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米コルゲート大学などに所属する研究者らが発表した論文「Spectroscopic Supermassive Dark Star candidates」は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の最新観測データから、特異な天体「ダークマター星」(Dark Star)の候補を複数発見した研究報告だ。
ダークマター星は2007年に理論的に提唱された天体で、通常の恒星とは根本的に異なるメカニズムで輝く。ダークマター星の構成物質は水素とヘリウム。核融合ではなくその質量の0.1%未満を占める暗黒物質が対消滅することで、太陽の100億倍もの明るさに達するという。
表面温度は約1万度と比較的低温だが、約10AU(地球から太陽までの距離の10倍)という巨大な半径を持つ。この特異な構造により、太陽の100万倍の質量まで成長可能だとしている。
研究チームは、JWSTに搭載している観測装置「NIRSpec」で取得した分光観測データを詳細に解析した。その結果、以前の研究で候補に挙がっていたうち2つ(「JADES-GS-z11-0」と「JADES-GS-z13-0」)の測定されたスペクトルがダークマター星の解釈と一致することを特定した。
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さらに今回の研究で新たにダークマター星候補となる「JADES-GS-z14-0」と「JADES-GS-z14-1」の2つも特定。特に「JADES-GS-z14-0」は、これまでに分光観測で確認できた最も遠い明るい天体だという。この天体のスペクトルには、ダークマター星特有の証拠となる「ヘリウムII 1640オングストローム吸収線」の兆候も検出できた。この吸収線は、通常の星や銀河のスペクトルでは観測されない特徴を持つ。
しかし、ALMA望遠鏡による別の観測では、同じ「JADES-GS-z14-0」から酸素の輝線が検出されたという報告がある。これは金属元素の存在を示唆しており、単独のダークマター星という解釈とは矛盾する。もし両方の観測結果が真実であるならば、ダークマター星が金属に富んだ環境に埋め込まれている、つまり他の天体と共に存在しているという、これまで想定していなかった新たなシナリオを検討する必要もある。
ダークマター星の存在を確認できれば、宇宙初期の2つの大きな謎を解決する可能性がある。第1に、JWSTが発見した予想以上に明るい初期宇宙の高赤偏移天体の説明だ。これらを通常の銀河と解釈すると、ガスから星への変換効率が異常に高い必要があり、星があまりにも効率よく作られすぎている。ダークマター星なら、1つの天体で銀河全体に匹敵する明るさを持っているため、この謎を解決できる。
第2に、宇宙初期に存在する超大質量ブラックホールの起源だ。ダークマター星は燃料となる暗黒物質を使い果たすと崩壊し、100万太陽質量級のブラックホールを形成する。これが成長して、現在観測される超巨大ブラックホールになったと考えられる。
Source and Image Credits: Ilie, Cosmin, et al. “Spectroscopic Supermassive Dark Star candidates.” arXiv preprint arXiv:2505.06101(2025).
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※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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