ベラジオオペラ
写真/橋本健 天皇賞・春からスタートした7週連続G1開催もいよいよフィナーレ。15日には、阪神競馬場で上半期のグランプリ、宝塚記念が行われる。
今年の宝塚記念は、例年に比べ2週前倒しでの開催。暑さと雨を回避する意図があったようだが、JRAの思惑とは裏腹に週末の競馬場周辺は降雨が予想されている。
13日午前の時点で、兵庫県宝塚市は土曜朝に雨が降り始め、24時間の降水量は50ミリ近くに達する見込み。日曜日の早朝には雨がやむ予報だが、馬場の悪化は避けられそうにない。
さらに日曜日は気温が31℃前後まで上昇するとみられる。結局、例年とほぼ変わらないムシムシ、ジメジメの“悪天候下”で道悪開催が濃厚だ。そんな悪条件が宝塚記念の波乱の引き金になるかもしれない。
◆道悪で波乱の傾向も
実際に、過去10年を振り返ると、良馬場で開催された5回で1〜2番人気の馬が【3-1-2-4】と悪くない成績だったのに対して、稍重か重で開催された5回は【1-1-1-7】。思い起こせば、重馬場で行われた昨年も1番人気ドウデュースと2番人気ジャスティンパレスが道悪に苦しみ惨敗する中、3→7→5番人気で決着し、三連単配当は9万1680円をつけた。
今年の宝塚記念で1〜2番人気に予想されているのは、大阪杯覇者のベラジオオペラと同レース2着のロードデルレイ。前者は道悪実績もあり、重馬場だった昨年のこのレースでも3着に食い込んでいる。
道悪はむしろプラスに働いてもおかしくなさそうだが、鞍上の横山和生騎手は「極端にマイナスに出ることはないと思いますが、雨が降ったからこの馬にとって良くなるかと言われるとそうでもないのではと思います」とコメントしている。あくまでも良馬場がベターという考えだろう。
一方のロードデルレイだが、こちらはキャリア10戦すべてを良馬場で走っていて、渋った馬場への対応力は未知数。管理する中内田充正調教師も「判断は難しいとは思いますが、力のある馬ですので、何とかこなしてくれれば」と祈るようなコメントを残している。
◆雨より怖い“暑さ”問題
そんなベラジオオペラとロードデルレイにとって、馬場以上に厄介なのが気温の上昇だ。
ベラジオオペラは3歳時に夏バテを経験。秋初戦が12月にずれ込むほど暑さを苦手としている。月別の成績を見ても、11月〜4月の【6-1-0-2】に対して、5月〜10月は【0-0-1-2】。3着だった昨年の宝塚記念は、レース時間帯の気温が24℃に満たない過ごしやすい天候だったことも幸いしたか。今年は当日の気温と発汗量などにも気を配りたい。
対するロードデルレイも「暑い時期があまり得意ではなさそう」と陣営からコメントが出ており、暑さは不安材料の一つ。戦績を見ても寒い時期の方が成績はいい。
◆大阪杯激走の“反動”も
そして大阪杯組の2頭には、前走の反動も懸念される。大阪杯は序盤から11秒台前半のラップが続く厳しい流れ。ベラジオオペラは、4角3番手から1分56秒2のコースレコードで押し切ってみせた。2か月以上の間隔が空くとはいえ、激走による見えない疲れが残っていてもおかしくないだろう。
実際に、前走でレコード勝ちを収めG1に出走してきた馬は、目下6連敗中というデータもある。2023年の天皇賞・秋をレコードで制し、続くジャパンCを連勝したイクイノックスが最後で、その後は2024年日本ダービーのジャスティンミラノ(2着)、今年の大阪杯のシックスペンス(7着)が1番人気を裏切っていた。
◆川田騎手に“距離の壁”
また、ロードデルレイには全く別の不安要素もある。それが鞍上を務める川田将雅騎手の“距離適性”だ。
川田騎手といえば、先週のNHKマイルCで好騎乗を見せ、ジャンタルマンタルを勝利に導くなど“現役最強”と呼ばれるジョッキー。しかし、距離にはやや偏りが見られる。特にG1になると、マイル以下の距離で無類の強さを誇るが、2000m以上のレースではガクンと成績が落ちてしまう。
川田騎手のJRA芝G1距離別の勝率を見てみると、1600m以下の14.9%に対して、2000m以上では5.8%。特に2017年以降は、その差が24.6%と4.6%まで広がるなど、短距離志向がより強まっている。
過去10年の宝塚記念も、2015年に6番人気ラブリーデイで優勝してはいるものの、その後は2019年に1番人気のキセキで2着、2021年は2番人気のレイパパレで3着と人気を裏切るケースが目立つ。競馬ファンの間ではかなり浸透しているが、川田騎手に距離不安があることは覚えておきたい。
◆伏兵台頭の可能性も
雨、暑さ、レコードの反動、そして鞍上……。今年の宝塚記念は、ベラジオオペラとロードデルレイが少なくない不安を抱えているが、実はレガレイラやアーバンシックといった有力馬2頭も稍重までしか経験がない。
重・不良になって果たして実力を発揮できるのか。ここは道悪実績のあるソールオリエンス、チャックネイト、プラダリアといった伏兵を押さえておいても損はない。
文/中川大河
【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。