
どうにかして愛猫の病を治してあげたいのに、できる治療がない時、飼い主は自分の無力さを痛感しながら緩和ケアに励むことも多い。だが、緩和ケア中に飼い主が愛猫にできることは、自身が思っている以上に多いのかもしれない。
【写真】手作りの酸素マスクをつけて、2週間ぶりの抱っこ エリザベスカラーとヘアキャップを使って工夫した
らいあんさん(@allian7)は膝乗り猫だった烈くんが闘病によって酸素室から出られなくなった時、息苦しさを感じにくい「驚きの抱っこ法」で、愛猫の“甘えたい気持ち”を満たした。
譲渡会で迎えた甘えん坊猫が“家族の中心”になった
烈くんは、生後1歳ほどで保護された子だった。TNR(※野良猫に避妊・去勢手術を行った後、もといた場所に戻す活動のこと)を行い、地域猫として生きる予定だったが、道ゆく人に近寄っていくほど人懐っこかったため、里親を募ることになった。
飼い主さんとの出会いは、動物保護団体が主催する譲渡会。烈くんは場の雰囲気に臆することなく堂々としており、ケージの扉を開けると出て行こうとした。その姿に、飼い主さんは笑顔をもらい、お迎えを決意したという。
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お迎え後は、3日ほどで膝乗り猫に。言語は違っても、一挙一動で人間に「愛しているよ」とアピールしてくれた。
「膝の上で寝ている時には、ゆっくり瞬きをしてくれました。寒い日に布団へ誘うと、すぐに入ってきて、喉を鳴らしながら腕枕で眠ることもありました」
家族のことが大好きな烈くんは飼い主さん夫妻のどちらかが外出すると、もう一方はどこにも行かないよう、膝の上に乗り、引き留めたそう。
おうちでは他にも、無邪気な姿をたくさん見せてくれた。特に好きだったのは、かくれんぼ。
「たまに変なところに隠れるので名前を呼びながら探すと、尻尾をピンと上げながら堂々と出てくる。その時の誇らしげな表情がとてもかわいく、大好きでした」
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愛くるしい顔が見たくて、飼い主さんは烈くんが見え見えの場所に隠れている時でも、気づかないフリをして探したという。
また、独特なイタズラをすることも。なぜか、お餅に歯形だけつけ、飼い主さんを困惑させた。
「牛乳を床にぶちまけたり、刺身を奪って逃げようとしたりと、家族が隙を見せると何かするので、常に話題の中心でした」
おもちゃの誤飲を機に判明した「先天性心疾患」
お迎えから数ヶ月が経った頃、1歳半になった烈くんはおもちゃを誤飲し、動物病院へ。すると、心雑音が見つかり、精密検査を受けることになった。
獣医師から告げられたのは、「肥大型心筋症」という病名。心臓の筋肉が厚く変形することで心臓の動きに障害が起こり、体に十分な血液を送り出すことができなくなる病気だ。
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その後、飼い主さんは引っ越しを機に、別の動物病院を受診。すると、肥大型心筋症ではなく、先天的に心臓の弁が形成不全であることが分かった。
その日から烈くんは毎日3種類の薬を服用し、月1回通院するように。4歳の頃には肺に水が溜まる「肺水腫」で入院したが、1週間で退院できた。
「退院後は元気でした。でも、だんだん咳が増えて5歳の頃に再度、肺水腫の治療のために入院することになって…」
その先に待ち受けていたのは、これ以上の治療が難しいという辛い現実。飼い主さんは覚悟を決め、自宅での緩和ケアに移った。
酸素室から出られない愛猫を甘えさせたくて生み出した「驚きの抱っこ法」
少しでも楽に過ごしてほしくて、飼い主さんは酸素室をレンタルして自宅に設置。爪とぎが大好きだった烈くんがストレスを感じないよう、酸素室には大きな段ボール製の爪とぎを敷きつめた。
また、3日に1度は獣医師に往診してもらい、肺に溜まった水を抜いたり、点滴をしてもらったりしたそう。
「ケア期にはお薬を飲もうとしなかったので、1日2回の注射で投薬していました。酸素室の中では首が高いと呼吸しやすそうに思えたため、タオルを丸めてちょうどいい高さの枕にしていました」
そうした配慮をする中でもどかしく思ったのが、烈くんを甘えさせてあげられないこと。
「1日のほとんどの時間を膝の上で過ごしていた子だったのに、酸素室の小窓越しにしか触れ合えなくなってしまったのが辛くて…」
どうにか、甘えさせてあげられる方法はないだろうか。そう思い、獣医師に相談しながら辿り着いたのが、エリザベスカラーに酸素チューブをテープで貼り付け、ヘアキャップ被せた状態で抱っこをするという方法。
「この状態なら長時間、酸素室の外に出てもいいと獣医師に言われ、約2週間ぶりに抱っこできました。烈は、喉をグルングルン鳴らして大喜び。ずっと投薬や注射など、嫌なことばかりしていたのに、まだ私を信用してくれてるのか…と、猫の慈悲深さに感動しました」
抱っこ時、烈くんは飼い主さんを見つめ、ゆっくり瞬きもしてくれたそう。その優しさと愛情深さに、涙が止まらなかった。
「この方法で、10回ほど抱っこできました。烈は、この酸素マスクをつけてトイレに行ったり、好きだった段ボールベッドで爪研ぎしたりと気分転換している時もありました」
一緒に過ごせた4年間の感謝を伝えた「最期の時」
だが、やがて烈くんは苦しそうに呼吸する日が増えた。もう楽にしてあげよう。夫婦でそう話し合い、2024年の年末、飼い主さん夫妻は烈くんを酸素室から出して、そのまま抱っこ。感謝の言葉を伝え続けた。
すると、烈くんはしばらくして眠るように旅立ったという。
烈くんを亡くした後、飼い主さんはしばらくの間、横になることしかできないほど辛かったそう。今でも烈くんを思い出し、ふとした時に涙が出る。
そんな時、心に寄り添ってくれるのが、烈くんの同居猫だったリリちゃんだ。リリちゃんは、烈くんとは正反対で人間嫌い。
「リリは滅多に近寄ってこなかったのですが、烈がいなくなってからは様子を伺いに近くへ来ることが増え、だんだん触らせてくれるようになりました」
まるで、励ましてくれているように感じられるリリちゃんの行動に癒され、飼い主さんは少しずつ立ち直るきっかけを得ている。
「烈と一緒に過ごせた期間は4年間と短すぎましたが、本当に毎日楽しく、烈中心で全ての生活が回っていました。愛した以上に愛してくれて、一生で一番幸せだった時間だと思います」
最期まで家族を愛した烈くんと、最期まで烈くんを愛し抜いた飼い主さん家族。築き上げた固い絆を辿り、いつの日か烈くんはまた飼い主さんの前に姿を見せてくれることだろう。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)