊施設の人手不足が深刻化する中、需要は高まっているという。
前川事業部長:
「私どもはあくまでも“黒子”に徹してやってきている。表に出過ぎず私どもが持ってる技術・ノウハウを培って、プロのシェフの人手不足などの困り事に少しでも力になれればをモットーにやっている。“困って頼むならMIKATA”というような存在でありたい」
深刻化する宿泊施設での厨房での従業者の減少だが、調理師自体が年々減少しているというデータもある。
【調理師免許の交付数】※厚生労働省
▼2013年度⇒4万人台を割り3万人台に
▼2019年度⇒2万人台
▼2022年度⇒「2万6304人」まで減少
――日本全国で人手不足が深刻化。その中で効率化を求めた様々なビジネスが出てくる
『慶応義塾大学』総合政策学部教授 白井さゆりさん:
「原材料も無駄にならず人件費も節約できる。工場で集中して作ることで温暖化の温室効果ガス削減にも寄与するので環境にも良い。こういう技術が恐らく色々な国でも活用されると思う」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年5月10日放送より)