XiaomiのPOCOシリーズは、コストパフォーマンスの高さを売りにしたスマートフォン。オンラインに販路を絞り、流通コストや宣伝コストをカットすることで、性能に対しての価格を抑えているのが特徴だ。初めて同シリーズの端末が発売されたのは、2022年のこと。以降、日本でもバリエーションを絞りながら年間1機種程度、端末を展開してきた。Xiaomi Japanは2025年から、そのPOCOを本格的に展開していく。
手始めに投入されたのが、2月発売の「POCO X7 Pro」。日本に投入されるPOCOはハイエンドモデルが中心だったが、そのバリエーションをミッドレンジに拡大した。3月には、「POCO F7 Pro」に加えて最上位モデルの「POCO F7 Ultra」も発売し、ハイエンドモデルもバリエーションを広げている。さらに、4月にはより性能を抑えた「POCO M7 Pro 5G」を導入。ハイエンドからエントリーまで、一気にフルラインアップを取りそろえてきた。
毎月のように新機種を発売してきたPOCOだが、日本では、オンラインで端末を買う習慣が必ずしも定着しているとはいえない。Xiaomiの名前は徐々に広がっているものの、POCOはブランド認知がまだ低いという課題もある。では、XiaomiはなぜこのタイミングでPOCOの本格展開を決めたのか。その理由や今後の販売戦略などを、Xiaomi Japanの副社長 鄭彦(てい・げん)氏とシニアマーケティングマネージャーでPOCOを担当する片山将氏に聞いた。
●一般ユーザーに裾野を広げてコスパの高さを評価してほしい
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―― まず、POCOとはどのようなシリーズなのかを、改めて教えてください。
鄭氏 Xiaomiにはハイエンドのシリーズがあり、その下にコストパフォーマンスが高いRedmiシリーズがあります。それとは別にあるのがPOCOで、性能は高いまま、余計な機能を削ることで究極的なコストパフォーマンスを実現したシリーズです。オンライン限定で展開しており、ITリテラシーが高く、自ら情報収集できる方に向けています。
―― 日本でも、オンライン限定という位置付けはそのままなのでしょうか。
鄭氏 そうです。そこは変えていません。
―― 揚げ足取りになってしまいますが、Xiaomi Storeでは売っていますよね。
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鄭氏 (笑)。昨年(2024年)も一時期、ポップアップストアで展示、販売していました。今年(2025年)も最初はオンライン限定にする予定でしたが、お客さまから「やはり触ってみたい」というお声が多く寄せられていました。それに応えて、期間限定でやっています。この期間をどう引くのかはニーズをヒアリングしつつになりますが、オンライン限定という考え方は変わっていません。オフラインは販売というより、あくまで体験の場所を提供するという考え方で整理しています。
―― 販売店を広げてしまうと、その分コストも乗ってきてしまいそうです。
鄭氏 そうです。それもありますし、オンライン(のXiaomiやRedmi)とのバッティングもあります。
―― 以前から投入していましたが、今年から本格展開することになりました。その理由を教えてください。
鄭氏 過去に2モデルを出してきましたが、そこでのお客さまの評価がかなり高かったことがあります。もともと、オンライン限定でITリテラシーが高い、ある意味ギークの人向けにお出ししたものですが、評判がよかったので、もう少し一般の方にユーザー層を広げてもコスパが高いところは評価いただけるのではないかと考えました。海外ではギーク向けだけでなく、ハイエンドからローエンドまで幅広くカバーしています。日本でも一定のニーズがあり、より広いユーザー層に受け入れられるのではなかと考え、本格展開を決めました。
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●一番人気は「POCO X7 Pro」 Xシリーズに対する要望が高かった
―― 今年に入って既に4モデル投入しています。もう少し、徐々に広げていく手もあったと思いますが、ここまでの拡大は時期尚早だったということはないでしょうか。
鄭氏 4モデルを出し、市場の反応を見ていると、そんなことはないといえます。それぞれの端末にニーズがあるからです。
―― なるほど。特に人気が高いモデルはありますか。
;鄭氏 一番人気なのはPOCO X7 Proですね。POCO F7 UltraとF7 Proも、以前のモデルを買われたような層からのニーズがあります。
―― POCO X7 Proということは、やはりバランスが取れているというのが大きいのでしょうか。
鄭氏 そうですね。昨年から、Xシリーズの端末がほしいという声は多くいただいていました。
片山氏 「POCO F6 Pro」を出した際にも評価されていた一方で、SNSには「Xシリーズは今年もないのか」という話がけっこう出ていました。そういった方々には、本格参入の一発目として出したこともあり、だいぶ喜んでいただけています。
―― Fシリーズの方がある意味分かりやすいので、反響が大きいと思っていました。
片山氏 シンプルに「Snapdragon 8 Elite」という話がガンと出ますからね。ただ、改めてになりますが、Xiaomiファンにはテクノロジーやガジェットが好きな方が多い。このチップなのにこの価格で来たか、というところはやはり評価されます。テック好きな方は広くいますし、日本で培ってきた活動で認知していただけていることを再認識しました。
●エントリー層を狙ってMシリーズを投入 イベントやストアで実機を触れる機会も作る
―― 今回、新たにMシリーズも投入します。こちらはどういう位置付けなのでしょうか。
鄭氏 グローバルで最も(性能が)低いエントリーモデルは、日本市場とお客さまのニーズを踏まえて出していません。POCOらしさはちょっと足りないかもしれませんが、Mはその上の端末で、エントリー層を狙う端末です。
片山氏 日本だとXiaomiのファンには若い方も多い。10代の方にも、XiaomiやPOCOを知っていただけています。性能だけでいえばFシリーズを使うのがベストですが、バランスを取ってXがいいという人もいれば、Xにはギリギリ手が届かないという方もいます。また、ガジェットは好きでもゲームはやらないという方もいます。最低限の性能でこの価格というのは、ガジェットが好きな方からも評価されています。
―― 若い人は、どういう経緯でXiaomiやPOCOのことを知るのでしょうか。
片山氏 4月頭にオフラインイベントを開催しましたが、そこには10代の方や中学生の方もいました。初めてのスマホを選ぶ際に、親に与えられたのがRedmiシリーズだったという方がいたり、スマホを選ぶ時に最初はiPhoneに目が行ったものの、予算の都合で買えないので自分で調べていくうちにXiaomiやPOCOにたどり着いた方がいたりと、経緯はさまざまです。ただ、親御さんもガジェットやテクノロジーが好きな方が多いですね。いろいろなAndroidスマホを触ってきた方が、お子さんにもそれという形で与えているようです。
―― やはりいきなりオンラインで購入するのはちょっと怖いという方も多そうですが、実際に見たいというニーズはイベントなどで満たしていくようなイメージでしょうか。
片山氏 直近だと先ほど申し上げた2店舗に展示されていますし、店舗が増えた場合も、現時点ではPOCOを置いていく予定です。あとは、オフラインのイベントですね。4月だけなく、2月にもクローズドな形でゲーム系のイベントを実施しました。そういった形でなるべく触っていただき、一般の方の声が広がっていく施策は今後もやっていければと考えています。
―― その意味でも、Xiaomi Storeは重要ですね。
鄭氏 そうです。
●Xiaomiからの“流用”でコストを抑える工夫も FeliCaの搭載は?
―― それにしても、POCOはコストパフォーマンスが高いと思います。なぜここまで価格を落とせるのでしょうか(※最上位モデルのPOCO F7 Ultraが9万9980円から)。
鄭氏 チップセットやメモリを見ると、価格が安いと感じるはずです。逆に、実際に体験していただければ分かりますが、Xiaomiのハイエンドモデルにはライカがありますが、POCOにはなく、もう少しコスパの高いセンサーを使っています。また、一部のソフトウェアはXiaomiから流用しています。そういったところで部材のコストや開発コストを落として、価格を削減できています。
片山氏 テック好きの若い人がターゲットで、世界中のユーザーから声を拾っています。そういった層の中には、使う機能と使わない機能が存在します。例えば、今回出したものでいえば、eSIMには対応していません。直近で使っているユーザーからフィードバックをいただいたり、アンケートを取ったりする中で、利用頻度が低いものはあえて入れない。そういう取捨選択をしています。
逆に、昨年までは防水がないモデルも多かったのですが、それはニーズが高かったので等級を高めるようなことをしています。Xiaomi以上にフィードバックを受けながら、いるもの、いらないものを精査しています。
―― カメラでいうと、ライカの味は出ないものの、画質はいいというようなことですね。
片山氏 はい。Xiaomiはそれこそ全部盛りとまではいいませんが、eSIMも入っています。日本だとFeliCaこそありませんが、スマホにあるべきものを全て詰め込んでいる。ライカの協業も含めて、どうしてもコストは上がってしまいます。POCOは、その取捨選択をしているからこそ、差別化ができる。ハイエンドに求めるものが違うということです。
―― となると、やはりFeliCaは難しそうですね。
片山氏 長期的にどうなるかは分かりませんが、現状だと、ガジェット好きやテック好きは2台持ちが当たり前です。モバイルSuicaやマイナポータルがどうなるかにもよりますが、交通系ICは首都圏以外のニーズが低いこともあります。そういった意味もあり、現状では入れていません。
鄭氏 その代わり、価格を抑えたり、投入時期を早めたりといったことができています。
片山氏 ファンの方は、われわれより情報が早いこともありますからね。中国で発売されたPOCOのベースモデルを見て、「いつ出るんですか」と言われることもあるので、投入時期に関してはかなりセンシティブに見ています。グローバルで出たモデルから間が空いてしまうとファンの方が他に目移りしてしまったり、先にグローバルモデルを買ってしまったりする。メーカーとしても、日本で使えるようにして提供したいという思いはありますので、そういったファンの声に応える意味でも投入時期を早めていますが、逆にローカライズの優先順位はかなり低くなっています。
●POCOシリーズは“ゲーミングスマホ”ではない?
―― 確認になりますが、ゲーミングの性能を強調することもありますが、ゲーミングスマホではないという理解でよろしいでしょうか。
片山氏 Mシリーズもありますので、必ずしもゲームではありません。最初に投入した「POCO F4 GT」にはポップアップのLRボタンがあって、ゲーミングスマホのようでしたが、全体的なニーズを吸い上げると、やはりゲームもやるが写真も撮るという方が多い。Fシリーズには、ライカこそ載っていませんが、これまで培ってきた技術はかなり入っています。実際、テレマクロはキレイに撮れますし、グローバルの発表会でも、カメラのパートには相当な時間を割いています。
鄭氏 ゲーミング目的のラインアップではありませんが、基本性能が高いことを訴求する際にはゲームが分かりやすい。一方で、最近はAIにも基本性能が求められるので、POCO X7 Proを発表する際には、そちらの機能もアピールしました。
―― ブランドとしては、Xiaomi、Redmi、POCOとありますが、現時点ではXiaomiとRedmiがXiaomiというくくりで、POCOはしっかり分かれているような印象です。XiaomiのPOCOというような言い方はあまりしないのでしょうか。
片山氏 現時点ではしっかり分けています。おっしゃるように、RedmiはXiaomiのRedmiという言い方をしますが、POCOではあまりそのような言い方はしていません。あえて伏せているわけではありませんが、サブブランドとして独立した動きをして、SNSもアカウントは分けています。ロゴも併存できないルールになっていて、そこはRedmiと大きく違うところです。
●XiaomiやRedmiよりオペレーションはやりやすい
―― 本格展開で機種数が一気に増えたので、オペレーションがかなり大変になったのではないでしょうか。
鄭氏 POCOはオンライン限定ということもあるので、販売チャネルのバランスや施策を出すときのオペレーションは、XiaomiやRedmiより少しやりやすいですね。そこは部署にもよります。リテール部門はあまり大変ではない一方で、マーケティングは機種数分やらなければいけないので大変というのはありますが(笑)。グローバルのものを極力そのままの形で持ってきているので、開発工数も少ない。そういったことがあるので、数が4倍になったからといって、労力が4倍になることはありません。
―― グローバルに共通していると、足りなくなったときすぐに持ってきて在庫を補充できたり、逆に余ったら戻したりということもしやすくなるのでしょうか。
鄭氏 戻すのは物流コストがかかってしまうのでやりませんが(笑)、そういうメリットはあります。100%同じというわけではないものの、カスタマイズしたモデルより調整はしやすいですね。ただ、グローバルでも人気があるので、調整するためのプールが少ないのですが……。
―― 売れ筋の傾向が違うと調達しやすくなりそうな気もしましたが、そのあたりはどうでしょうか。
鄭氏 傾向は日本と似ています。発売してそんなに時間がたっていないこともありますが、今回のPOCO X7 Proは商品性やプライシング、タイミングが全て当たっています。昨年のPOCO F6 Proもそうですが、グローバルでも人気がありました。どのレンジの商品がというわけではなく、商品性とプライシングなどの総合的な結果になることが多いですね。
片山氏 タイミングもよかったです。こと日本に関しては、新生活の時期で、実際、進学祝いに買ってもらったという高校生の方もいました。
鄭氏 あとは、Xシリーズが日本初上陸だったというのもあると思います。
●アクセサリーを購入できるチャネルは作っていく
―― とはいえ、まだまだ販売数が少なく、店頭にも並んでないとなると、アクセサリーの種類が増えづらそうな印象も受けました。このへんは、サードパーティーに働きかけていくのでしょうか。
鄭氏 ニーズの高いアクセサリーを購入できるチャネルは作っていきます。サードパーティーとも話はしています。
片山氏 iPhoneがいいのはまさにそこで、われわれはまだ難しいところですが、ユーザーの声を聞くと、付属のケース以外のこじゃれたものが欲しいというニーズは確かにあります。純正だけでなく、国内外のパートナーも含めてやっていきたいと思います。
―― 根本的な話になってしまいますが、諸外国と比べると、日本のEC化率は低いというデータもあります。オンライン専用の支障にはならないでしょうか。
鄭氏 全体の規模で10%ぐらいですね。欧州で16%、中国では27〜28%ぐらいなので、そういうところと比べると、確かにオンラインの規模は大きいとはいえません。また、日本は通信事業者の市場が一番大きい。一方で、オンラインのニーズは確実に存在しています。Amazonも数年前からApple製品を販売していますし、事業法の(ガイドライン)改正でSIMフリーを買う人もだんだん増えている印象があります。オフラインで体験してもらい、オンラインで購入するという流れにしていきたいですね。
●取材を終えて:実機を触れるイベントや販路の拡大にも期待
オンラインという身軽な販路を生かし、XiaomiやRedmi以上にタイムリーに展開していくのがPOCOシリーズの特徴。インタビューからは、投入タイミングをかなり強く意識していることがうかがえた。XiaomiやRedmiよりコストパフォーマンスは高いため、より性能のいいスマホをリーズナブルに使いたい人にはいい選択肢が増えた格好になる。
ただ、初物をオンラインで買うのはなかなか勇気がいるのも事実。スマホの場合、操作感などのフィーリングも大事になるため、これからPOCOを知る人にどう訴求していくかは課題になる。この点は、家電量販店などでも気軽に触れるXiaomiやRedmiとの大きな違いだ。不定期で開催しているイベントの頻度は、もっと高めた方がいいような気はした。POCOシリーズを販売するMVNOとタッグを組むなど、さまざまな手を打っていく必要がありそうだ。
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